1997年、岡本太郎の遺志を継ぎ「時代を創造する者は誰か」を問うための賞として創設された岡本太郎現代芸術賞(創設時は岡本太郎記念現代芸術大賞)。作品ジャンル、年齢、国籍も不問で、日本の主要な美術賞のひとつとして「TARO賞」の名で知られる本賞の受賞者が、2月16日に川崎市岡本太郎美術館発表された。過去の入賞者には小沢剛、大岩オスカール、山口晃、中﨑透、風間サチコ、キュンチョメ、サエボーグらがいる。
今年は大賞にあたる岡本太郎賞をつん、準大賞の岡本敏子賞を三角瞳が受賞。通常は2名程度が受賞するという特別賞は史上初となる10名のアーティストが受賞した。
大賞のつんは1981年福岡県生まれ、成安造形大学を卒業。受賞作《今日も「あなぐまち」で生きていく》は、高さ約4.5mにおよぶ作品で、団地がモチーフ。段ボールの機構の中を覗くと無数のキャラクターが収められている様子が見える。「『あなぐまち』は自分らしく生きられなかった幼少期の自分のためのもうひとつの世界。今回認めらられたことで半生を肯定してもらったようで嬉しい。『あなぐまち』は今後もどんどん広がっていくと思う」と受賞の喜びをコメント。審査員の椹木野衣は「つんさんは人が生きている意味を、ひとりの時間に掘り下げているというのがひしひしと感じられた」と感想を語った。
岡本敏子賞(準大賞)の三角瞳は1988年長野県生まれ、東京藝術大学大学院を修了。受賞作《This is a life. This is our life.》は、ポリエステルの布に無数の人の顔が刺繍された作品だ。川崎市岡本太郎美術館館長の土方明司は「表は人物の顔、裏は遺伝子を表す赤い糸。たんなる入れ物としての肉体を暗示する。薄い布切れに刺繍された無数の『個』が折り重なるように並べられる。表現内容と新鮮な手法、展示方法がうまくかみ合い、説得力を持った作品となった」とコメントを寄せている。
今回、600点以上の作品応募があったというTARO賞。審査員の平野暁臣は「TARO賞は(岡本)敏子さんが創設した賞。敏子さんには既成概念にとらわれない気概のある作家を輩出したいという思いがあった。評価ポイントは新しい芸術を切り拓こうとする気概があるかというその一点。去年は該当者なしでしたが、今年は岡本太郎賞、岡本敏子賞はもちろん特別賞は例年以上の作家が選ばれました」とコメント。
今年の特別賞は、池田武史、長雪恵、小山恭史、クレメンタイン・ナット、月光社、小山久美子、ZENG HUIRU、タツルハタヤマ、フロリアン・ガデン、村上力という史上初となる10名が受賞。個人賞代表として壇上に上がった池田は、デスボイスを轟かせた後に「フリー・パレスチナ」とコメントした。
以下に、審査員の総評を紹介する。
「今年は力が漲っていると感じる作品が多い。岡本太郎賞は“現代芸術”と名がついている通り“現代美術”とは違う。太郎が芸術を好んだのは芸術っていうのは無限の世界に触れることができる唯一のものだからです。今回、その扉を開くものを選びました」(椹木野衣)
「TARO賞は傾向と対策がない賞。去年は大賞、準大賞を出せなくてかなりへこみましたし、賞の行く末を案じました。でも今年は非常にレベルが高く、一次審査から充実していてエネルギーに満ち溢れた作品が多かった」(山下裕二)
「展覧会としてもとてもいいものになってる。今年は入選作、賞を取れなかった人の作品が本当に僅差でレベルが高い」(和多利浩一)
「30倍の難関を通り抜けた、実力伯仲のなか集まった作品たちです。ほかの現代美術の展覧会にないような破壊力のある作品が見られます」(土方明司)
受賞作品展「第27回岡本太郎現代芸術賞(TARO賞)」は2月17日〜4月14日、川崎市岡本太郎美術館で行われる。
野路千晶(編集部)
野路千晶(編集部)