2015年は10年代を前後にわける節目の年。政治の上では大きな嵐が吹き荒れ、世間では炎上問題がたびたび取りあげられた。1990年代生まれ(アフター90年代)は、現在15~25歳。国会前で街頭行動を牽引する学生達がいる一方、若い作家達について個人性やゲーム性が強まってきているとする指摘もある。かくいう筆者も91年生まれ。冷戦体制とバブル崩壊後の世界に生まれ、ネットの進化とともに育った我々とは一体”何者”か?同世代のキュレーター、ディレクター、アーティストからそれぞれアフター90年代の作家について印象を伺った。
――今年6月16日より東雲にあるG/P galleryでの『THE EXPOSED#9 passing pictures』にて90年生まれ前後のアーティストを集めて飯岡さんはキュレーションしましたが、このメンバーになった理由を教えていただけますか?
飯岡: まずTHE EXPOSEDという展覧会は「拡張する写真」をテーマに若手作家を紹介する目的で開かれているものです。今回の展示はシリーズの9回目にあたる展示で、ゲストキュレーターとして企画をさせていただくことになりました。シリーズであることから前提となっていたことがまず2点、画像や写真に関連する展覧会であることと、若手作家を紹介することです。そういった前提に私自身の興味を加味し、90年前後生まれの4組の作家をお誘いすることとなりました。Passing Picturesという言葉は造語です。展覧会ではキュレーションのテーマを「物質化されたイメージと身体」としています。イメージというものに対して身体をぶつけていこうとしているけれど、イメージは物体ではないのですり抜けていってしまう、あるいはそれでもぶつけようとする。Passing Picturesを直訳すると通過する写真映像という意味ですが、「身体のすぐそばを」通過する写真映像という意味で名付けました。ここでは身体が起点になっていることが重要でした。
飯岡: どうなのでしょう。例えば1995年は日本におけるインターネット元年と言われますが、私は1992年生まれなので、物心ついた頃からコンピュータやインターネットに触れてきました。本やお聞きした話で補完するしかないのですが、コンピュータやインターネットが誕生し、普及していく様を体験していた世代にとって、それらは物珍しく、世界を変えるようなものとしてあったのではないかと思います。私にとってむしろそれらは身体化されています。つまり、それらに特に物珍しさを感じることはなく、だからこそとりたて強調するものではなく、日々の生活や同時代の社会状況のあくまで一つでしかないように思います。
私の実感と社会的背景と連動させて考えるとすれば、現代においてインターネット元年から20年ほど経ち、インターネットにユートピアを見る、といった視点は勢いを失っているように感じます。それと同時にインターネットの普及を背景にした、例えば「シミュラークル」や「表象との戯れ」などの言葉で言い当てられてきた作品の実効性が薄れているように思うのです。そうした中で、映像理論などで注目があつまっているように、モニターの手前側の画面と身体の直接的な関係を巡る問題であったり、物質と身体を巡る問題ということに実感を持っています。アフタートークでも身体論をベースに研究をされています伊藤亜紗さん(東京工業大学リベラルアーツセンター准教授, 美学)をゲストに迎えさせていただきました。
飯岡: 立ち直るというニュアンスはあまりないですね。まだまだ理論的に弱かったり、突っ込みどころもたくさんあると思うのですが、そういった部分を詰めていきながらきちんと今の時代と向き合って活動していくしかない、と思っています。
――それでは、実際にアフター90年代のアーティストの紹介に移らせて下さい。飯岡さんが現在注目しているアフター90年代アーティストはいますか?
飯岡: 事前に用意をお願いされていて、どうしようかと思ったのですが、今までお答えしてきたように、同世代にこだわって活動をしてきたわけではないので、これまで私の関わってきた作家を紹介したいと思います。今回の展覧会に出品してくれた4人(山内祥太(b. 1992)、PUGMENT(b. 1990)、渡邊庸平(b. 1990)、三野新(b. 1987))はもちろん、前回の『回路を抜け出して』という印刷物の企画で仕事をさせていただいた佐藤雅晴(b. 1973)や鈴木光(b.1984)、久保ガエタン(b. 1988)。現在愛知県美術館で展示を行っている飯山由貴(b. 1988)にも注目しています。<※敬称略>
<記事内で紹介した作家>
・山内祥太 / Shota Yamauchi
・PUGMENT (www.pugment.com)
・渡邊庸平 / Yohei Watanabe
・三野新 / Arata Mino(www.aratamino.com)
・佐藤雅晴 / Masaharu Sato(www.masaharu-sato.tumblr)
・鈴木光 / Hikaru Suzuki
・久保ガエタン / Gaetan Kubo
・飯山由貴 / Yuki Iiyama(yukiiiyama.flavors.me)
[TABインターン] 荻野智視: 1991年生まれ。日本大学生物資源科学部卒業。TABインターン終了後、月刊誌を発行する出版社へ勤務予定。趣味は絵画と詩の制作。昨年衝動買いした『失われた時を求めて』を読破するのが人生の目標。