いま、世界のアート界では何が起こっているのか? ニューヨークを拠点とする藤高晃右が注目のニュースをピックアップ。今回は、3月20日〜4月2日のあいだに世界のアート系メディアで紹介されたニュースを「アートと政治」「エイプリルフールのネタ」「コロナ禍でのアート」「できごと」「熱狂のNFTマーケットの分析、現状把握」「おすすめの本、展覧会」の6項目で紹介する。
◎ニコラ・ブリオーがクビに
モンペリエ現代美術館の創業館長であったニコラ・ブリオーがクビに。美術館は前市長の肝いりのプロジェクトだったが、新しく当選した現市長がブリオーのプログラムがエリート寄りだと批判。現市長が提案したストリートアートフェスティバルを支持する新館長のミカエル・ドゥラフォス(Michaël Delafosse)が異例の形で専任された。
https://www.artforum.com/news/nicolas-bourriaud-ousted-as-director-of-montpellier-contemporain-85365
◎表現の自由はどこへ?
香港で開館予定のM+の館長が表現の自由を守ると表明したことへの本土よりの政治家からの大きな批判を受けて、M+を含む西九龍文化地区の会長が、美術館は昨年香港に導入された国家安全法に従うと約束。アイ・ウェイウェイの作品も展示しないことに。
https://www.artnews.com/art-news/news/m-plus-museum-hong-kong-ai-weiwei-1234587731/
◎アーティストにベーシックインカム
ベーシックインカム政策として、サンフランシスコ在住の130人のアーティストに月1000ドルが計6ヶ月支給される。応募締め切りは4/15。「アートを回復するサポートをすれば、アートがサンフランシスコを回復するサポートになる」との市長の言葉。
https://www.latimes.com/california/story/2021-03-26/amid-covid-san-francisco-give-1000-month-artists
◎市長の文化政策に注目
NYの市長選挙は今年の11月に行われるが、候補者が少しずつ絞られてきている。この記事では8人の有力候補に文化政策を尋ねている。その返答、もしくは返答がない場合は候補の打ち出している政策からそれらをまとめたもの。まだ期間があり、大きな違いは見受けられないが、市長選挙に文化政策が重要視されるのはNYならでは。
https://news.artnet.com/art-world/new-yorks-mayoral-race-arts-and-culture-1955903
◎富裕層が超富裕層にプロテスト?
アート業界でアートフェアでも美術館の理事の顔ぶれを見てもビリオネア(1000億円以上の資産家)ばかりが幅をきかせている現状に不満をつのらせたミリオネア(1億円以上の資産家)達が組合をつくってプロテスト。富裕層が超富裕層にプロテストというのは笑えるエイプリルフールネタだが、現状のアート業界の現状をしっかり反映した皮肉。
https://hyperallergic.com/633569/millionaire-art-collectors-unionize-protesting-their-billionaire-competition-april-1/
◎MoMAが熱帯雨林を購入
MoMAに新たに寄贈されたNFTのアートコレクションの環境負荷をオフセットするために、MoMAがアマゾンの広大な熱帯雨林を購入したことを発表。早速NFTをネタにしたエイプリルフール記事が。レオン・ブラック理事長の件で大きな反発が起こっているMoMAの現状に重ねた描写も面白い。
https://hyperallergic.com/633499/moma-buys-amazon-rainforest-to-offset-nft-collection-april-1/
◎韓国で大規模国際展が開催へ
去年9月の開幕を予定していた韓国の光州ビエンナーレ、コロナで今年2月にそして再度延期されていたが、4月1日から開催することが決定。5月9日までと当初の半分の期間に短縮されたが、まだ世界的にコロナの影響が残るなか、大規模国際展が開催される数少ない例の一つに。
https://www.nytimes.com/2021/03/26/arts/design/gwangju-biennale-south-korea.html
◎ふたたびロックダウン
フランスが再度のロックダウンに入ったため、美術館を含む文化施設は5月半ばまでは再開が見込めない様子。
https://deadline.com/2021/03/france-lockdown-covid-emmanuel-macron-cannes-cinemas-1234725384/
◎第4波に備えての対応検討
ワシントンDCでは、中小の美術館は再開されたが、ナショナルギャラリーやスミソニアンの全館は未だに再開されていない。規模が大きい館は再開してすぐに閉館になるとコストが高く、アメリカの一部で第4波が来ていることもあり慎重に判断している様子。
https://www.washingtonpost.com/entertainment/museums/smithsonian-zoo-national-gallery-reopening-pamdemic/2021/03/31/87bb3682-9225-11eb-bb49-5cb2a95f4cec_story.html
