東京都庭園美術館で「そこに光が降りてくる 青木野枝/三嶋りつ惠」が11月30日〜2025年2月16日に開催される。
青木野枝(1958〜)と三嶋りつ惠(1962〜)は、それぞれ現代アートシーンの第一線で活躍する作家。青木は鉄、三嶋はガラスと、ともにその制作における素材・マテリアルへの一貫したこだわりで知られる。本展はこのふたりが、美しいアール・デコ装飾を持つ旧朝香宮邸を改築した美術館に作品を配置し、新たな視点からこの空間を照らしだす。
キーワードは光だ。鉄とガラス、それぞれが自然の恵みであり、火によってその形を変える。窓の外に見える庭園の木々、色づき始めた葉を染める太陽の光、そしてシャンデリアなど照明が生み出す光と影に、それぞれの作品が呼応し、場所のエネルギーを高めている。「ガラスと金属はとても似ている。熱を与えると溶けて光を放ちながら流れていく」というのは、展覧会マップに寄せられた青木の言葉だ。
「素晴らしいと思いませんか?」。大広間に集まったプレスに、三嶋はそんな第一声から話し始めた。会場からは笑いが起きつつ、本当に素晴らしいと皆がうんうん頷いている。最初の展示室となる大広間に展示された《光の海》(2024)は、無色透明のガラスによるオブジェがずらりと並ぶ作品でその眩さに思わず息を呑む。
「1933年に朝香宮夫妻がこの居間を作られて、きっとこういう感じだったと思うんですね。人を招き入れて喜んでもらう、おもてなしをしたいという空間だったと想像します。この天井のアール・デコと日本の様式が混ざったようなライトに感銘を受けて、ライトが40個並んでいるのに合わせて私も下に約40点の作品を並べました。この空間と現代に放つ光とで対話をしたかった」(三嶋)
鉄を用いて空間に線を描くような彫刻で表現を切り開いてきた青木は、半円形にテラスへと突き出た構造を持つ大食堂に新作《ふりそそぐもの/朝香宮邸―II》を展示。アール・デコ建築が特徴とする曲線美に、地球のような球体状の作品が呼応する。
普段は展示場所に運んだ鉄製のパーツをその場で溶接して作品を完成させるが、今回は建築自体が重要文化財であることから、溶接はせずボルトとナットで接合するなど、その設置にとても気を遣ったという。
「私はアール・デコのようなデコラティブなものより普通の家のほうが好きなのですが、ここでずっとひとりでいて制作していると、どんどん親しみが湧いてきてしまって、この家に住んでいた人がどうやって着替えていたのだろう、ここでこんなことをしていたのだろうと(その暮らしについて)いろいろと思いを巡らせました。
(明治天皇第8皇女で、朝香宮家の)允子(のぶこ)妃がフランス滞在時にアール・デコ様式に触れ、その粋を集めた朝香宮邸を建てますが、そのときの世界といまの時代がかぶるような感じがして。(本館が竣工した)1933年はドイツでナチスが政権を取り、日本が国際連盟を脱退した年ですが、そのような時期に允子妃はフランスと日本とで何度もやり取りをしてこの建物を建てた。その気持ちと、私がいまものを作りたい気持ちが少し重なって、いま私が感じている世界というものを表現しようという気持ちで作ったのがこの大食堂と大客間の展示です」
「いまの世界」というのは、イスラエルやウクライナなどで起きていることを念頭に置いているという。普段は作品に使うガラスは透明なものと決めているが、ここではかつて長崎で制作した作品にだけ使ったことがある赤いガラスを用いている。
「私は父が九州出身で、そのいとこが原爆で亡くなっている。だから長崎でだけ赤いガラスを使いましたが、いまはここで絶対に赤を使いたいと思った」(青木)
さらに2階に上がると、窓から降り注ぐ光を受けて輝く三嶋の作品や、使いかけの石鹸が塔のように積み重ねられた青木の作品などが各部屋に展示され、ここでしか味わえない空間を生み出している。
「そこに光が降りてくる」と題された本展。降りてきた光はここに訪れた人々を内側から照らし、そのエネルギーがまたどこか・誰かを照らす光へと移り変わっていくはずだ。
福島夏子(編集部)
福島夏子(編集部)