所狭しとビルやマンションが建ち並び、その合間をぬうように道路や電車、地下鉄が走る。いつもどこかで工事が行われ、仮囲いや看板が現れては消え、風景が刻々と変化し続ける大都市・東京。この街で、公共空間や路上を舞台にアートプロジェクトを展開するSIDE COREが、初めての大規模な個展「SIDE CORE 展|コンクリート・プラネット」を開催している。会期は8月12日〜12月8日。
会場は、2017年の「Reborn-Art Festival」(宮城県石巻市で開催)から、幾度となくコラボレーションを行ってきたワタリウム美術館だ。これまでの集大成のような位置づけで企画された。
開幕に先立って開催された記者発表の際、和多利恵津子館長は「SIDE COREのこれまでの活動を改めて見つめるだけではなく、東京のいたるところで加速度的に再開発が進み、“そこにしかない街並み” が様変わりしているいまこそ、個展を開催すべきタイミングだと考えました」と話してくれた。
SIDE COREは、2012年に活動をスタート。都市の独自な公共性や制度を紐解き、思考の転換や隙間への介入、表現やアクションの拡張を目的に、ストリートカルチャーを切り口として「都市空間における表現の拡張」をテーマに作品を発表してきた。
直近でも、「百年後芸術祭」(2024年、千葉、木更津市/山武市)、「第8回横浜トリエンナーレ「野草:いま、ここで⽣きてる」」(2024年、横浜市)や、「奥能登国際芸術祭2023」(2023年、 石川、珠洲市) 、「六本木クロッシング2022展:往来オーライ!」(2022 年、森美術館、東京)など、多数の展示を行っている。
本展は3つのキーワードで構成されている。まず鑑賞者を迎えるのは2階「視点」のセクションだ。主に路上のマテリアルを用いて都市のサイクルをモデル化する立体作品など、10点近い新作が並ぶ。
エレベーターを降り、広がる視界の色彩に違和感を感じながら進むと、立体交差する首都高速のように、鉄パイプがぐるぐると広がった吹き抜けの空間が現れる。と、突然、上階からゴロゴロと音がして、パイプの中を何かが転がり落ちてきた。
《コンピューターとブルドーザーの為の時間》は、反響して話し声を遮るほどの音量に、つい、音の出どころを目で追ってしまう音響彫刻作品。都市の中で当たり前に存在している電柱やマンホールの中、橋なども、実は音を発している。意識しないと聞こえない、都市インフラが発する音がテーマだ。
ちなみに転がり落ちてきたのは、ピンポン玉くらいの大きさの陶の球体だった。「いろいろと試して、これが良かった」(松下)そうで、出口からコロンと現れる瞬間まで、見えない球体を探しながら耳をすます、という行動をとってしまうのもユニークだ。
空間全体を、LEDに切り替わる以前の車のヘッドライトが眩しく照らす。フロア中央でゆっくりと回転する壁面にコラージュされた、工事現場で見られるピクトグラムの看板がキラキラと反射する様子も、つい目で追ってしまうだろう。
また、高須が手がけた陶作品《柔らかい建物、硬い土》は、建築から日用品まで、幅広いモチーフが選ばれている。焼き物は人類が最初に作った産業廃棄物と言われるが、本作は、朽ちることなく出土する土器は都市の破片でもあり、人がつくった都市の記憶も社会に残り続けることを示唆している。
そして、かつて同館でナムジュン・パイクが使ったという、小型のブラウン管テレビに映るのは、ワタリウム美術館周辺などに点在する風景を、ポートレイトのように集積した映像だ。
このフロアで展開されている作品群は、音や匂い、そしてかつて存在していた風景など、いま目の前に“見えていないもの”を想像し、これまでと異なる視点や感覚から都市の有り様が浮かび上がるようなきっかけになり得るだろう。
3階は、コロナ禍で最初の緊急事態宣言が発出された2020年4月、無人の渋谷の街で撮影された《empty spring》など、都市の状況やサイクルの中に介入した表現の映像や写真作品を紹介する、「行動」のセクションだ。
新作《unnamed road photographs》は、SIDE COREのメンバーが2017年頃から携帯電話で撮影した写真を、光の点滅によって見えたり消えたりするメディアで展示している。普段からスマートフォンやSNSを通じて、“写真を動かしながら見ていること”に着想を得た作品だという。
また、2022年にトンネル内で撮影された映像作品《untitled》は、まるで白い線を描くように、トンネルの壁に肩を擦りながら歩く様子を通して、人間の身体が都市のディテールをとらえていくものだが、テーマの異なる2つの作品が同じ空間に展示されることで、不思議とどこかでつながっている世界にも見え、新鮮さを覚えた。
そして4階「ストーリーテリング」のセクションは、東京の地下空間をスケートボードで開拓していくプロジェクト《under city》の最新版などを展示する。
とくに、天井や前後、床などに置かれた5つのモニターで展開する《under city》は、映像と音響からこれまで以上の迫力や臨場感を感じられた。なお、一見すると、法律やルールに反し、ゲリラ的に撮影したかのような本作だが、シビック・クリエイティブ・ベース東京(CCBT)の協力により、東京都との間で然るべき交渉と必要な許可を得て、綿密に準備を行ったうえで制作されている。
屋内・屋外を問わず活動してきたSIDE COREだが、本展でも美術館の外に作品を展開している。
館が面する外苑西通りを挟んだ向かいの敷地には、2023年の「奥能登国際芸術祭」で発表した風見鶏の作品《blowin‘ In the wind 2023》を設置。都市で再展示することを重要視していたという本作は、奥能登の海岸線から山を望んで見えた、都市へ送電するための風力原動機から着想したからだ。
また、ストリートカルチャーのアイコンの一つであり、SIDE COREの作品にも度々登場してきた《ねずみくん》が、今回も屋外のどこかに展示されている。
そして、9月から年末頃までの予定で、大規模なメンテナンス工事を予定している同館。ファサードを覆う20×20メートルもの大きな工事幕にも、SIDE COREの作品が登場する。あわせてバリー・マッギーとオスジェメオスの作品も掲載されるそうだ。期間限定のコラボレーションを楽しみに待ちたい。
都市に暮らしていると、どこか身体的な感覚が鈍っていくような気がする。しかし、本展を巡るうち、都市にも五感を刺激する要素が点在していることに気づかされるだろう。
見慣れている風景や、これまで気にもとめなかった場所が気になり始めたら、本展の会期中に開催される、SIDE COREとの街歩きツアー「night walk」の参加をお薦めする(事前予約制・有料)。そして日常でも、SIDE COREが大切にしている「実際にその場を訪れてみること」を実践してみてほしい。
Naomi
Naomi