21_21 DESIGN SIGHTにて、「The Original」展が開幕した。会期は6月25日まで。
「The Original」という展覧会タイトルを聞いただけではピンとこないかもしれないが、本展はそのデザインにおいて、後世に多大な影響を与えたプロダクトを紹介する展覧会。家具や食器、テキスタイル、玩具など、日用品を中心に約150点が展示される。
プロダクトを選定したのは、本展ディレクターの土田貴宏、企画原案の深澤直人、企画協力の田代かおる。出展作品は、3人が企画当初に持ち寄った数百点のなかから、議論を重ねて絞り込まれたものだ。深澤は展覧会の趣旨について、以下のようにコメントした。「何がオリジナルで何がコピーかわからない時代がやってきている。オリジナルなデザインは、作者がやりたいことを実現しただけでなく、生活のクオリティを真面目に考えて生み出されたもの。今の時代だからこそ、優れたデザインを広く皆さんと共有すべきだと思い、本展を企画した。ぜひオリジナリティを探り当ててほしい」。
ギャラリー1では、インテリアデザイナー吉田裕美佳のスタイリングのもと、名プロダクトたちを部屋に置いてあるかのような組み合わせで配置。異なる時代のアイテムでありながら、あたかも同時代にデザインされたかのような統一感が演出されている。
続くギャラリー2では、出展作品の3分の2、約100点のプロダクトを展示。こちらでは、おおむね時系列にしたがって並べられている。年代ごとにキャプションがついているため、こちらを読みつつデザインの背景についても、理解を深められるだろう。
壁面のグラフィックには、写真家ゴッティンガムが撮影した展示品約50点の写真を大きくレイアウト。ゴッティンガムは、グラフィックデザイナーの飯田将平との協働のなかで「三脚を使わずにストリートの感覚で撮影し、トリミングした」という。プロダクトの「オリジナリティ」を知るためには実物を見るのが一番。しかし、写真もまたプロダクトが持つ優れたデザイン性をより際立たせてくれるはずだ。以降では、いくつかのプロダクトをかいつまんで紹介しよう。
ギャラリー2の入り口に置かれているのは、ミヒャエル・トーネットによる曲木椅子《No. 14》。1859年にウィーンで作られ始めた。木材の丸棒を金型にはめて成形する技術によって、椅子の大量生産のきっかけとなったアイコニックなアイテムだ。当時は飲食店などで使われていたいっぽう、現在も複数のメーカーが仕様の異なるモデルを製造している。無駄のない構造とパーツの少なさによって、たんにデザインとしても美しい。
バウハウスで学び、教鞭もとったマルセル・ブロイヤーによる《S 32 V》(チェスカチェア)は、多くの人が一度は見たことがある椅子だろう。キャンティレバー(片持ち構造)を採用したことで、一筆書きのようなフレームの優美さが際立つこの椅子は、実は権利上はブロイヤーのデザインではない。同年代にマルト・スタムによって作られた《S 33》も同じ手法を用いており、1930年代の裁判によって、コピーライトはスタムにあると決定された。
チェスカチェアの横には、アイリーン・グレイによる照明やテーブルが。これらは彼女が南仏に設計した別荘「E1027」のためのもの。ル・コルビジェが彼女の才能を絶賛、嫉妬さえしたというエピソードは、『ル・コルビュジエとアイリーン 追憶のヴィラ』として映画化されたことでも知られている。
レゴブロックも本展に出品。身近すぎて忘れがちだが、乗り物から生き物、風景にいたるまで、組み合わせるだけでなんでも作ることができるレゴブロックは、子供の豊かな創造力を引き出すことはもちろん、大人が遊んでも楽しい、まさにユニバーサルデザインを備えた玩具だ。
本展のメインビジュアルを飾る《ローリーポーリー》は、フェイ・トゥーグッドがデザインを手がけ、イタリアの家具メーカー・ドリアテが2018年に販売をスタートした椅子。大きく丸々とした座面を円柱形の太い脚が支える、ふくよかなプロポーションが印象的だ。
中庭のサンクンコートには、ウィリー・グールによる《スイスパール・ループチェア》が。強化コンクリートの1枚板をループさせ、ラウンジチェアに造形されているが、1950年代当時、こうした一体構造の椅子はほとんどなかった。耐久性に優れたコンクリートという素材によって、ダイナミズムあふれるフォルムと屋外で使える機能性の両立が実現した。
吹き抜けには、ドアノブや座椅子などのプロダクトが展示。このコーナーにあるプロダクトのみ、さわることが可能だ。なかには、哲学者ヴィトゲンシュタインがデザインしたドアハンドルも。プロダクトごとに異なる手ざわりを確かめてみてほしい。
本展の特徴のひとつは、展示作品のほとんどが現行の量産品であること。自宅のインテリア探しにも、もってこいだろう。
ほかにも、アルヴァ・アアルトによるイッタラの花瓶や、ホンダのスーパーカブ、名デザインの椅子が並ぶコーナーなど盛りだくさん。キャプションも豊富なため、プロダクトデザインの歴史を知る絶好の機会である本展。ぜひ会場で、「オリジナル」なデザインにふれてみてはいかがだろうか。