2月24日に始まったウクライナ侵攻以降、美術界からもさまざまな反応が示されている。主だったものを紹介したい。
ICOM(国際博物館協議会)は、ロシアによる侵攻が始まったまさに2月24日、ホームページ上で「ロシアによるウクライナへの侵攻に関する声明」を掲載。ロシア連邦軍によるウクライナの領土および主権侵害を非難するとともに、「武力紛争の際の文化財の保護に関する条約」(1954年ハーグ条約)に基づいて、遺産保護のための国際的な法的義務を順守するよう訴えた。現在、ICOM日本委員会ホームページでは、日本語訳された声明閲覧できる。
ロシアのアクティヴィスト・グループ&フェミニスト・パンクロックバンドのプッシー・ライオットは、2月25日にいちはやくウクライ立ち上げたナ支援のための「ウクライナDAO(Ukraine DAO)」を立ち上げ、プロジェクト開始から40時間で180万ドル(約2億800万円)を調達し、現在は700万ドル(約8億5000万円)を突破しているもよう。2月28日時点の詳細はこちらが詳しい。
いっぽう、メンバーの一人であるリタ・フローレスが、ベラルーシ首都ミンスクで拘留され、ロシアと同盟関係を結ぶルカシェンコ大統領を支援するビデオを録画するよう強要されたというニュースも。フローレスはビデオの録画に同意し、釈放されたという。
モスクワ・ゴーリキー公園内にあるガレージ現代美術館では、2月26日付で同館ホームページ上で「ウクライナで繰り広げられる人的・政治的悲劇が収まるまで、進行中の展覧会作業を中止する」と表明。開催が予定されていたアンネ・イムホフ(Anne Imhof)、ヘレン・マーティン(Helen Marten)、サオダット・イスマイロワ(Saodat Ismailova)の個展、2008年に没したリディア・マステルコヴァ(Lydia Masterkova)の回顧展開催が延期された。
日本からの反応としては、森美術館で開催中のChim↑Pom展「ハッピースプリング」がある。2月26日夕方、「美術館内に道を出現させる」というコンセプトのもと会場内に設えられたアスファルトの道路上で、バングラデシュにルーツを持つモデル・文筆家のシャラ ラジマがウクライナ侵攻の終結を祈るパフォーマンスを実施した。
この道のインスタレーションでは、今後も様々なゲストを招きイベントやハプニングを行い、場を「育てていく」予定とのこと。「#道を育てる」のハッシュタグで、SNS上でその様子を追うことができる。
パリ・オペラ座地区にあるグレヴァン美術館はパリ最古の蝋人形ミュージアムだが、同館に展示されていたプーチン大統領人形が撤去されたと『euronews.culture』が3月3日に報じた。
記事によると、侵攻開始後の週末、ウクライナに抗議する来館者によって人形が破損。美術館側はプーチン人形を撤去し、追ってウクライナ大統領であるゼレンスキーの像に交換する予定であるという。イヴ・デルオモー館長によると、進行中の歴史的事件を受けて展示内容を変更するのは同館にとって初めて。「グレヴァン美術館では、ヒトラーのような独裁者を表象したことはない。今日の状況においても、プーチンを表象したいとは思いません」と語っている。
プーチン大統領の庇護のもと、拡大してきたロシアの新興財閥資本家を指す「オリガルヒ」。その一人である、インターロス・グループ総帥で、エリツィン大統領時代には第一副首相も務めたウラジーミル・ポターニンが、グッゲンハイム美術館の評議員を辞任した。
辞任理由は明らかになっていないが、同館は声明で「ウラジーミル・ポターニンは評議員会に対して直ちに評議員を辞任することを通知した。グッゲンハイムはこの決定を受け入れ、ポターニン氏の美術館への貢献と展示、保存、教育プログラムへの支援に感謝する」と述べ、「グッゲンハイムはウクライナの政府と国民に対するロシアの侵略といわれのない戦争を強く非難する」と付言している。
2001年にソロモン・R・グッゲンハイム財団評議員となったポターニンは、ポンピドゥー・センターへの美術品寄贈後の2007年にフランスの最高勲章であるレジオンドヌール勲章を受賞、またワシントンDCのケネディ・センターにも500万ドルを寄付するなど、世界の芸術文化に多額の資金を提供してきた人物だ。折りしも、3月1日に行われた一般教書演説でバイデン米大統領がオリガルヒへの調査・追及を明言した直後の辞任発表ということもあり、憶測を呼ぶだろう。
サンクトペテルブルグの国立エルミタージュ美術館と提携し、同館のコレクションを数多く展示してきたエルミタージュ・アムステルダムが、ロシア本館と協力関係を解消すると発表した。
過去30年間にわたってロシアとの協力関係を維持しつつ、近年はプーチンの政治姿勢に距離を置いてきた同館は、ウクライナ侵攻を受けて、この距離を保つことが不可能と判断。運営委員会とディレクター陣が今回の決定を下したという。
ウクライナを拠点とする音楽レーベル「Standard Deviation」「Mystictrax」によるコンピレーションアルバム『РАЗОМ ЗА УКРАЇНУ / TOGETHER FOR UKRAINE』のアートワークを、ヴォルフガング・ティルマンスが手がけた。
全利益は、ウクライナ支援の4団体に寄付される予定。対象は、 ウクライナの兵士たちを支援する「リターン・アライブ(Return Alive)」基金、ウクライナ国立銀行の人道支援募金、LGBTQIA+の兵士や人々のための「ウクライナ・プライド(Ukraine Pride)」基金、戦争で被害を受けた子供たちを支援する「Голос Дітей」基金。詳細はこちら。
オノ・ヨーコが、平和を祈る「IMAGINE PEACE」のメッセージを、渋谷、ロンドン、ニューヨーク、ベルリン、ロサンゼルス、メルボルン、ミラノなどのデジタルサイネージで発表。渋谷での展開は、当初の予定を変更し、3月31日まで延長された。詳しくはこちらを。
ヨハネスブルグ出身のアダム・ブルームバーグが、人権と芸術を守るNGO団体「Artists at Risk」と協働し、著名アーティストによるウクライナ支援のためのプリント作品の販売を企画した。参加作家には、トーマス・デマンド、ナン・ゴールディン、マシュー・バーニー、ヒト・シュタイエル、ピエール・ユイグなど、国際的な作家たち40組が揃った。一律200ユーロのプリントは、同プロジェクトのウェブサイトで2022年4月30日まで購入できる。詳細はこちらをチェック。
ウクライナ西部の都市リヴィウで、JRが巨大なタープに少女像をプリントしたプロジェクトを行った。この少女像はウクライナからポーランドへと逃れようとする5歳の少女で、JRとそのチームの行進に、約100名の市民らが加わったという。また、同じ画像と動画を持ちいたNFT販売も進行中だ。同ニュースはこちらから。
このほかにも、先日内容が発表された「越後妻有 大地の芸術祭 2022」でも、ウクライナのみならず世界平和を祈るイリヤ&エミリア・カバコフらのプロジェクトも発表されている。