「六甲ミーツ・アート芸術散歩2023 beyond」が、8月26日から開幕。六甲山の自然とアートのコラボレーションを満喫できる、9会場をレポート!

初ルートに「トレイルエリア」が誕生し、世界規模で活躍するアーティストの招聘も。会期は11月23日まで。(撮影:宇野真由子)

武田真佳  case

テーマは、「表現の向う側(にあるもの)」。新展示エリア誕生など新施策が充実

今年もこの季節がやってきた。豊かな自然が残る神戸・六甲山は、ハイカーやサイクリストにも人気のスポットだ。作品展示を目的地にしながら各会場を巡り、自然と融合されたその風景をもアート体験に変えていく……。毎年開催で参加者にもリピーターの多い「六甲ミーツ・アート芸術散歩」は、今年14回目を迎える。

コニシユウゴ(たま製作所) Moon Plants

今年から新たに設けられたテーマは、「表現の向こう側(にあるもの)Beyond Representation」。表現者それぞれの作品とその先にあるものに目を向けてもらおうというメッセージが込められている。関西を代表する芸術祭を目指していきたいという公式発表のあったように、椿昇川俣正など招聘アーティストの拡充も行われた。一部の作品は会期終了後も展示が残されるなど、新たな取り組みも追加。
より魅力の増した、六甲ミーツ・アート芸術散歩2023 beyondに参加してきた。

モリン児 鱗玉スプートニクのある所

急ぎ足で1日、ゆっくり鑑賞するなら2日かけて。

六甲山上に点在する各会場間は、徒歩や周遊バス、自家用車で巡ることができる。効率よく巡りたい方は周遊バス(六甲山上バス)の利用がおすすめだ。時刻表はこちら。会場規模が拡大したため、できれば2日は用意して望みたいところだ。公式サイトの公共交通機関を利用するモデルコース+六甲有馬ロープウェー六甲山頂駅、兵庫県立六甲山ビジターセンター(記念碑台)に沿って、今年の見どころとピックアップ作品をお伝えしたい。

エリアは9エリア
①六甲ケーブル(六甲ケーブル下駅・山上駅・天覧台)、②兵庫県立六甲山ビジターセンター(記念碑台)、③六甲山サイレンスリゾート(旧六甲山ホテル)、④ROKKO森の音ミュージアム、⑤六甲高山植物園、⑥トレイルエリア、⑦風の教会エリア⑧六甲ガーデンテラスエリア、⑨六甲有馬ロープウェー 六甲山頂駅

会場MAP

六甲ケーブル(六甲ケーブル下駅・山上駅・天覧台):無料会場

まずは六甲ミーツ・アートの玄関口となる、六甲ケーブル(六甲ケーブル下駅・山上駅・天覧台)からスタート! 六甲ケーブル六甲山上駅のすぐ側にある天覧台は、神戸はもちろん、大阪平野や和歌山方面まで目下に望めるスポットだ。 

光岡幸一 そんなところ。

展望スポットの前に、ピクトグラムと木製のボックスが目に入る。光岡幸一《そんなところ。》は、体験型アート。ピクトグラムの指示に従ってボックスの上でジャンプすると、「やっほー」「ヒューイ」などの音がランダムで流れる。光岡自身による肉声などで、光岡が六甲山で響かせたい音を持ってきたという。音は会期中にも随時増えていく。

光岡幸一 そんなところ。

トレイルエリア:一部有料

そのまま新エリアの「トレイルルート」に入っていく。徒歩で山の自然を肌で感じながら、鑑賞に浸ることができるまさに“芸術散歩”。歩きやすい山道だが、高低差がある箇所もある。鑑賞時間は2時間ほど、スニーカーはマストで。

トレイルエリアの様子

若手の注目作家のひとり、横手太紀《星のいるところ》が木々の間から見えてきた。ディスプレイにキラキラと粒子のように映し出されているのは、六甲山上に漂うホコリや花粉、小虫など。横たわった鹿が奇妙な動きを見せている。害獣もしくはジビエとして狩猟された鹿の毛皮が使われている。

横手太紀 星のいるところ

山荘の門を入り、小径を進んでゆくと、山荘と中﨑透《Sunny Day Light/ハルとテル》が見えてくる。中﨑は山荘の持ち主のご家族にインタビューをし、現在81歳になるお母様が話された膨大なコメントから丁寧に言葉を選び、ノンフィクションのシナリオにまとめた。そのシナリオに沿って、山荘に残された品々やアーティスト自身の手によるオブジェを織り交ぜてまるで舞台を作り上げるように空間が構成されている。

