公開日:2024年5月3日

アフリカと日本をアートでつなぐプラットフォーム。東京・南青山に「space Un」がオープン

こけら落としの個展を行うのは、セネガル人アーティストのアリウ・ディアック。4週間にわたり奈良県吉野で滞在制作を行い、ふたつの異なるカルチャーやエネルギーの融合をタイトルに込めた個展「Anastomosis(アナストモーシス=吻合)」を開催する。会期は7月18日まで

会場風景 撮影:筆者

2024年4月20日、南青山に新たな芸術文化のプラットフォームspace Unがオープンし、1987年生まれのセネガル人アーティスト、アリウ・ディアックの個展「Anastomosis(アナストモーシス)」がスタートした。

会場風景 撮影:筆者

神戸、パリ、ベルリンを拠点に活動するコレクターであり、アフリカの伝統から生み出される多様なスタイル、技法、文化的表現とのリンクを感じられる現代アートに高い関心を持つ創業者のエドナ・デュマ。2008年からアフリカ現代アートの収集を開始し、日本に留学したことをきっかけに日本とアフリカをアートでつなぐことができないかと考え始めたという。デュマは次のように語る。

創業者のエドナ・デュマ 撮影:筆者

「日本の大学に留学してとても素晴らしい時間を過ごすことができたのですが、同時に、日本の人々にはアフリカは遠い地域──地理的にも心理的にも──だという先入観があることも感じました。私の大好きな両方の文化を結びつけるには、どのような方法があるか。そう思案したときに、ユニバーサルな言語であるアートが有効ではないかという考えが生まれました」

日本でアートスペースを運営するアイデアを長く温め、およそ1年前より具体的な構想を開始。俳優でアーティストでもある中野裕太、ベルリンを拠点にアートとファッションのメディアを運営するロータ・エックシュタインを共同創立者として迎え、建築家の長谷川豪とどのような空間にすべきかディスカッションを開始した。

左からロータ・エックシュタイン、エドナ・デュマ、中野裕太 撮影:筆者

「アフリカ原産で日本の環境にも合う植物を揃えた庭に囲まれ、外からの豊かな光が入る空間をまず考えました。カフェも併設することで、窓際のベンチに腰掛けてコーヒーを飲みながらアートを鑑賞できる。青山にやってきた人々や地元の人々が、気後れすることなく入ってこれるアート空間を考えました」

既存の鉄骨梁をヒノキで覆い、その間に膜照明を仕込むことで天井面を「巨大な障子」に見立てるアイデアで空間を設計。全体が柔らかな光で包まれ、居心地良い空間でアートを通しての豊かなコミュニケーションが生まれる。

会場風景 撮影:筆者
アリウ・ディアック 撮影:筆者

こけら落としの個展を行うのは、セネガル人アーティストのアリウ・ディアック(1987年生まれ)。幼少期より自然や動物に興味を持ち、その形や色、質感を観察しながら描写を行ってきた。ダカール国立芸術学校で様々な絵画手法を習得し、現在はアフリカ各地やヨーロッパで作品の発表を続ける。ベルリンのギャラリーで開催した個展にデュマが訪れ、作品を気に入ったことから今回の招聘が決まった。ディアックは4週間にわたり奈良県吉野で滞在制作を行い、ふたつの異なるカルチャーやエネルギーの融合をタイトルに込めた個展「Anastomosis(アナストモーシス=吻合)」に作品を出展した。

吉野のレジデントスペース「吉野杉の家」は、建築家の長谷川豪、Airbnb、吉野郡吉野町の三者で運営 撮影:西岡潔
吉野での制作風景 撮影:西岡潔
吉野での制作風景 撮影:西岡潔

アフリカで古来、薬草として使用される植物から抽出した顔料で作品を描くディアックは、今回の滞在制作について次のように話す。

「私は目を閉じて自然のなかを歩き、そこで聞いた音、感じた空気をもとに作品制作を行います。森がどのように生まれ、そこに人間が関わってきたのか。そうしたことに思いを馳せ、自然とともに作品を制作するようなプロセスを想像してください。そうして生まれた作品に近づいて見てもらえれば、作品との距離が縮まり、同時に自然との距離もなくなり自分がその一部であることを感じてもらえるはずだと考えています」

来日した家族らとともに 撮影:筆者
会場風景 撮影:筆者

年間に15点から20点ほどの作品を制作するのが普段のペースだというが、吉野の森では豊かな自然から多くのエネルギーを受け取り、4週間の滞在期間で個展に出品した6点を仕上げることができた。

「吉野では、地元の人と多くの交流を持てたことも貴重でした。吉野の人々が自然と共生していることにも強く共感し、感銘を受けました。林業においても、自然から木材を享受し、同時に土地を整備して植林することで長い共生のサイクルを生み出してきたこともわかりました。通常は作品を額装しませんが、今回は吉野の職人にヒノキを使って額を作ってもらいました。地元の皆さんと仲良くなり、意識を共有できたことでコラボレーションが生まれたと感じています」

会場風景 撮影:筆者

これからspace Unでは1年に4度、アフリカからアーティストを滞在制作に招き、作品展に加えてワークショップやトークイベント、パフォーマンスなどを企画していく予定だと創業者のデュマは予定を語る。「アートで日本とアフリカのカルチャーを結ぶプラットフォームを築きあげる」ことを目標に続ける活動を追いかけていきたい。

space Un外観 撮影:筆者

中島良平

中島良平

なかじま・りょうへい ライター。大学ではフランス文学を専攻し、美学校で写真工房を受講。アートやデザインをはじめ、会社経営から地方創生まであらゆる分野のクリエイションの取材に携わる。