か、かわいいぃ〜〜!!!(涙)
奥歯を噛み締めながら心の中で何度も叫んだ。資生堂ギャラリーで開幕した「オドル ココロ」展である。
資生堂が明治初期から2010年代までに世に送り出してきた数々の製品。そのなかから、心躍らせるパッケージデザインと広告デザインというクリエイティブワークを紹介するのが本展だ。会場には開発担当者やデザイナーたちの遊び心やチャレンジ精神が発揮された200点以上に及ぶ商品と、広告約70点が映像で紹介される。
会場には時系列順にセレクトされた商品が並び、それぞれの発売時の時代的背景の参考になるよう、壁には簡単な社会の変遷を記した年表がある。
数々の名品を生み出してきた資生堂だが、本展で紹介されるのは、「明るさ、軽やかさ、ビビッドさ、ユーモア、遊び心、親しみやすさに加えて、未来的/Futuristicなイメージ」(公式サイトより)を持つものたち。実際、ポップであり、それぞれの困難さを抱えた各時代において、使う人を元気づけ、気持ちを弾ませるような商品が並んでいた。印象的な展示台の造形は、気鋭の建築コレクティブGROUPがデザインを担当。
どれも素敵だが、ここでは筆者がとくに気になったものをいくつか紹介したい。
最初に登場するのが、フェミニンなガラス瓶とリボンが愛らしい「オイデルミン」(1897)。化粧品事業に進出した資生堂が最初に製造販売した化粧品のひとつ。その横にあるのは初めて「花椿」の名を冠した人気商品だ。
「着色福原粉白粉七種」(1917)は、白色の白粉が主流だった時代に7色展開で画期的な商品。それぞれの顔や好み、服装、シチュエーションなどによって選べるので、現代的に言うと「私らしさ」を表現できる白粉だったのだろう。
青いパッケージに白ばらのあしらいがかわいい「白ばら洗粉」(1938)。第二次世界大戦開戦前年、こうした「贅沢品」と思われるような商品は、この後発売が難しくなっていっただろう。
戦後間もない頃の化粧品。小さいパッケージがシンプルながらかわいい。つらい時代を生き抜いた人々も、これをつけるときには少し気分が高揚したのではないだろうか。いま筆者が毎日胸を熱くして見ている『虎に翼』の寅ちゃんたちも、こんな化粧品を使っていたのかしらと妄想が膨らむ。
「ホネケーキ」はホネ=Honey=はちみつに含まれる成分を配合した資生堂の人気商品となった石鹸。様々なデザインが展開されたが、1959年の球状のデザインはどこか宇宙的で素敵だ。
子供のとき洗面所で見たな〜!と懐かしい気持ちになった「エムジー5」(1967)。企業戦士として頑張る父が使っていたのだろう。私の記憶にあるのは1990年代だから、すでに30年近くこのデザインだったと知り驚く。「日本初の本格的男性化粧品ブランド」であり、現在も現役だ。
1970年代以降はポップな商品が続々。
オイリーな肌をさっぱりさせるスキンケア商品で、中学生をターゲットにした「シュラルー」(1970/71)。使用後はアクセサリー入れとしても使えるようにデザインされていたそうで、少女のツボをつきすぎである。1970年代の中学生はこんなにワクワクするかわいいメイク道具を持ち歩いていたのかと思うと羨ましい。
現在のY3Kを先行するようなフューチャー感! 「リパージュ」(1975)はフランス語で渚、岸辺を意味しており、パッケージは水面がモチーフだという。海外の消費者をターゲットに開発された商品。
あまりのかわいさに感涙ものの「シャワーコロン ポケット」シリーズが1985年に登場。シャワータイムを香りで楽しむシャワーコロンであり、国内初のソフトフレグランス。バブル期を目前に社会に明るく楽天的な雰囲気が漂っていたからか、若者の遊び感覚に応えるポップで親しげなデザインが魅力的だ。「きのこ」「スイング」「ポストモダン」などをテーマにしたカラフルな展開。再販希望。
タコ、イカ、マンボウ、優勝! 「イカスクリーン」のキャップ部分と足部など、ポップなだけでなく微妙な細部にまでこだわったデザインに注目。
いま見ても洗練されたデザインの「ウィア」は、「共生」というコンセプトも今日的。「わかりあいたいという気持ちが伝われば”私たち=We”になれる」というメッセージを発信。
10代後半〜20代前半をターゲットにした「FSP」は「フリーソウルピカデリー」。自由な感性を持ち情報感覚に優れた若い女性たちによるカルチャーミックスのシンボルとなるよう名付けられた。
2000年代には現在も人気が健在の「マジョリカマジョルカ」(2004〜)、「マキアージュ」(2005〜)が登場。ファンタジックで魔女的なマジョマジョの世界観は、発売時になかなか鮮烈だった思い出。
「アフターコロナとなっても先行き不透明な状況が続く一方で、現在を生きる人々のあいだでは、世代やジェンダーを超えて自分が好きなものを自由に取り入れ、自らの気分を上げて楽しむという軽やかな感覚が広まっています。 」(公式サイトより)という時代認識から企画された本展。複雑で過酷な社会のありように目を向ければこの言葉をそのまま受け止めるかどうかは保留したいが、美しいもの、かわいいものが日々を生き抜くなかでエネルギーを与えてくれるのは確かだ。
会場ではここでは紹介しきれない、素敵で心が躍るクリエイティブワークがまだたくさんある。コスメが好きな人、デザインが好きな人、アートが好きな人、様々な人がそれぞれ歩んできた時代に思いを馳せながら楽しめるだろう。
福島夏子(編集部)
福島夏子(編集部)