会場のバンノ山荘。中﨑透 Sunny Day Light/ハルとテル 
中﨑透 Sunny Day Light/ハルとテル 

そのまま、ROKKO森の音ミュージアム方面に歩いていく。池に浮かぶ桜の木が映えた島のような木造テラスは、川俣正《六甲の浮き橋とテラス》だ。周りの木々を借景に、水鏡のように見える。

8000m✕6710mのテラスに、長さ20mの浮き橋。川俣正 六甲の浮き橋とテラス

この多目的オープンテラスは、森山未來キュレーションによるRokko Meets Art × Artist in Residence KOBE(AiRK)のオープニングイベントもここで行われた。サイト・スペシフィックな作品づくりを行う川俣らしさが、六甲でも発揮されていた。

ROKKO森の音ミュージアム:有料会場

今年から芸術祭の象徴となる拠点となったのがこのエリアだ。SIKIガーデンに新設された、野外アート作品展示ゾーンも見どころが多い。一部の作品は会期終了後も3年間残され、会期外でも鑑賞できるようになる。

新設された、屋外アート作品展示ゾーン
屋外作品展示ゾーンへの道

ミュージアムの建物からガーデンに出ると目の前に広がる池。その上にあるのは、コニシユウゴ(たま製作所)《Moon Plants》。植物、生物、展示環境を含めた六甲山など、生物の循環がコンセプトだ。ドームに使われた特殊素材のおかげで、夜間営業時には、池の上でほんのり光るアート作品の様子が見られる。

コニシユウゴ(たま製作所) Moon Plants

新設エリアに進んでいくと、自然の中に配置されたステンレスミラーに、風に揺れる木々の様子が写りこんでいる。船井美佐《森を覗く 山の穴》は「楽園と境界」を表現する。六甲山の植物や野鳥をモチーフにしたミラーは、それに映る景色や対峙する事物によって印象を変えていく。

船井美佐 森を覗く 山の穴
船井美佐 森を覗く 山の穴

少し丘を登っていくと石の舞台の上に、陶土でできたトゲトゲの人型オブジェが立っている。焼物と御影石で構成された三梨伸《石舞台に立つドリアン王女》だ。その土地で使われなくなったものを使用する、ダイナミックな作風で知られる三梨は、かつて六甲山で採られていた御影石を使用。御影石は、阪神間を走る阪神電鉄の敷石として使われていたものだ。敷石舞台は会期後も残される。

三梨伸 石舞台に立つドリアン王女

新設エリアの入り口からところどころで見えていた、自然の中でひときわ目を引くイエロー。存在感のあるWA!moto.“Motoka Watanabe”《黄色い双眼鏡の探検》は、双眼鏡で森の中の巣箱や自然を眺める体験型の作品だ。広域に設置された巣箱を探し覗き込む、その行為を含めたすべてが、作品として提示されている。

WA!moto.“Motoka Watanabe” 黄色い双眼鏡の探検

ド・レ・ミ・ファと音階が描かれた大きなヴァイオリン。美術と工芸の間を横断しながら作品制作を行う、太田正明の作品だ。古民家の梁などの古材を再構築して作られたもので、音をテーマにしたROKKO森の音ミュージアムの庭全体をヴァイオリンのボディに見立てている。

太田正明 棟梁の譜面を鳴らす

お楽しみ①:スタンプラリー
アートを巡りながらこっそり集めたいのは、作品の展示各所にあるスタンプラリー。六甲山小学校の子供たちが六甲山をテーマに描いたイラストがそのまま使われている。全50箇所、全絵柄違い。全展示箇所を回って、ぜひコンプリートしてほしい。

六甲高山植物園:有料会場

「西入口」から入場すると、土の香りがしてくる。六甲高山植物園は、四季折々の花や木々、高山植物を中心に世界の寒冷地植物が育つ植物園だ。

池のほとりで水を出す“なにか”が立っている。北浦和也《Picnic on Circle Circus》は、六甲山にゆかりのある3つのものが立体的にコラージュされた作品だ。ファンタジー性のある作品にホッと和まされる。

北浦和也 Picnic on Circle Circus
北浦和也 Picnic on Circle Circus

突き当りに小さく広がる円形の広場に、ひっそりと咲いている木造の花と目があった。黒瀧舞衣《The Flower of Life》のプリミティブな造形は、生命の花。黒瀧は今回初めて、彫刻にカラフルに色を施した。

