写真家・中平卓馬(1938〜2015)の没後初となる本格的な回顧展「中平卓馬 火―氾濫」が、東京国立近代美術館にて、2024年2月6日〜4月7日まで開催される。中平は、実作と理論の両面において大きな足跡を記した写真家で、森山大道や篠山紀信ら同時代の写真家を大いに刺激し、ホンマタカシら後続の世代にも影響を与えた人物だ。
会場では、初期から晩年にいたる約400点の作品や資料を全5章に分けて紹介していく。近年その存在が確認された《街路あるいはテロルの痕跡》(1977)のヴィンテージ・プリントを初展示。ほかにも、1976年以来展示されることのなかった《デカラージュ》など、未公開の作品も多数展示される。
カラー写真48点組で構成される幅約6メートルの大作で、中平のキャリア転換期における重要作《氾濫》や、中平存命中最後の重要な個展「キリカエ」(2011)で展示されたカラーの大判プリント64点も見逃せない。
当時、社会にイメージを流通させる手段として重要な役割を担っていた雑誌。『アサヒグラフ』や『朝日ジャーナル』など、キャリア前半の1960年代〜1970年代前半にかけて発表された作品の掲載誌も展示される。写真の流通に意識的だった中平が、同時代の社会に対して、写真を用いて何を試みようとしていたのか、その実態が明らかになるだろう。
中平のキャリアは雑誌編集者から始まり、1965年から写真家、批評家として活動を開始。その後1977年の昏倒・記憶喪失とそこからの再起などの劇的なエピソードで彩られている。本展では改めて中平の仕事を丁寧に辿りながら、再起後の仕事の位置付けについても再考してゆく。