宮崎駿監督や故・高畑勲監督とともに、スタジオジブリを語るうえで欠かせない存在であるプロデューサーの鈴木敏夫。
アニメ雑誌『アニメージュ』(徳間書店)を経て、1985年にスタジオジブリの設立に参加。1989年以降はスタジオジブリ専従として、ジブリのほぼすべての劇場作品をプロデュースしてきた。現在はスタジオジブリ代表取締役プロデューサーを務める。
そんな鈴木にフォーカスし、スタジオジブリに迫る展覧会「鈴木敏夫とジブリ展」が、東京・天王洲の寺田倉庫B&C HALL/E HALLにて開催される。期間は7月1日〜9月7日。
本展は2019年に東京・神田明神で開催されたのち、長崎、京都での巡回展を経て、今回は新たに展示品を大幅に増やしバージョンアップして東京に帰ってきたかたちとなる。
先駆けて行われた開幕セレモニーでは、鈴木敏夫氏のほか、映画『千と千尋の神隠し』に登場するカオナシも登場。ここでの鈴木の言葉とともに、本展のハイライトをいち早くお伝えする。
本展は、東京展で初公開となる『千と千尋の神隠し』の大型空間「油屋別館」と、6つの章で構成。
まずは、第1章「四半世紀の原風景〜少年時代の思い出〜」、第2章「東京へ〜激動の大学生活〜」、第3章「アニメージュへの道〜雑誌記者・編集者として〜」、第4章「時代を読む眼〜ジブリとメガヒットはこうして生まれた〜」、第5章「プロデューサーからクリエイターへ〜書家、作家としての多彩な才能〜」。鈴木の歩みと、関わってきたクリエイションの歴史を紹介する内容だ。
「昔から捨てられない性格だったんですよね」と鈴木が語る通り、幼少期から現在に至るまで、残されてきた品々の数に驚かされる。子供時代に作った工作から、学生時代に見た映画のパンフレット、編集者時代に作ったマニュアルなど多岐にわたるものが展示されている。
「探してみたら、幼稚園の帽子や小学校4年生の時に描いた絵なども出てきた。他人から見たらどうでもいいものでも、自分にとっては大切なものなんですね。それらをこうして皆さんに披露することになるとは、思ってもみなかったことです。少し恥ずかしいんですけど。今年で74歳になりますが、このような展覧会を開いてもらえるのはよかったなと思います。年をとるのも悪いもんじゃないと思います」
序盤には、「鈴木敏夫を育んだ『四畳半』」の再現展示がある。幼少期の鈴木少年が大切な時間を過ごした、自宅の片隅の四畳半だ。
名古屋で過ごした子供時代を、鈴木は振り返る。
「住んでいたあたりは繊維の街でした。親父が既製服の製造販売をやっていて、朝から晩まで忙しかった。一緒に遊ぶのが難しかったから、幼い僕にマンガの月刊誌を買い与えた。僕はそれを溜め込んで、繰り返し読んでいました。子供時代に読んだマンガはすごく大事です。そして友達もこの四畳半に集まって、友達のものもここに置かれるようになった。それが今日の僕の仕事につながっているかもしれないですね」
鈴木が子供時代から影響を受けた様々な本とマンガにスポットを当て、名著の数々が自身の思考術へどうつながっていったのかを探るのが、第6章「鈴木敏夫の本棚」。読者家の鈴木が厳選した8800冊を展示する。
「僕らの世代は本が好き。今回の展示において僕から唯一提案したのは、自分の持っている本を1か所に集めて展示してほしいということ。なぜかというと、これまでバラバラに置いてあった本が一堂に会すとどうなるだろう、という期待がありました。それが実現したことは、単純に言って嬉しかったです(笑)」
ウィリアム・モリスの壁紙で囲まれた空間に配されたインテリア・デザインは、なんと鈴木本人が手がけたもの。恵比寿に持つという隠れ家「れんが屋」を彷彿とさせる。ここに並ぶ本は、鈴木をかたち作ってきた知性と創造の源だ。
囲み取材中、記者から「鈴木さんと同様、高畑勲監督、宮崎駿監督も読書家だと思うが、それぞれの本の読み方にはどんな違いが?」という質問があった。
「せっかくだから、そういうことも話しましょうか」と鈴木が語り始めたエピソードは、それぞれの人柄や作風を感じさせる、とても興味深いものだった。
「宮崎駿は特別な本の読み方をする人ですね。いわゆる児童書を彼は読む。月に4〜5冊、多いときは10冊ほど。それがまず基本にあって、新しいものが出るたびに読んできた。ほかには評論も読んでいる。
高畑勲は時代に敏感な人。時代時代において何が起きているのか、それを解明するためにたくさんの本を読んで、さらに人の意見を聞きながら自分の意見を生み出す。
僕は乱読です。体系的な読み方はせずに、惹かれた作家の本は全部読むといったことをしてきた。僕が持っている本を見たある人からは、『いわゆるベストセラーがない。それはプロデューサーとしては珍しいのではないか』とも指摘された。確かにみんなが読んでいるものには興味がないかもしれません」
子供の頃から熱中して読んできたマンガについては、こんなエピソードも。
「子供のときからずっと読んできたのは手塚治虫さん。それと、バロン吉元の『柔侠伝』は、特に繰り返し読んできたという意味ではこの本がいちばんかもしれない。ある柔道家と、そこからあとの世代へと引き継がれる物語で、背景には明治以降の日本の歴史が描かれているんです」
最近の読書量について聞かれると、このような答えが。
「年とともに読書量が減ってきた。昔は一晩に1冊読んでいたが、最近は体力的に難しい。最近は1冊を1週間ほどかけて読んでいます」
『千と千尋の神隠し』の世界観を再現した大型空間「油屋別館」。夏にぴったりの「冷やし足湯」や、湯婆婆と銭婆の“開運・恋愛”おみくじコーナーも。このおみくじは「大凶」が多い、ちょっと辛めのおみくじになっているとのこと。
スタジオジブリと自身の近況については、「宮崎駿が『君たちはどう生きるか』を制作進行中。また宮崎吾朗が中心となって「ジブリパーク」をやっている」とのことで、それぞれに代表として関わっているという。そして、「ジブリはいま、以前のように2年に1本映画を作るということはしていない。だから忘れられないために、いろんな施作をやっています」と続けた。
今年11月には「ジブリパーク」(愛知県)のオープンも控えているスタジオジブリ。鈴木の創造力は、これからも私たちに新しい世界を見せてくれるだろう。
福島夏子(編集部)
福島夏子(編集部)