大正画壇の異才・甲斐荘楠音の26年ぶり、そして東京の美術館では初となる回顧展「甲斐荘楠音の全貌 絵画、演劇、映画を越境する個性」が、京都に続き、東京ステーションギャラリーでスタートする。会期は7月1日から8月27日まで。
大正期から昭和初期にかけて日本画家として活動した甲斐荘楠音(かいのしょう・ただおと)は、革新的な日本画表現を世に問うた「国画創作協会」の一員として意欲的な作品を次々と発表し、話題になった。しかし閉鎖的な画壇への違和感、また幼い頃から親しんだ舞台芸術、その延長としての映画制作への関心から、かれは日本画の世界を離れて商業的分野へと表現の場を広げていくことになる。本展では、起点である画家としての楠音、その研鑽のなかで異性装に関心を向ける楠音、映画での衣裳・風俗考証に奮闘する楠音など、様々な個性を紹介している。
展示では、舞や歌舞伎からインスピレーションを受けていたことのわかる丹念なスケッチやスクラップブック、名優・市川右太衛門とともに作り上げることになる「旗本退屈男」シリーズの豪華衣裳、そしてかれが活動の場とした絵画団体「新樹社」の第1回展覧会に出品した意欲作《春》がはるばるニューヨークから凱旋、『雨月物語』(溝口健二監督、1953)のために考案し、アカデミー賞衣裳デザイン賞にノミネートされた衣裳も、パリのシネマテーク・フランセーズから海を越えて来日するなど、多くの見どころがある。
また、今回の展覧会に合わせ、7月から8月にかけて東映京都撮影所で撮影された楠音の関わった「旗本退屈男」シリーズの4作品が「東映時代劇YouTube」で無料配信されるとのこと。フィルムのなかに記憶された華やかな衣裳と殺陣のシーンから、楠音の仕事の広がりに触れたい。