「時の海- 東北」プロジェクト実行委員会は、現代美術家・宮島達男の作品《Sea of Time - TOHOKU》を福島県富岡町に恒久設置するため、新しい美術館の建設を進める。
「時の海- 東北」は、東日本大震災をきっかけに始まったアートプロジェクト。震災の犠牲者の鎮魂と記憶の継承、そして未来を見据えた地域再生を目的に、宮島が東北に住む人々や東北を想う人々とともに進めてきた。2015年に構想をスタートし、約3000人との対話を重ねながら作品を生み出している。
宮島は、本プロジェクトについて、「東日本大震災という自然の脅威に対し、何一つ抗えなかった自分へのアーテイストとしての落とし前」だという。《Sea of Time - TOHOKU》は宮島の過去最大規模となり、構想当初から東北の地に恒久設置することを決めていた。
宮島は「それは変化し続ける」「それはあらゆるものと関係を結ぶ」「それは永遠に続く」というコンセプトに基づき、生命の永遠性を象徴するLEDの数字カウンターを用いて、生と死、命について表現し続けてきた。本プロジェクトの中心となる作品では、約3000個のLEDが浅い水盤に設置され、鑑賞者が命や愛する人々を静かに想う時間を提供する。
プロジェクトチームには、建築家の田根剛とグラフィックデザイナーの長嶋りかこが加わる。田根は「Archaeology of the Future(未来の考古学)」をコンセプトに掲げ、場所の記憶を活かした建築を手がける建築家。長嶋は宮島との長年の交流をもとに、思想を視覚情報に翻訳するデザインでプロジェクトをサポートする。
田根剛のメッセージ
「2011年5月、東日本大震災による未曾有の災害の姿を目の当たりにし、その後も何度も足を運びながら、何もできなかった想いを抱え続けてきました。昨年、避難指示解除となった富岡町にはじめて訪れた際、小学校でこどもたちが声をあげて元気に走り回る姿を目にし、彼ら彼女らがこれから生きていく未来を、いまを生きる大人がつくっていく勇気が必要だと強く心が動かされました。富岡のみなさんと共に、未来の場所を考えていく、それが「時の海- 東北」プロジェクトだと思っています」長嶋りかこのメッセージ
「沢山の矛盾が詰まった問題を目の前にして、考えても考えても答えが出ず、多分きっとずっと答えは出ないのだろうと思っています。けれどその答えのなさと葛藤をそのまま提示することは、震災が起きたあの日から今もなお少しづつ形を変えながらも問題は存在していること、それすら忘却されていくかのような日々の刹那に対し、か細く仄かであっても小さな警告灯のように光る灯のようなものになるのかなと思っています」
富岡町は福島第一原発と第二原発の中間に位置し、震災後の復興が進む町。住民登録人口は1万1338人(2024年12月時点)だが、実際の居住者は約2500人。津波被害や放射能除染作業で一度は更地になった地区にも、現在はワイナリーやアートセンターが立ち、スマート農業を活用した地域再生が進行中だ。
海が見える場所への恒久設置を構想していた宮島は、場所を求めて東北の太平洋沿岸を巡るなかで、偶然の富岡町の役場の方との縁から建設予定地に出会ったという。導かれるように訪れ滞在し、多くの人々と交流するなかで、人と場所に惚れ込み土地の購入を決めた。建設予定地は約3万4075㎡におよび、波の音が徐々に聞こえる美しいサウンドスケープを備えている。
波が放つ光や音を前に、作品を通して思い思いの時間を過ごすことができる美術館になりそうだ。開館を楽しみに待ちたい。