こうした展覧会との出会いも良いものである。サラ・ムーンはモデルの頃に写真の技術を覚え、時間の合間に撮影していくうちに、いつの間にか写真家の道を歩むことになるという珍しい経歴(リー・ミラーもその一人)の持ち主である。
今回展示されている作品の多くは、ファッション雑誌やファッション関係の招待状に使用されたカラー写真であるが、入った最初の写真と最後の写真は白黒写真になっている。入って最初の「NOVA」というタイトルの写真から彼女独特のなんともいえぬ雰囲気が出ている。ステッキを持った男装したような成人女性、そのステッキの下のほうに指を這わせている、犬をひいた男の子。お互い眼だけ左のほうに向いている。その目線の先にはもう一人の男の子。この不思議な場面をバスの中から撮影しているのである。この一枚目からサラ・ムーンの世界に引き込まれていく。
カラーのほうは、ファッション雑誌等に関係するだけあって、ある程度広告的な構成をとりつつも、サラ・ムーン独自の色合いはしっかりと出している。ぼんやりとした色、周辺光量が落ちてかげった画面の四隅、地の印画紙にぼやけながら結びつく四辺。これらの効果によって、幻想的な雰囲気が一層際立つ。また粒子の粗さが昔の8mmを思い起こさせるように、幻想的でありながら、かつての記憶を遡っているような感覚にも襲われる。
カラー写真の中で特に「キャシャレル・冬のカタログ」1977年を取り上げて見てみよう。この写真は、読書をしている同じ女性の姿が二重に画面に映り込んでいるのだが、一方は家の中に、もう一方は合成された草原の中にいる。これは登場人物(被写体)の「心象風景」を写真ならではの手法で表現している。写っている女性は「大草原の小さな家」でも読んでいるのだろうか。
サラ・ムーンの写真は、幻想的でありながら、観る者の記憶を刺戟してくる。また彼女の写真は謎解きも仕掛けてくる。そういえば、彼女の有名な写真「赤頭巾」の、木の枝を体にくくりつけた赤頭巾ちゃんの足元に伸びる光の筋が十字架にも見える・・・ような気がする。それは祝福なのか、これから起こる苦難の枷なのか。
Bunmei Shirabe
Bunmei Shirabe