公開日:2022年11月17日

「スーパー・デラックス」はなぜ東京を離れたのか? 新生スーデラ主宰のマイク・クベック&フィル・キャッシュマンに聞く

今年9月に開催した初コンサートには石橋英子、ジム・オルークが出演!

ライブ中の「スーパーナチュラルデラックス」 Photo by Tsuyoshi Kamaike

約17年にわたって東京を代表するオルタナティブスペースとして愛された「スーパー・デラックス」が、突然の閉店を発表したのは2019年1月のこと。そこから立て続けに同様のスペースがクローズし、東京オリンピック開催を前にして「もはや東京にはオルタナティブがなくなってしまった……」という淋しい気持ちになったのは筆者だけではないはずだ。

蔵の窓辺でプレイするのはDJ Kayo Makino Photo by Tsuyoshi Kamaike

そんなスーデラが、なんと新たなスペースを千葉県鴨川市にオープンしたというニュースが届いた。古民家を改装し、イベントだけではない活動形態で再開するそうだが、その真意をもう少しだけ詳しく聞きたいと思った。代表のマイク・クベック、そして今回から運営に関わるフィル・キャッシュマンへのインタビューを通して、新生スーデラの向かう先を知る。

東京を出て南房総へ

──なぜ「スーパー・デラックス」を千葉県鴨川に移転しようと?

マイク もともとフィルが南房総市を拠点にパーマカルチャーの活動をしていたことも大きいですが、六本木のスペースを閉めた時点で「次は地方に移ろう」と思っていました。東京は嫌いな街ではないけれど、出来ることはだいたいやり尽くしたと感じていたし、東京の猛烈なスピード感や、商業目的でしか成立できない環境にはこれ以上付き合いきれない。そして、イベントスペースを運営するだけじゃなく、未来に何かを伝えられるものをやりたかった。つまり、文化を大きな存在として扱える場所として、鴨川を見出したんです。

改修中の新生スーパー・デラックス Photo by Mike Kubeck
夕暮れの母屋 Photo by Tsuyoshi Kamaike

マイク かつて造り酒屋だったこの古民家は、登録有形文化財に指定されるぐらい古い歴史があり、地域でも大切にされている場所。離れや蔵もあるし、敷地では畑も作っています。この場所でなら、農業、アート、テクノロジー、自然の合流を探れるのではないかと思っていますし、アーティストたちにはある程度の期間宿泊してもらって、滞在制作的なかたちで表現をしてもらいたいと思っています。

──この場所での最初のイベントは石橋英子さん(2022年9月24日)、ジム・オルークさん(同年9月25日)のライブですね。

マイク 忙しい人たちなので今回は3日間くらいしか滞在できないですが、それでも生活する感じは経験してもらえると思っています。

SupernaturalDeluxe Vol.1 Day 1 石橋英子 Photo by Tsuyoshi Kamaike
SupernaturalDeluxe Vol.1 Day 2:ジム・オルーク Jim O’Rourke Photo by Tsuyoshi Kamaike

──フィルさんが行っているパーマカルチャーというのは、いわゆる農業のことでしょうか?

フィル パーマカルチャーとはデザイン学やデザイン手法のことで、農業はそのごく一部です。しかしそれが土台になっているのは確かで、食も環境も農業に影響を受けているし、持続性や文化的な経験を通して、人が安定して暮らしていく方法を見出していく……暮らしの場のデザインがパーマカルチャーです。

──マイクさんとは長年の友人同士とのことですが、移転に伴ってスーパー・デラックスに関わろうと思ったのはなぜですか?

フィル 20代頃は自分もアーティストをやっていて、アートギャラリーを運営したりもしていました。その延長線上に農業や土への関心があって今のような活動があるのだけれど、真実みたいなものを探求する旅のなかでアートや表現に心を動かされていた若い時代を経て、自分に子どもが生まれ、自分を取り巻く環境や世界を見つめるなかで感じているものをどんな風に吸収して表現に変えていけるか、自分の心に近いものをどう表現できるかを考えていくと、持続可能な社会作りや生態系のデザインに関心が寄っていったんです。

入口から会場に向かう道 Photo by Tsuyoshi Kamaike
ライブ会場の蔵 Photo by Tsuyoshi Kamaike
母屋に隣接する「離れ」 Photo by Mike Kubeck

フィル そこで想定していたのは村や学校のような、世界をイチから作ることにワクワクできるような人たちのための場所です。互いに経験や発見をシェアして成長し合えるガーデンのような場所でありたい。でも、その実現には一人の力では限界がある。そこで自分とは違うスキルセットを持っているマイクと一緒に何かを始めてみたら、互いのネットワークが統合されて、新しくてヤバいものができるんじゃないかと思ったんです(笑)。

自分らしくあることで安心感を持てる場所に

──東京から見ると、鴨川はどうしても遠い印象があります。

マイク 来るまではそう思われるだろうなと思っていますが、じつはアクセスが便利なんですよ。東京駅からバスで2時間。すぐそばにバス停があってそこから徒歩10分もかからないぐらい。鴨川シーワールドがすぐそばにありますからね。電車だったら特急電車で鴨川駅まで行って、タクシーやバスを使えばすぐです。イベントも東京に帰れる終演時間をセッティングしているので、日帰りで大丈夫。

──それを聞いて安心しました(笑)。完成までは数年をかけるワーク・イン・プログレスの場所・プロジェクトになるとのことですが、今後の展望は?

