公開日:2007年7月2日

RESFESTジェレミー・ボクサーとのインタビュー

国際的なデジタル映画祭、RESFESTが今年で10周年。6大陸、45都市をツアーするこのフェスは、笑えたり、挑戦的だったり、奇怪、問題アリ、そして何よりもクールなミュージックビデオやショートフィルムを世界中のシネマで上映。

11月23-26日にRESFEST 2006の日本ツアーが原宿、ラフォーレで行われ、その後京都や神戸で(そして限られたスクリーニング仙台と福岡で)開催された。今回、プログラミング・ディレクターのジェレミー・ボクサーに、RESFESTの歴史とコンセプトについてお話を伺いました。

RESFESTの歴史について教えてください。
もともと12年前、デジタル映画やデスクトップで作成した映像のためのフェスとしてスタート。その頃の目的は、ハイクオリティーの映写の場を提供すること、そしてMTVなんかでは上映されないけど絶対観る価値あるようなデジタルビデオを上映することだった。

今年、RESFESTは10周年。過去10年で大きな変化はありましたか?
「デジタル」という言葉の定義が変わったような気がする。10年前、「デジタル」といえば最先端の、ハイテクなものを指した。フォトショップやファイナル・カットなんかのプログラムが発売されたばかりで、まだまだ高価なものだった。でも今ではあの頃より数倍優れたプログラムをとても安く買える。すると、若いアーティストはチャンスが一気に広がる。王道とは一味違うビデオを、低予算で簡単に作れちゃうからね。現在の社会はデジタル化が進んでいて、もはや珍しくもなんともない。むしろ「アナログ」の方が古いものや、特定な手法なんかを指す言葉になってきた。

RESMIX Shorts: 高木正勝 「Toner」
RESMIX Shorts: 高木正勝 「Toner」

これらの変化はRESFESTにどのような影響を与えましたか?
実は3年前、「デジタル映画祭」っていう名前を変えようという話が挙がったんだ。10年間の間にフェスの終点が序所に違う方向へ向き始めたんじゃないか、ってね。現在は「デジタル」ってこだわりはそれほど無く、どちらかというとビデオに込められたアイデアを重視。始めた頃、このフェスは上映される機会が無いビデオを発表する場だったんだけど、今ではインターネットや携帯を通して気楽にデジタルメディアを楽しめるようになった。そんな中、RESFESTは新しい意味、新しい在り方を追求し始めたんだ。

その新しい方向性とは具体的に何ですか? デジタル社会の中でのデジタル映画祭の必要性とは何だと思いますか?
まず、RESFESTは今世界で流れてる映像のうちベストなものだけを提供する、いわばフィルター的存在。現代社会では、誰もがYoutubeなんかでいろんなビデオを観れちゃう。でも、良い作品をわざわざ探り出す時間は無い。だから、我々は選りすぐりのものを厳選して上映するんだ。

二つ目に、RESFESTは大画面で映像を観る機会を与えてくれる。大画面で観るっていうのは凄く特別な体験。細部がより明確になるし、時間の流れ方も違う。しかも、大音量で聴くからインパクトも強い。

三つ目に、大勢の人と上映会場という社交的な場所に自ら出向かうことに大きな意義がある。観客と一緒に、つまり他人のリアクションと共にビデオを観ると、全く新たな視点が見えてくるもの。それと、このフェスにはクリエイティブなコミュニティーから大勢の人々が集まってくる。映画作家、アーティスト、それにアート業界関係者が集い、時には10年ぶりに再会する人々もいる。で、フェスの後に飲みに行って新しいプロジェクトが生まれたりする場合もあるんだ。今後、RESFESTのこの面をもう少しプッシュしたいと思ってる-つまり、クリエイティブなコミュニティーの集いの場という立場をね。

A decade of RESFEST: Garth Jennings 「Jon bon Jovi's Pool Cleaner」
A decade of RESFEST: Garth Jennings 「Jon bon Jovi's Pool Cleaner」

