神奈川県横須賀市にある無人島・猿島を舞台に、「Sense Island -感覚の島- 暗闇の美術島 2021 - アートを通して体感する猿島とその自然 - 」が開催されている。会期は3月6日まで。島内一部ではスマホの使用を禁止されることで猿島の自然と向き合うことになる本芸術祭の展示の様子を中心にお届けする。
猿島までは横須賀中央駅から徒歩15分ほどの三笠桟橋からフェリーで向かう。取材日はHAIOKAのパフォーマンスが予定されており、フェリーが満席になるほどの賑わいだった。
島に到着し猿島桟橋を抜けると、砂浜に置かれた数十個の電灯は筧康明、Mikhail MANSION、WU Kuan-Juからなるアーティスト・コレクティヴ「Natura Machina」の作品《Soundform No.2》(2022)だ。前作《Soundform No.1》(2019)と同様、電灯内の熱エネルギーを音響エネルギーに変換することを利用したと思われる本作。電灯からランダムに聞こえてくる電子音は、どこか温かみがある。
感覚を研ぎ澄ますため管理棟でスマホを封筒に収めたうえで、散策スタート。緩やかな坂道の途中に並ぶネオンライトのオブジェは中﨑透《Red bricks in the landscape》(2022)。オブジェが置かれているのは、第二次大戦中は弾薬庫や兵舎として使われていた赤レンガ造りの建物。当時の兵士を模したようにも見える。
切り通しの坂道を超えると、先の見えないトンネルが現れる。そのなかで体感できるのが、毛利悠子《I Can’t Hear You》(2022)だ。入口からすでに聞こえる「I Can’t Hear You」という声。恐る恐るトンネルに足を踏み入れると、それが足元に置かれたスピーカーから聞こえる声だということがわかる。反響する声は、道を進むにつれて変化して聞こえてくるはず。島内のもうひとつのトンネルで展示される井村一登《Spherical Mirage》(2022)は覗き込んでも自身の顔が映らない不思議な鏡だ。
トンネルを抜けると、砲台の跡地があるエリアに出る。HAKUTEN CREATIVE(高橋匠/中榮康二/原慎太郎)《Observation Clock - 時の観測台 -》(2022)はそんな砲台跡を利用した作品で、猿島の砲台の目的を「監視」から「観測」へ転換するための装置として、古代の時計を思わせる装置が展示されている。横に展示されるのは、長時間露光で夜間の飛行機の軌跡を捉えた忽那光一郎《風速 0 SR08》(2022)。実際の風景が背景にあることによって、猿島の夜更けを追体験できるかもしれない。
砲台跡から階段を降りた海浜展望台にあるのは、幅允孝《孤読と共読の広場 孤読編》(2022)。空間を仕切るような木枠のなかにあるのは一冊の本が置かれた椅子。東京湾を一望しつつ、自由に座って読むことができる。
対をなす作品《孤読と共読の広場 共読編》(2022)は島中央の展望台にある。木枠によってひとりでの読書を求める《孤読編》と異なり、本を読む手元がスクリーンに映される《共読編》は読書の様子がほかの来訪者と共有されることが意図されていよう。
展望台では、忽那光一郎《風速 0 SR55》(2022)や、猿島内の落書きから着想したというmamoruの映像作品《おだやかな孤独》(2022)も展示されている。
展望台を超えると、展示も終盤。細井美裕は砲台跡地の壁面に設置された無響空間《Theatre me》(2022)を演出。鮫島弓起雄は二進法を用いたインスタレーション《猿のいない猿島》(2022)を展示している。
島内を一周して戻った砂浜ではHAIOKAのライブパフォーマンスがスタート。電子音楽でありながらも、和楽器や環境音と思しきサウンドも用いられており、生き生きとした印象を受けた。肌寒い夜の浜辺で行われているものの、抑揚ゆたかな45分のパフォーマンスは決して長く感じることなく、充実の内容だった。
一部日程では、作家の案内を受けながら楽しめるアーティストツアーも予定されている。自然に囲まれた暗闇のなかで、普段よりも感覚を研ぎ澄ましたアート鑑賞を楽しんでみてはいかがだろうか。