マイク いまの世界って、どんどん余裕のないものになっています。新しい体験をするにしても、その多くが急ぎ足で、落ち着いて消化する時間もとれない。そういう状況に対して、音楽やアートといった表現に刺激を受ける場所としてあり、そして美味しいものを食べたり、野菜であれ作品であれ「何かを自分で作ることができた」という実感が持てる、何かに打ち込める場所として育てていきたいです。

SupernaturalDeluxe Vol.1 Day 1 雨の中で踊るマコ・クベック Photo by Tsuyoshi Kamaike

マイク パンデミックを経て、次第に海外から日本にやってくる人も増えていきますが、東京、大阪、京都、場合によっては福岡ぐらいまでは行くけれど、都会だけで旅を終えてしまうのはもったいなくて、もうちょっとディープな日本を知りたいと思う人に対しては、こういう場所を見てほしいとも思いますね。これは日本国内に住んでいる人に対しても同じです。

フィル 僕とマイクは同い年の同級生でちょうど50歳。僕らが若い頃は「なんだか世の中おかしいよね!」なんて疑問からアートってものを探求しはじめて、怒ったり戦ったり、拒否したり批判したりってところから表現が湧き上がってきたものだけれど、そういった感情の反映としてのアートはもはや諦められている雰囲気を感じています。どうしようもない大人や政治家たちに絶望を感じ、自分が何をすればよいのかわからなくて、なんとか答えを探そうとしているような。それはミュージシャンも料理人もきのこの研究者もそう。その感じの根っこにあるのは「この地球をなんとかしたいよね」って気持ちだと思うので、そのための交流をリアルに出来る場所でありたいですね。

SupernaturalDeluxe Vol.1ではPermaculture Design Courseのスタッフによる、ゆるベジ料理のケータリングも行われた Photo by Tsuyoshi Kamaike
鴨川で切り出した竹に収めたお弁当 Photo by Tsuyoshi Kamaike

フィル パーマカルチャーには、わかりやすい循環があります。人が生きていくために必要な水や土が循環して人を支えるシステムが存在して、それが提供される。そういう場所で表現したり交流したり、遊んで笑って楽しむ体験って、不思議な心地よさがある。自分らしさが湧き出てきて、安心感が持てる。そして安心感の先では、この地球という惑星の仕組みが本当によくできているんだと感じることができて、そしてその一部として生きている人間をよい存在だと考えられるようになれると思うんです。よくわかんないこともあるけど生きててよかった、お前が言ってることに賛成しないけど、会話できるだけでもいいよね、っていう感じ。

マイク その感覚は、自分がやってきた実験音楽とすごく近いと感じます。でも音楽がアブストラクトだとすれば、フィルが言っていることや生き方はもうちょっとだけリアル。そういうなかで生まれる表現はきっと最高なはず。

──最後の質問です。スーパー・デラックスの名前はこれからも引き続き使っていきますか? 連続性はありつつも、かなり異なる活動形態になるのだなと思ったので。

マイク 正式名称を何にするかは正直悩んでいますけど、ひとまず音楽イベントは「スーパーナチュラルデラックス」でいきます。やりながら考える感じでしょうか。「完成しました。ハイ、これです」じゃなくて、いろんな人からフィードバックをもらいながらやっていきたいですね。そうそう。「スーパーナチュラル(超常的)」って言葉がありますけど、そういう要素も個人的には好きだから、何か異次元的で、文字数が多くない名前もいいですね。この場所を使っている人たちから自然に名前が出てきて、それが定着したりすると素敵かな。

ライブ会場となった酒蔵の昼間の景色 Photo by Koji Hachisu

オルタナティブが困難な時代に、自らオルタナティブを作るということ

東日本大震災が起きた2011年にも東京を離れ地方に拠点を移すクリエイターやアート関係者は多くいたが、約3年にも及ばんとする新型コロナウイルスによるパンデミックでも、多くの人々が生活の場所・かたちを変えて新しい生き方を模索しはじめている。スーパー・デラックスが東京を離れることを決めたのはそれよりも少し前ではあるが、時代が変わっていく予兆のようなものをマイク・クベックらは感じていたのだろうという気がする。

かくいう筆者も、約6年前に東京から京都へ移住し、そして昨年からは大分県別府にも拠点を持つという多住生活を選んだ。そんな個人的な経験もあって、スーデラの新たな選択には小さくない共感を持っている。大都市のオルタナティブが困難であるならば、自分でオルタナティブを作っていけばいい。そういうマインド。

さて、今後もスーデラではイベントが多数予定されている。今年12月17日には、「SupernaturalDeluxe Vol.3 Day 1:Joe Talia|日高理樹|Konrad Sprenger」。翌日の18日には「Day 2:カフカ鼾(Jim O’Rourke、石橋英子、山本達久)」が開催される。東京の落ち着かなさからいっとき距離を置いて、千葉の海辺へと足を運んでみてはどうだろう?

鴨川 SupernaturalDeluxe【仮】

住所:千葉県鴨川市西町1040
主なアクセス:東京駅より高速バスアクシー号(東京駅八重洲口→鴨川シーワールド)で約2時間(料金2500円)。鴨川シーワールドを下車し、徒歩約10分
※詳細はホームページよりご確認ください
https://super-deluxe.com/

島貫泰介

島貫泰介

美術ライター/編集者。1980年神奈川生まれ。京都・別府在住。『美術手帖』『CINRA.NET』などで執筆・編集・企画を行う。2020年夏にはコロナ禍以降の京都・関西のアート&カルチャーシーンを概観するウェブメディア『ソーシャルディスタンスアートマガジン かもべり』をスタートした。19年には捩子ぴじん(ダンサー)、三枝愛(美術家)とコレクティブリサーチグループを結成。21年よりチーム名を「禹歩(u-ho)」に変え、展示、上演、エディトリアルなど、多様なかたちでのリサーチとアウトプットを継続している。