4月14日、日本を代表する芸術祭「瀬戸内国際芸術祭 2022」の春会期がスタートする。会期は5月18日まで(夏会期は8月5日〜9月4日、秋会期は9月29日〜11月6日)。瀬戸内海の12の島と高松、宇野で、全会期を通して33の国と地域から184組のアーティストによる214点の作品が集まる。
2010年より3年に1度行われ、前回の開催は2019年。そこからコロナ禍に突入し、開催を実現するにあたって様々な交渉や検討が重ねられた。総合ディレクターの「ようやく今回作品を発表できるのが本当に嬉しい」と語った本祭の見どころを紹介していく。
まずは今年、「ヴァレーギャラリー」「杉本博司ギャラリー 時の回廊」という新施設ができたことも話題の直島から。ここでは小沢剛、草間彌生、下道基行、杉本博司、三分一博志らの作品、プロジェクトが登場。
北川がとくに注目するのは三分一博志による《The Naoshima Plan「住」》。直島の地理、風土、暮らしなどをリサーチし、自然を最大限に取り入れた新スタイルの集合住宅を建設。春会期では内部構造が見える状態に、秋会期には完成状態が公開される。
瀬戸内を代表する人気スポット、豊島美術館のある豊島では、常設のクリスチャン・ボルタンスキー、大竹伸朗、ピピロッティ・リストらによる作品に加え、オーストラリアを代表する現代美術家と建築家のユニット、ヘザー・B・スワン+ノンダ・カサリディスの作品《海を夢見る人々の場所》が新設。秋会期には冨安由真が古民家1棟をまるまる使った没入型インスタレーションも発表する予定だ。
北川が「お店を起点に島への半定住、定住の道筋を探りたい」「今後の大きな目玉になるだろう」と話すのは、女木島の女木島名店街。ここでは小谷元彦、五所純子、三田村光土里、宮永愛子、柳建太郎らが作品鑑賞とショッピングを楽しめる空間を立ち上げる。人気のレアンドロ・エルリッヒ作品を見られるのもこの場所だ。
男木島ではエカテリーナ・ムロムツェワ、大岩オスカール+坂茂、王徳瑜(ワン・テユ)が芸術祭に初参加。目の前の景色を一変させる作品が期待されるのは、大岩オスカール+坂茂の《男木島パビリオン》。坂の建築物と港や海、島々や夕焼け空をキャンバスに大岩が描いた瀬戸内のイメージが融合する。
島のなかでは会期を通して最多の作品が集まる小豆島は、ソピアップ・ピッチ、スタシス・エイドリゲヴィチウス、木ノ下歌舞伎らが初参加。青木野枝は、鑑賞者が鉄の球体に入って雄大な自然を味わう新作を4月30日より公開する。
国立ハンセン病療養所の国立療養所大島青松園があり、その歴史を後世に伝える大きな役割を果たしてきた大島。ここでは田島征三、山川冬樹、鴻池朋子らが参加。鴻池は夏会期では波打ち際に「新たな道」としての作品《リングワンデリング》を発表する。夏には子供が参加できるサマーキャンプも行われるため、家族で芸術祭を訪れるきっかけにしてほしい。
建築家の妹島和世、キュレーターの長谷川祐子と、名和晃平、荒神明香、オラファー・エリアソンらアーティストのコラボレーション作品を通年で楽しめる犬島では今回新たに大宮エリーの新作《INUJIMAアートランデブー》が登場。
沙弥島では3点の新作が出品。北川が「目玉作品のひとつ」と話すのは、柿本人麻呂の詩歌「天の海に」を起点とした、レオニート・チシコフの《月への道》。瀬戸内海をのぞむ旧沙弥小・中学校全体を使ったインスタレーションで、月をモチーフとした映像や写真、オブジェを通して鑑賞者を宇宙の旅へと誘う。
本島、高見島、粟島、伊吹島は秋会期の作品がメイン。新作も多く発表されるため、秋の島めぐりとともに楽しみたい。
各会場への玄関口としてもっとも利用される高松港のある高松では、建築家の川添善行、Asaki Odaらが新作を展示し、夏会期からは初参加の渡辺篤、秋会期からは保科豊巳が新作を発表する。瀬戸内ならではの食を堪能でき、島に持ち込めるテイクアウトの食事も検討されているという高松港 食のテラスがあるのもこのエリア。アートと食の両方が楽しめそうだ。
岡山県の玉野市にある宇野では、片岡純也+岩竹理恵、ムニール・ファトゥミが春会期に新作を発表。ファトゥミの新作《実話に基づく》は、半世紀以上にわたって病院として使用された後、40年近く使用されず残っていた建物に映像と写真を展示する。
コロナ禍で地方で芸術祭を開くことに、主催側も地域も大きな葛藤があったと思われるが、今回無事決行するに至った本祭。北川はまず、徹底的にコロナ対策を行うことを念頭に、「島ごとにそれぞれの行政が掲げる地域計画を検証し、それにあわせて作品計画の骨子を作った」と語った。
「たった100日の芸術祭よりも、そのほかの(地域との交流など)1000日の活動が極めて重要だった。それが今回できなかったのはとても厳しい」と悔しさを滲ませながらも、瀬戸内の豊かな文化を再考する「海の復権」のコンセプトはそのままに、これまで以上に地域資源に根ざしたプロジェクトを展開すると強調。各市長と島をつなげ、「行って良し、来られて良し」の芸術祭を通して地域活性も目指すという。