欧米でアフタヌーンティーが社交の場として最盛期を迎えた1870年代から1910年代、当時流行した日本文様が施されたテーブルウェアを中心に集めた「もてなす悦び」展が三菱一号館美術館にて開催されています。本展は、ニューヨーク在住の実業家デイヴィー夫妻が長年かけて収集した膨大なコレクションが美術館のコレクションに加わったことを記念したもので、日本文様が美しい約240点の銀器や陶磁器が展示されています。
まずは「あさがおの間」。
19世紀後半、欧米人の間では、あさがおは日本を代表する花として大変人気があったそうです。数々の美しく色鮮やかなあさがおをモチーフにした工芸品が並びます。
光が透かし台に落ちる影までも美しい「あさがおがモチーフのガラス製品」の中心的存在は、銀製品で有名なティファニーの創始者チャールズ・ルイス・ティファニーの息子、ルイス・コンフォート・ティファニーによるものです。彼は宝飾、ガラス細工の造形にも深く関り名品を残していきました。
「ジャポニスムの到来」を紹介する部屋では当時を描いた雑誌や絵画などの資料を展示。まず目を引くのが美術商、評論家として知られるジークフリート・ビング (Siegfried Bing) 主宰による月刊誌『芸術の日本』の展示。今見てもスタイリッシュな浮世絵画が表紙を飾ります。
当時のジャポニスムの風潮がわかったところで、次は「ジャポニスムの茶会」の部屋へ移りましょう。
見事なテーブルセッティングで、当時のティーパーティーの様子を再現展示しています。取り揃えられたテーブルウェアの数々は、美術品であると同時に、使われてこそ価値がある生活用品でもありました。どのような人々が、どのような会話で時を過ごしていたのでしょうか? 想像するだけわくわくします。当時ここでどんな食べ物が振る舞われていたのか、19世紀のレシピを元に現代風にアレンジしたティーケーキのレシピも紹介されています。
続いての部屋のテーマは「イギリス陶磁器界の創意工夫」。当時の陶磁器の完成までの過程を紹介しています。ミントン社による絵付けのパターンの指示書を、実際に製品化されたカップと比較して見ることができます。イギリスの絵付け職人は、この指示書に従って慣れないジャポニスムの文様を描いて行きました。社交の場としてのアフタヌーンティーは、フォーマルな着こなしで出席するのがマナーでした。そこでホストである家の女性が着ることを許されたティーガウンと室内着。着物の伝統技術がふんだんに施されながらも、ドレスの上から着ることが前提に作られています。驚くべきことに、これらのガウンは当時の日本から外国に向けて輸出されていたのです。
19世紀後半に欧米を魅了したジャポニスム。日本の美意識が芸術、工芸の世界にどれだけ衝撃と影響を与えたのか、改めて実感させられます。細部にまでこだわった可愛らしく、美しい装飾は写真では写しきれません。ぜひ100年前の優雅なひとときの雰囲気を味わいに足を運んでみてはいかがでしょうか。
[執筆者]
takimotoeri:東京出身。武蔵野美術大学卒業後、ディスプレイデザイン会社を経て、渡英。Kingston Universityの大学院でキュレーションを学び、卒業後帰国。デザインに関する展覧会に興味があります。