東京都写真美術館で「即興 ホンマタカシ」が開幕した。会期は2024年1月21日まで。担当学芸員は伊藤貴弘。
ホンマタカシは1962年東京都生まれ。写真集『東京郊外』(光琳社出版)など、画一的な開発が進む都市の風景を叙情性を排した視点でとらえた写真作品で知られている。1999年、『東京郊外』で第24回木村伊兵衛写真賞を受賞した。著書に『ホンマタカシの換骨奪胎ーやってみてわかった!最新映像リテラシー入門一』(新潮社、2018)、作品集に 『Tokyo and my Daughter』 (Nieves、2006)『THE NARCISSISTIC CITY』(MACK、2016)『Looking Through: Le Corbusier Windows』(窓研究所/カナダ建築センター/Koenig Books、2019)などがある。
国内でのホンマの個展開催は、2011〜12年の「ニュー・ドキュメンタリー」(金沢21世紀美術館、東京オペラシティアートギャラリー、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館)以来約10年ぶり。タイトルを「即興」とした理由として、担当学芸員の伊藤は「部屋をピンホールにして撮影するという手法は、露出などのコントロールが難しい。どういう風景が撮影できるかわからないという意味で、偶然性や即興性が強い」点を挙げる。なお、英語版の「Revolution 9」というタイトルは、偶然性を重視したビートルズの同楽曲に由来しているという。
出展作品は「THE NARCISSISTIC CITY」と「Thirty-Six Views of Mount Fuji」の2シリーズが中心。どちらも「ピンホールカメラ」の技法を用いて撮影されている。具体的には、ビジネスホテルなどの閉め切った一室を写真機の中に見立て小さな穴から屋外の光を取り込むことで、室内の壁に外部の風景を映し出し、印画紙に定着させているようだ。
展示前半に並ぶのは「THE NARCISSISTIC CITY」の作品群。被写体は、国立新美術館や水戸芸術館、ミラノ大聖堂やニューヨークのクライスラー・ビルディングなど名建築が中心。出展作品のひとつのタイトルを借りれば、「建築で建築を撮る」試みだと言えようか。
会場を歩いていると、展示作品に混ざるように壁面に穴が開けられていることに気づくだろう。穴の先には「Revolution」などの文字や数字が映る写真作品や、ピアノなどが配された暗室が広がる。この空間では会期中、不定期でホンマがピアノを即興演奏する。内覧会では、スティールパンの演奏も行われていた。
「THE NARCISSISTIC CITY」というシリーズ名は、フランスの美術史家・哲学者ユベール・ダミッシュの著作に由来する。ダミッシュは都市へ向けられたまなざしを、水面に映る自身の姿に見惚れ、自分だけを愛する呪いにかかったギリシャ神話のナルキッソスのものとして読み解いている。
2シリーズを接続するように、展示中盤では太宰府天満宮に所蔵されている鏡のインスタレーション《Seeing Itself》(2015)が展示されている。本作においては、ホンマはスーザン・ソンタグの「写真とはまず第一に、ものの見方 a way of seeing であって、見ることそれ自体 seeing itself ではない」という言葉を引用。ナルキッソスのように鏡に映る自身を見つめることによって、本作は見ることの機能や意味を私たちに問いかけると言えるだろう。
「Thirty-Six Views of Mount Fuji」シリーズは、様々な視点から富士山をとらえた作品群。葛飾北斎の《富嶽三十六景》に着想を得たという。
『東京郊外』のような、パンフォーカスのカメラレンズによる無機質さとは異なり、本展の出展作ではレンズを用いずに生の風景が映し取られているために、より自然な印象を受ける。その点で、ホンマ作品を見たことがある人にとっては新鮮さがあるかもしれない。他方で、被写体へのまなざしは、以前と同じく冷ややかに思えるほど粛然としたものに感じられた。
回顧展や大規模個展と異なり、ピンホールカメラの2シリーズのみを集中的に見ることができる本展。10月15日まで開催されている「TOPコレクション 何が見える? 『覗き見る』まなざしの系譜」では、歴史的なカメラオブスクラの装置や、ステレオスコープ、キネトスコープが展示されているので、合わせて訪れるとより楽しめるだろう。