絵画や写真といったアート作品は「見る」ものだ。私たちは、作品を見て、その背景にあるコンセプトについて考えながら鑑賞したりする。では、アート作品において感触(触感)について考えたことはあるだろうか。
美術館に限らず、アート作品は基本的には「触ってはいけない」ものだ。しかし、今回は、都内で同時期に開催されていた2つの展示で、作品における「触感」が大きな意味を持っていて、とてもおもしろかったので紹介したい。多様化した現代アート作品は、インスタレーションであったりパフォーマンスであったり「コト」を体験する作品が増えた。目に見えるものの記憶や他者と共有できるイメージ同様、他の感覚にも記憶や他者と共有できる感覚というものがあるはずだ。視覚以外の音や匂い、触感や味覚の体感に関して意識的に考えてみると、いつもとは違った作品体験ができるかもしれない。
小方英理子「Dolls」
ふわふわの綿布団の上で寝かされている陶器の人形作品は、とても可愛らしい。それぞれの人形たちは、編み込み模様で覆われている。小方英理子の他の彫刻像にも見られる編み込みはアラン模様である。アラン編みはアイルランドのアラン諸島で海に出る漁師たちが着るものに施される編み方として発展した。機能面としてはもちろん、漁師たちの安全を祈って多様な模様が編まれたという。
今回の展示ではその人形たちを抱きあげることができる。人形たちは生まれたての赤ちゃんほどの大きさだ。持ち上げると感じるずっしりとした重さと編み込み模様の凹凸の感触を通して、感情が高ぶる。陶器の落としたら壊れる脆さに命の力強さと表裏一体の脆さを重ねているようであった。
※ギャラリーの方に声をかけた上で作品に触れてみてほしい。
平野真美「蘇生するユニコーン」
横たわった白いユニコーンの切開された腹からは臓器が見えていて、人工的に“輸血”が行われている。特撮映画初期の造形技術を応用しているという。臓器はシリコンで制作し、骨格からつくったというユニコーンはどこまでも「生き物らしさ」を追求して作られている。最終的に、臓器を体内に戻し、腹を縫合したいと考えているそうだ。
完成したユニコーンが「人工物」としてどのように劣化していくのかということにも興味があるという平野真美。作品の制作過程そのものに、生命とモノの揺らぎの感触がある。
この作品に関しては観客が直接触れられるわけではない。しかし、経験や記憶から想像するシリコンの感触の「内臓っぽさ」や長いしろいサラサラしているようなたてがみ部分、そのような細部の触感が作品のリアリティを補完している。
■展示情報
小方英理子「Dolls」
会場:Hasu no hanaギャラリー
会期:2018年1月14日(日)〜2月4日(日)2月11日(日)まで延長決定!!
時間:月・火・土・日 12:00~18:00、水 15:00~22:00
休廊:木・金
住所:〒146-0091 大田区鵜の木1-11-7
アクセス:東急多摩川線「鵜の木駅」下車1分
入場料:400円
その他:ブローチ、ピアスの販売
ウエブサイト:http://www.hasunohana.net/
平野真美「蘇生するユニコーン – Revive a Unicorn – 」
会場:根津ギャラリーマルヒ
会期:2018年1月12日(金)〜1月21日(日)
住所:〒113-0031 東京都文京区根津2-33-1
ウエブサイト:http://konoike.org/blog/?p=2322