40ヶ国、140点の赤い服を通して世界の文化に触れる…民族の精神性まで掘り下げて地域ごとの特長の違いを見つつも、地域をこえた共通点に触れることができる…数ある色のなかでも「赤」の持つパワーを感じられる展示会が、代々木の文化学園服飾博物館にて開催されています。
「赤」という色は、太陽や日、血の色をあらわすことから「生命力や力強さ」を象徴、祝賀や魔除けの色として用いられている大切な色といえます。また、そのひときわ目を引く鮮やかな色彩から、「権威」や「華やかさ」を演出する色としても使われているそうです。
下2枚の写真を比べてみると、日本とイギリスという違いはあれど、下着に赤を使っている様子がみてとれます。日本の場合、赤の染料のひとつである「紅」が保温効果や殺菌効果といった薬効があるとされ、さらに下着は直接肌に触れるために赤という色が多様されたと考えられています。
江戸時代後期以降、奢侈禁止令により町民の間で地味な色合いの着物が流行するようになったため、赤い下着が裾や袖口からのぞくことによって色彩的な効果が得られたため、赤い下着を用いたともいわれています。江戸っ子の「小粋さ」がちらりと垣間見える‥といった感じでしょうか?
一方1870,80年代ころのイギリスのものと思われる「バッスル」(スカートのしたにつけて膨らみを作るもの)は、それまで木綿や麻の「生成り色」がほとんどだった下着にも、赤を染める合成染料が発明され安価に入手できるようになったころから、赤い布が使われるようになったといいます。
こうして時代も場所も飛び越えて「下着」を見比べられるというのも、面白いもの。
また、染料のトレーディングや合成染料製造からは利潤の追求など政治的一面もうかがえ、紀元前3000年ごろのメソポタミアの記録に既にアカネについての記述が。さらに古の歴史を紐解くと、なんとツタンカーメンの墳墓からも、アカネを使用した布が発見されているとか。
「ベニバナは匈奴(始皇帝を脅かした北方民族)がその栽培と得意としていた」
「コチニールはプレ・インカの時代からペルーで使用されていた」など、古から人々と赤の染料とのかかわりについては色々といわれているようですが、この様々な色味をもつ「赤」の染料についても触れられている点も、この展示会の見どころのひとつ。
布や糸を赤く染めるために、人々はそれぞれの地域にあった植物や動物などの染料となるものを採取、栽培したり、他の地域から輸入したりしながら、満足のいく赤色を得るために長い時間と知恵を重ねてきました。
赤の色味についての各民族の好みは、得られた染料の種類と深くかかわっているんですね。
宗教的な意味合いという意味では、キリスト教においては赤は十字架にかけられたキリストの血に通じる聖なる愛の色とされているそう。祭服には白、赤、緑、紫などといったバリエーションがあり儀礼の種類によって異るようですが、赤は「受難の主日(復活祭の一週間前の日曜日)」や聖金曜日などキリストの受難や復活、成人の殉教にかかわる儀礼に着用されるそうです。
このように「未婚女性」の着衣として「赤」という色が使われる地域もあれば、「一人前の女性」という意味合いを赤い服に持たせる地域もあり。全く異なった場所にもかかわらず、地域を超えた共通点を随所に発見できるのは、40ヶ国、140点の赤い服の数々を横断的に見ることができる展示会ならでは。
紹介しきれませんが、他にも、チュニジアの婚礼用「ヘッドドレス」(赤は花嫁、または若い既婚女性の用いる色とされている)や、インドの結婚式や儀礼服として着用されるサリー(若い女性の愛情と結婚の第一日目を象徴するガルチョと呼ばれる赤地に格子を織り出し、絞りで花や象などの文様をあらわす)など、古今東西の赤い服を、これでもかというくらい堪能できます。
兎に角‥全てを回り終わったあと「赤い服」が着たくなってしまうような展示会でした。