黒瀧舞衣 The Flower of Life

遠くからキラキラとひかる物体を見つけて、思わず近づいてみた。加藤美紗《溢れる》は、その名の通り、いまにも溢れそうであった。水が詰められた風船を覗き込めば、様々な境界線がぼやけて見える。弾けそうな水風船に触れてみると、柔らかく、愛おしさすら感じられた。

加藤美紗 溢れる
加藤美紗 溢れる

地面をぬい、木々に張り巡らされた黒く太い帯。鮫島弓起雄《山を解く》は等高線を可視化したものだ。自身がリサーチで訪れた際に、自分が立っている“山”という場所で感じた実感を、そのまま大胆に作品に落とし込んでいる。

鮫島弓起雄 山を解く

お楽しみ②:ひかりの森〜夜の芸術散歩〜

2023年9月23日〜11月23日の土日祝の17:00〜20:00に、期間限定で「ひかりの森〜夜の芸術散歩〜」が開催される。木々とともにライトアップが施されるなか、園内をラリー形式で回る参加型作品の髙橋匡太《キラ★キラ★キラリー~夜の絵具を探せ!~》が展開。園内で見つけた宝石を、指定した宝箱に入れると泉が光の泉に変わり、幻想的な風景に変わるという仕掛けだ。紅葉の見頃は、10月中旬〜11月中旬頃。詳細はこちら

「ひかりの森〜夜の芸術散歩〜」イメージ画像

風の教会エリア:有料会場

会期時のみ特別公開される、建築家・安藤忠雄による風の教会。毎年想定外の展示が楽しみな会場でもある。

風の教会まで進んでいく丘の上に、顔が落ちていた。佐藤圭一《じいちゃんの鼻の穴に宇宙があった。》は、味わいのある作品。思わず鼻の穴を覗いて宇宙を見てしまいたくなる、老若男女が気軽に楽しめる作品だ。

佐藤圭一 じいちゃんの鼻の穴に宇宙があった。

風の教会の回廊を歩いた先にある聖堂。椿昇《Daisy Bell》が、コンクリートの教会内で猿人類を表現した巨大な造形物が空間を支配していた。頭部にはデイジーの花が見える。「2021年宇宙の旅」にインスピレーションを受けたこの作品は、科学の発展とともに爆走するホモ・サピエンスへの風刺でもある。

椿昇 Daisy Bell
椿昇 Daisy Bell

六甲有馬ロープウェー 六甲山頂駅:無料会場

六甲ミーツ・アートで、一番北の端にある展示会場。ちなみに、六甲山頂駅からロープウェーで、20分ほどで有馬温泉にも直行できるので、時間に余裕があれば、旅の思い出に加えてもいいかもしれない。

空を彩るかのように置かれた、わにぶちみき《Beyond the FUKEI》。ロープウェーから見える風景の中から色を抜き出した作品だ。リアルな風景を抽象化したドットを通して想像する風景は、皆と同じ映像なのだろうか。

わにぶちみき Beyond the FUKEI

兵庫県立六甲山ビジターセンター(記念碑台):無料会場

公募大賞グランプリを受賞した五月女かおる《食事の風景》は、緑の芝生が広がる記念碑台にある。近づくにつれてなにかの立体が浮かび上がってくる。草をついばんでいるのは動物、それとも自分?左と右、上と下、内と外、自分がいる場所によって見え方が変わっていく過程を追体験してほしい。

五月女かおる 食事の風景

いかがだっただろうか。ボリューム満点の「六甲ミーツ・アート芸術散歩2023 beyond」。今回紹介しきれなかった、魅力的な作品がまだまだある。どうぞ時間に余裕を持って訪れてほしい。また次世代プログラムとして、子供向けのワークショップも実施されており、親子連れでも楽しめる機会も増えている。旧グランドホテル 六甲スカイヴィラでは、10月14日13:00〜16:00にイラストレーター・アーティストの遠山敦によるワークショップ「とりモビールをつくろう!」も行われる。詳細はこちら

味噌デミグラスバーガー

アートだけでなくお腹も満たしてあげよう。会場にある飲食店でいただける、六甲山麓で育まれた六甲味噌を使用した期間限定メニューもおすすめのひとつ。会期の長い六甲ミーツ・アートの魅力は、四季の変化により作品の変化を楽しめるところにある。何度も足を運んで、六甲山の自然と溶け込み風合いを変えていく作品群を体感してほしい。

小倉ちあき

小倉ちあき

ライター・編集。企業での広報部勤務を経て、独立。主に地域・アートの領域で執筆する。WEBメディアの運営も。プロジェクトや取材に合わせて、各地を巡る。テーマは居場所と移動。