公開日:2008年8月11日

[ SKIPシティDシネマ映画祭 ] ジャン・ルイ・ミレジ インタビュー

国際コンペティション 長編部門 審査員特別賞受賞作品「リノ」監督

7月19日から27日の9日間に渡り開催されたSKIPシティ国際Dシネマ映画祭2008。
最終日には、長編・短編コンペティション部門の授賞式が行われ、無事閉幕を迎えました。海外75カ国、693作品の応募があった長編部門(国際コンペティション)はプロデューサー、ダニー・クラウツ氏、300作品の応募があった短編部門(国内コンペティション)は俳優、高嶋政伸氏を審査員長に迎え審査が行われました。
>>受賞結果はこちらから

監督インタビュー第一弾は長編部門において審査員特別賞受賞、ジャン・ルイ・ミレジ監督にお話を伺いました。

脚本家として長いキャリアをもつフランス出身のミレジ監督。今回自らがメガホンをとった受賞作品「リノ」は若い恋人の死を境に、残された血のつながらない2歳の男の子リノの世話を引き受けなくてはいけなくなった丸いおなかの中年男性が主人公。くったくのない笑顔で「パパ」への愛情を表現する子どもにとまどいながらも、確かな愛情が芽生えていく姿を、やわらかなひかりの中で穏やかな音楽にのせて描いた作品です。

— 役者の男の子も脚本の設定と同じくまだ2歳ということですが、幼い子どもを物語の主要人物として撮影を進行するのは行動の予測ができず難しいと思います。
シナリオは最初からできていたのですか?

物語の骨組みはできており、大人同士のシーンはすぐにシナリオ書きし撮影に入りました。しかし子どもとのシーンをどのように表現していくかは撮影に入った段階からつめていきました。

© ジャン・ルイ・ミレジ   2008年/フランス/83分
© ジャン・ルイ・ミレジ 2008年/フランス/83分

— 主人公の男性は監督自らが演じ、子どもは実の息子さんですね。
なぜ今回幼い彼にスポットをあてたストーリーに取り組まれたのでしょうか。

今回「リノ」を撮影しようと思い立った理由は、2歳の歳を生きる息子リノに興味をもったのでこの年齢のときに撮影し残したいと思いました。
子どもをもつということは大変なことであり、子どもを愛するということはとても大変なことです。男性が子どもから受ける愛にとまどう、この難しいシチュエーションを表現したかったのです。
与える愛、受け取る愛、その双方向の関係性をもっていると思うんですよね。そして愛されるより愛するほうが簡単だと思います。子どもが与えてくれる愛は他に類をみないものだと思っています。

— 私はまだ子どもをもったことがないからなおのこと、無垢の愛を表現してくる子どもに戸惑いを見せる男性の姿は、女性の自分自身にも重なりました。映画の中では、子どもが親に愛を伝えようとするまさに純粋な姿が描かれていると感じました。

そのように描けているなら幸いです。

— さて、今回はデジタルメディアで撮影された作品を対象にしたコンペティションでした。
フィルムではなくデジタルメディアで撮影するということについてはどのようにお考えですか?

まず、経済的な側面では資金的なことを考えるとフィルムでは今回制作できなかったと思います。

つぎに、芸術的な側面から述べますと、デジタル撮影ということでしばしば制約がうまれます。
しかし、私はこの制約をプラスにとらえなくてはいけないと考えています。
フィルムは光に対してしなやかに反応するのが特徴です。光のコントラストを美しく再現します。

— 今回の撮影ではその違いはどのように現れていますか?

例えば今回の映画では、窓際で男性がズボンをアイロンでプレスしているシーンがありますが、デジタル撮影した場合、窓の向こうの景色はぼやけてしまい、何があるかわからなくなってしまっています。しかし私はやわらかい印象の映像も好きですし、ここには大きな表現の自由があると思っています。

また撮影にも時間がかからないので、今回のような幼い子どもを撮影するにあたっては、時間の利点とまた、カメラも小さいので自然に撮影できたのでよかったです。

— 不都合なことは特にありませんでしたか?

今回に関しては不便に感じることはありませんでした。
映画というのは、限られた資金の中で制作しなければいけないのですが、だからといって資金があった場合どのような映画になったかは想像できません。

— 映画をつくるということは、監督自身にとってどういう意味をもつことなのでしょうか。

すごく難しい質問ですね。
私は映画づくりに大きな情熱をもっています。これまで私は自分自身が語りかけることはある人には興味をもっていただけるにちがいないと信じてきました。
脚本を書いたり、映画を撮影したり、私の人生はそれらを抜きに考えることはできません。

— 抽象的な質問になると思うのですが、監督にとって映画づくりというのはアートですか?

この問いは私自身もよく考えます。
ただ、私は絵画や書籍といった表現活動と映画づくりは同じレベルにおくことは難しいと思っています。
映画というのは、芸術性をもっているのと同時に経済性ももっています。そのため、その経済性からうまれる問題が芸術性に悪影響を与えるのではないかと思っています。

今回の「リノ」のような低予算映画はより芸術的な分野に近いのではないかと思っています。
映画は多くの人や技術者が関わってくる表現活動であって、例えば画家が一枚のキャンバスにむかうこととは異なるものではないかと思います。


— 最後に今回の映画祭に参加されての感想をお聞かせください。

様々な映画祭に招待していただく機会がありますが、このようなあたたかい歓迎を受けたのははじめてでした。
しかし、私がこれまで見てきた映画祭はもっと若い観客が多かったので、今回年齢層が高いことに驚きました。他の映画祭は学生が多く、大方30代までくらいの方が多いと感じています。
非常に質の高い映画祭だと思うので、今後もっと知名度があがっていってほしいと思っています。

作品の中ではリノくんをものすごい剣幕で怒鳴り泣かせるシーンも演じたミレジ監督。目尻のさがるやさしい笑顔はもっぱら観客をとりこにさせたキュートなリノくんのお父さんの顔でもありました。
審査員特別賞受賞おめでとうございました。ありがとうございました!

映画祭事務局提供

Rie Yoshioka

Rie Yoshioka

富山生まれ。IAMAS(情報科学芸術大学院大学)修士課程メディア表現研究科修了。アートプロデューサーのアシスタントを経て、フリーランサー。エディター、ライターとして活動するほか、展覧会企画、アートプロジェクトのウェブ・ディレクションを務める。yoshiokarie+tab[at]gmail.com