これらの言葉はそれぞれ「表面」と「構造」の隠喩として、あらゆる分野の言説に見出すことができる。なかでも「建築」と「ファッション」はその最たるものだろう。実際、ある意味で人体の延長線上に存在する両者を「皮膚」と「骨」という二つの言葉で語ることは、現代のわれわれにとっていささかも不自然なことではない。
国立新美術館で開催中の「スキン+ボーンズ―1980年代以降の建築とファッション」は、その名が示すように建築とファッションにおける「皮膚(SKIN)」と「骨(BONES)」を主題として構成された企画展である。本展の構成が示すように、元来多くの共通点をもっていた建築とファッションという二つの分野は、1980年代頃を境としてより高次の交錯をはじめる。ここで時代が1980年代以降に限定されているのは、おおよそこの時代を大きな転回点として両者が大きな技術的変化を遂げたからである。
展示の流れに沿いながらそのことを確認していこう。「1:共通の概念」では建築とファッションの本質的な共通項として「アイデンティティ」「シェルター」「創造的なプロセス」の三点が挙げられている。つまりそこでは、(1)建築とファッションが個人から集団レヴェルまで、さまざまな段階のアイデンティティ形成に重要な役割を担うということ、(2)両者とも、外部の環境から人体を保護するシェルターの役割を果たすということ、(3)いずれも、「平面から立体へ」という同一のプロセスを経て生み出されるということが確認されている。この第一部ではアレキサンダー・マックイーンやジャン・ヌーヴェルらによる約30点の作品が展示されているのだが、なかでも「シェルター」パートに展示されているヴィクター&ロルフの《ロシアン・ドール》の装甲具のような佇まいがここではとりわけ目を引く。
それに続く「2:形態の生成」は、かつて建築に固有のものであった「幾何学」と、同じくファッションに固有のものであった「ヴォリュームの構築」が、相互に共有されるようになった過程をさまざまな例によって示している。かつてファッションは身体を覆うというその性質上、幾何学的なフォルムを避ける傾向にあった。しかしジュンヤ・ワタナベ・コム デ ギャルソンのワイヤー入りドレスに象徴されるように、現在においてそれは必ずしも自明のことではなくなっている。他方、建築においてヴォリュームを構築することは従来技術的な観点から困難であるとされていたが、これも今や技術的な進歩によってほぼ覆されている。こちらでは、伊東豊雄の《ゲント市文化フォーラム》や《台中メトロポリタン・オペラハウス》などをその代表例として挙げることができる。
こうした両者の交錯がさらに細分化されて提示されているのが、「3:構成の技法」である。「スキンの構造化」「構築/脱構築/再構築」といった10のパートからなるこの第三部こそ、まぎれもなく本展の核をなす部分であると言えるだろう。アイゼンマンの《コーラル・ワークス》とマルタン・マルジェラのスカート、坂茂の《カーテンウォールの家》と山本耀司のドレスなどが併置されている様子は、80年代以降の建築とファッションの並走に焦点を定めた本展ならではの光景である。
「4:両者の融合」では、ここ数年に見られる建築とファッションの「融合」の具体的な例がいくつか紹介されているが、それ以前のパートを経由した鑑賞者は、こうした顕在的な「融合」の背後に「建築」と「ファッション」のさらなる潜在的な影響関係が存在するということにすでに気づいているはずだ。繰り返すが、古来よりその機能や役割において多くを共有してきた両者は、1980年代以降に顕著になった技術的な進歩を経ることによってますますその関わりを深めつつある。現代の「建築」と「ファッション」の並行的実践の背後には、両者の媒介を可能にしてきた「技術」の進歩が常に存在しているのであり、そうした意味で本展の第三の主題はほかならぬこの「技術」そのものであると言えるかもしれない。