私の原稿では毎回5つ星による評価をつけていきます。
白い☆が評価点。
7月7日に観た展覧会。
行った感想 ☆☆☆☆★
西村画廊の35周年を記念して、この画廊のレギュラーメンバー7人の出品するグループショーが7月25日まで行われている。
7人は、押江千衣子、小林孝亘、曽谷朝絵、樋口佳絵、舟越桂、町田久美、三沢厚彦。その他、別室では当画廊が取り扱う海外作家の作品も少数だが見られるようになっている。
僕は、現代アートに興味を持ったもののまだまったくギャラリーに行ったことがない人から「まずどこのギャラリーに行くと良い?」と聞かれたとしたら、小山登美夫ギャラリーではなく西村画廊をオススメしたい。
もちろん小山登美夫ギャラリー、Ota Fine Arts、WAKO WORKS OF ART、TARO NASU、Taka Ishii Gallery…日本には海外に比しても劣らぬギャラリーがたくさんある。
でも初心者にいきなり最先端はやや高度な気もする。
オーソドックスな良い絵について学ぶならまずここを訪れるのがいい。
いい絵が見れて、しかも難し過ぎない。どの作家も絵画あるいは彫刻としての技術がしっかりしていて、それでいて内容において難解過ぎない、良い意味でのシンプルさを持っているという意味だ。(あと、ここのギャラリーは日本人の好みというものをよく掴んでいる)
ここの作品たちは誰が見ても、語る言葉を持たせてくれる。
感じたこと-たとえば「構図が良い」でも、「陽だまりの心地よさそのものが伝わってくるようだ」でも「線に味がある」でも「色使いが美しい」でも、それこそ「綺麗だ」の一言でもいい。
現代美術は気の利いたこと言わなきゃ、ひねったこと思いつかなきゃ、的な空気があるけれども、奇をてらわず、素直に「いい絵ですね」と言えることはやはり素晴らしいことだ。そういう喜びがここの画廊の作品にはある。
とりわけ、このグループショーに出品されている小林孝亘、舟越桂、町田久美。この3人は現在の絵画・彫刻の世界において日本代表と呼んでいい画家と彫刻家であり、しかも3人とも今作品の状態がとても良い時期にあたっている。
小林孝亘は脱皮するように成長を遂げているが、何度目かの円熟期を迎えているようだ。
舟越桂は30年来のキャリアでありながら守りに入らず、何度も壊しながら自分の新しい領域へ足を踏み入れ、2006年頃から「スフィンクス」と呼ばれる奇妙でおどろおどろしいインターセクシュアルな像を手がけだして以来、ふたたび驚きを与えるようになっている。
町田久美は、おこがましい喩えだが、もし僕がベネチアビエンナーレ日本館キュレーター(アート界でいうところの、日本代表監督的な存在)なら今、選んで世界に見せたいと思う、旬の日本代表作家のひとりだ。蛇足だがおそらく自分が「2009日本代表」を選ぶとしたなら、町田久美・鴻池朋子・西尾康之・近藤恵介にすると思う。
奥の小部屋も見逃さないでほしい。こちらに掛けてあるのは当画廊取り扱いの海外作家―リチャード・ハミルトン、アニッシュ・カプーア、ブリジット・ライリー、リサ・ミル ロイ。
いずれも小品であるが良品だ。リサ・ミルロイは、ジュリアン・オピーなどと並んで80年代初めから活躍しているイギリスの画家、久しぶりに見たけどこんないい作品だったっけ?
カプーアはいつも質がブレない、発表する作品どれも良い印象があるが、にしてもここに展示されている、日本に来たときのプロジェクトで瓢箪を使ってつくった作品は何度見ても出来の良いものだ。
思えば―僕がここに最初に見に来たのはまだ大学生だった頃、今からもう20年も前になる。
ホックニー、ハミルトン、トニー・クラッグ、ルシアン・フロイド、ブリジット・ライリー、キーンホルツ、パトリック・コールフィールド、名だたる作家たちの本物を最初に見たのは美術館でなく、ここの画廊だった。
ルシアン・フロイドなんて今やオークションで存命作家としては史上最高額で落札なんて報道されるほどの存在だが、その本物を、この銀座のギャラリーで誰にも邪魔されることなく飽きるまで眺めていたときのことであるとか、この画廊一軒に通っていただけでどれほど本物の美術の勉強ができていただろう。
本展覧会のプレスリリースを読むにつけても、その歴史が一軒の画廊の歴史の域を超えて日本の美術シーンにおいても財産であると思う次第。小山登美夫さんは最近自らのギャラリー業の歴史を著して伝えること記録することを活発にされているが、西村氏は本を書かれないのだろうか。