◎世界の美術館来館者トップ100
毎年恒例のアートニュースペーパーによる世界のトップ100美術館来館者数調査の2020年の結果が出た。予想されたことだが、なんと2019年比で77%のダウン。平均で通年に比べて145日余計に閉館日があったとのこと。1位はルーブル、10位に世界の他の館よりは影響が少なかった金沢の21世紀美術館がランクイン。
https://www.theartnewspaper.com/analysis/visitor-figures-2020-top-100-art-museums
◎オクウィ・エンヴェゾーを偲ぶ
アート業界の脱植民地化への動きに大きな影響を与えたキュレーター、オクウィ・エンヴェゾーは2019年に亡くなったが、彼の最後の企画展がニューミュージアムで6月6日まで開催されている。彼のこれまでの重要な展覧会トップ10を振り返る記事。トップ1は当然あの展覧会。
https://www.artnews.com/list/art-news/artists/most-important-shows-okwui-enwezor-1234588006/rise-and-fall-of-apartheid-icp-new-york-okwui-enwezor/
◎ついに退任
ジェフリー・エプスタインとの深いつながりで大きな批判を浴びていたMoMAの理事長のレオン・ブラックがついに7月1日の任期で退任することが決まった。自分が創業した投資会社のCEOを退任したが、MoMAの理事長には留任しようとしていたが批判は大きくなるばかりだった。
https://www.artnews.com/art-news/news/leon-black-moma-board-chairman-steps-down-1234588009/
◎先見の明があるMoMA名誉理事長
MoMAの長年の理事長で、現名誉理事長のアグネス・ガンドのインタビュー記事。アーティストのスタジオに行って直接話をしてコレクションするそうで、ガンドがMoMAに寄贈を申し出てもその作家はいらないと断られて、数年後にやっぱり寄贈お願いしますと言われたことが何度もあるそうで、MoMAのキュレーターが「私たちがやっと彼女(ガンド)に追いついたということです。」とのコメント。
https://www.artnews.com/art-news/news/who-is-agnes-gund-collector-1234587301/
◎苦難のアートバーゼル
昨年は全フェアがキャンセルになって財政難に陥ったアートバーゼル。メディア王・ルパート・マードックの次男の投資を受け入れて再起をはかるが、時計のフェアの不振、コロナ以前からのアートフェア疲れや、高飛車なビジネス姿勢へのギャラリー側の不満など一筋縄ではいかない現状をまとめている。
https://www.artnews.com/art-news/market/art-basel-future-james-murdoch-1234587520/
◎NFTバブルと日本のバブル経済を比較
昨今のNFTマーケットと、80年代後半日本のバブルを比較する論。土地が高騰し株にそして世界中の印象派になだれ込んだ当時の日本。暗号通貨が高騰し、NFTになだれ込んでいる今。NFTを高額で大量に購入している数人がその資産をさらに多数が分割所有できるB.20という独自の暗号通貨を発行している現状と、当時の日本の不動産会社マルコーによるシャガールやルノワールの分割購入商品との類似性などを指摘。
https://news.artnet.com/opinion/gray-market-cryptocollectors-japan-1980s-1955318
◎落ち着きを見せるNFTマーケット
クリスティーズの参入などで熱狂に包まれた3月のNFTマーケットだが、早くも落ち着きを見せて、マーケットがクールダウンしているのではという記事。NFTの売上高をトラックしているサイトによると約20億円の日があったのをピークに3月末には3〜4億円に落ち着いていると。
https://www.bloomberg.com/news/articles/2021-03-31/digital-art-mania-subsides-after-breakout-month-of-sales
◎データ分析から見えるバイアス
19世紀の西洋美術史(仏、英、米の50万枚の絵画)をデータ分析した本「Painting by Numbers」のレビュー記事。展覧会から排除されたり、失われた作品の影響で後世の歴史的価値決定にバイアスを与えていることを示しているという。また例えば英のロイヤルアカデミーで19世紀に展示された風景画を分析すると大英帝国時代にも関わらず予想に反して海外よりも国内の風景が圧倒的に多かったなど。
https://hyperallergic.com/630030/painting-by-numbers-diana-seave-greenwald/
◎脚光を浴びる、ある20世紀のアーティスト
メトロポリタン美術館ではアリス・ニールの大規模回顧展が8月1日まで開催中。抽象絵画全盛の時代に身近な人々のポートレートを描き続けた彼女は、女性ということもあり評価が定まっていなかったが、近年固まりつつあるとのこと。
https://news.artnet.com/exhibitions/people-come-first-1955116
*来週の「週刊・世界のニュース」は休載します。次回は4月20日(火)更新予定です。