公開日:2021年10月31日

日本初のNFTセールに、スプツニ子!、ルー・ヤン、デヴィッド・オライリー、たかくらかずきらが出品。予想価格を上回る落札も

アートオークションでは日本初となったNFTセール、その意義とは? キュレーションを担当した文化研究者・山本浩貴に聞く

世界的に注目を集めるNFTアートのオークション

10月30日、SBIアートオークションにて、アートオークションでは日本初となるNFTセール「NFT in the History of Contemporary Art: a Curated Sale by Hiroki Yamamoto」が開催された。

10月30日に開催されたNFTセールの会場風景(東京・ヒルサイドフォーラム)

NFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)は、ブロックチェーン技術を活用し、映像や画像などのデジタルデータ作品と紐付けたかたちで発行することで、デジタルデータの唯一性を表現することができるとされている手段。NFTを用いることで、偽造や複製が容易なデジタルデータ作品を安全に売買・保管できるため、近年インフラ整備への導入が進んでいる。

2021年3月にBeepleによるクリプトアート(NFTを用いた1点もののデジタルアート)作品が高額落札されて以降、アート界でもNFTアートに大きな注目が集まり、ダミアン・ハーストをはじめとする著名作家の参入も相次いでいる。

NFTアート・オークションはヨーロッパやアメリカではすでに開催されているが、日本では今回が初。文化研究者の山本浩貴がキュレーションを務め、スタートバーン株式会社が全8ロットの作品のNFT発行にあたりブロックチェーンインフラ「Startrail」を提供した。

本セールはヒルサイドフォーラムを会場に、「第47回SBIアートオークション|モダン&コンテンポラリーアート+NFTセール」内にて開催。動画配信も行われ、会場来場者からの入札のほか、事前の書面入札や電話・オンラインからの入札も行われた。

10月27、28日に開催された下見会より、スプツニ子!《ムーンウォーク☆マシン、セレナの一歩》(2013)の展示

各作品は好調なセールスを記録。たとえばスプツニ子!《ムーンウォーク☆マシン、セレナの一歩》(2013)は、デジタルビデオにデバイスとラムダプリントを付帯して出品され、落札予想価格300〜500万円を上回る730万円で落札された。

全8ロットの落札結果は以下の通り。

セーワ・アテイファ《TERRA 2021》(2021):185万円(落札予想価格:120〜180万円)
ルー・ヤン《1. DOKU Hello World/2. DOKU HUMAN》(2021):500万円(落札予想価格:400〜700万円)
スプツニ子!《ムーンウォーク☆マシン、セレナの一歩》(2013):730万円(落札予想価格300〜500万円)
デヴィッド・オライリー《POTATO》(2021):120万円(落札予想価格:100〜150万円)
ウダム・チャン・グエン《Waltz of The Machine Equestrians》(2012):320万円(予想落札価格:250〜350万円)
ユゥキユキ《「あなたのために、」》(2019 / 2020):50万円(落札予想価格:30〜50万円)
ケニー・シャクター《Money, Money, Money》(2021):200万円(落札予想価格:100〜150万円)
たかくらかずき《Goodbye Meaning》(2021)73万円:(落札予想価格:20〜30万円)

10月27、28日に開催された下見会の展示風景
10月27、28日に開催された下見会より、ケニー・シャクター《Money, Money, Money》(2021)の展示

キュレーター山本浩貴に聞く
NFTアートの課題と展望

本セールをキュレーションした山本浩貴は、著書『現代美術史――欧米、日本、トランスナショナル』(中央公論新社、2019)などで知られる気鋭の文化研究者で、SEA(ソーシャリー・エンゲイジド・アート)など現代美術の社会的実践を中心にリサーチを重ねてきた。NFTやデジタル技術の専門家ではない山本が今回キュレーターを務めることになったのは、SBIアートオークションとスタートバーンから、本セールに美術史的文脈や批評的観点を加えてほしいとの要望があったからだという。

公式サイトにも詳細なコンセプト文が掲載されているが、Tokyo Art Beatはセール終了後に改めてインタビューを実施。NFTへの考えについて、山本は以下のように語る。

「NFTをアートに導入することについては、まだ諸手を挙げて賛成できる状況ではないと考えています。たとえば、NFTでの商品取引の際に発生する多大な電力消費による環境負荷といった問題が指摘されていますね。

しかし、日本のアートシーンでは新しいものへ拒否感が示されることが少なくないなかで、NFTがもたらすポジティブな変化についても検討したいと思いました。出展作家のケニー・シャクターは、理論と実践の両面からアートとNFTの接続について考察しているアーティストで、彼のテキストから学ぶことも多かった。NFTがもたらすリスクや課題について理解や議論を深めながら、メディウムとしてのNFTがアートを拡張する可能性を探っていくことが重要だと思います。今回のセールは、その一歩として意義があったと考えます」。

それでは、8作家が参加した本セールは、どのような指針でキュレーションされたのだろうか。

「本セールに美術史的文脈を取り入れたいという要望を受け、1つ目に複数形のフェミニズムの視点は不可欠だと考えました。スプツニ子!やユゥキユキ、また黒人女性としてのアイデンティティを創作源とし、アフロフューチャリズムをテーマにしているセーワ・アテイファといった作家が参加しています。

10月27、28日に開催された下見会より、セーワ・アテイファ《TERRA 2021》(2021)の展示

2つ目はコンセプチュアル・アートとの接続です。たとえばデヴィッド・オライリーは、デジタル技術を用いてコンセプチュアルな試みを行っている代表的なアーティストです。松澤宥がアートの『非物質化』へと向かったように、コンセプチュアル・アートは既存の概念の再定義を試みました。それらに連なるように、NFTにもアート概念そのものを拡張する可能性を見ています」。

10月27、28日に開催された下見会より、デヴィッド・オライリー《POTATO》(2021)の展示

なお、出展作家の詳細などは公式サイトから見ることができる。
https://www.sbiartauction.co.jp/sp/20211030/jp/

福島夏子(編集部)

福島夏子(編集部)

「Tokyo Art Beat」編集長。『ROCKIN'ON JAPAN』や『美術手帖』編集部を経て、2021年10月より「Tokyo Art Beat」編集部で勤務。2024年5月より現職。