RESFESTが目標とするものは何ですか?
我々の目標は昔から変わらず、“Entertain, Inspire, Educate”-「楽しませる、刺激する、教育する」。最初の2つはある程度満たしているから、今後は3つ目、つまり若いアーティストのクリエイティブと技術的な教育に力を入れるべきだと思っている。一種のサイクルなんだ:良質のビデオを観客やクリエーターに見せる事によって、それらと同等の、もしくはそれ以上のビデオを作るよう刺激する。ただ、場合によってはどうやって取り組めば良いかがわからなかったり、技術的なアドバイスを要する人もいる。それなら、我々が教育してあげられればいいなと。若いアーティストは選択肢が多すぎて混乱してしまう事が多いから、まずは制限を作ってあげることが大事。シンプルである事が何よりも大切:1つでいいから、最高のアイデアを見つけ、それを育てる。それが良いビデオを作る鍵。例えばRESFESTのクリエーターのトークショーなんかは、始めたてのアーティストに凄く役立つ。今年は低予算制作の経験が豊富なUKのニマ・ヌリザデ(リリー・アレン、ホット・チップ、ジュニア・シニアなどのビデオ監督)を招いて、いろんな興味深い話をしてもらった。

Videos That Rock: Nima Nourizadeh/Hot Chip「Over and Over」
Videos That Rock: Nima Nourizadeh/Hot Chip「Over and Over」

RESFESTの日本ツアーにはたくさんの日本のビデオが上映されていますが、日本のビデオやクリエーターについての感想は?
日本人のクリエーターはとてもユニークだと思う-外国人とは全く感覚が違う。ただ、予算が限られているようだね。アイデアはイイけど、低予算のせいで技術的に限界があるのが目に付く。きっとJ-POPなんかのミュージシャンがお金を全部使っちゃうから、他の連中にはまわってこないんだろう。だからと言って、決して悪いビデオって事じゃない-我々はアイデアさえ良ければ、差別しない。現在、イギリスやアメリカは日本から刺激を受けようとしている。だから日本人クリエーターはもっと自信を持つべきだ。少なくともRESFESTにはもっとたくさんのビデオを送ってきて欲しい。

RESMIX SHORTSのプログラムで上映される日本のショートフィルムはとても日本的なユーモアが満載ですが、外国人に見せてもウケるのでしょうか。。。?
そうだね、確かに日本のユーモアは独特。でもどの文化だってそうさ。ただ、その中でも世界共通に誰が観てもわかるようなビデオもあって、我々はそういうのを選抜することが多い。例えばNAMIKIBASHIの「The Japanese Tradition」シリーズはウケがいい。サンフランシスコで“SUSHI”バージョンを上映した後にお酌しながら「オットット!」って実際に言う人が続出したんだよ! あれは大ヒットだったし、日本のジョークでもちゃんとわかってくれた。

RESMIX Shorts: Namikibashi 「折り紙」
RESMIX Shorts: Namikibashi 「折り紙」

今年のRESFEST東京ツアーについて一言。
東京上映一日目に観客に聞いたところ、観客の80%が以前RESFESTに来たことがあったらしいんだ。それは良いことだけど、ちょっと考えものでもある。各国によって状況は全く違う-韓国では6日間で15,000人が集まるし、ロンドンでも一度に3つのプログラムを同時上映してる。東京では、RESFESTを好きだったり昔から知っている人々、または業界関係者なんかが多いようだね。

今後のRESFESTはどんな展開を見せるのでしょうか? 
今年は意識的に、RESFESTがツアーする全ての国からのビデオをプログラムに導入した。今後も、ローカルで製作されるビデオをグローバルの場で上映するという、国際的な面を追及していきたいと思ってる。あと、近々オンラインでもビデオ上映をする予定。やっと今になって、満足のいく画質と近接性でRESFESTのウェブ・バージョンが作れそうな時代がやってきたって感じかな。まだ準備段階だけどね。とりあえず、これからもどんどんビデオを送って欲しい!

ジェレミー・ボクサーさん、ありがとうございました!

※ RESFEST 10 の福岡・仙台開催日(2007年):

2月3日(土)~4日(日)   福岡アジア美術館
2月23日(金)~24日(土)   せんだいメディアテーク

(東京でのRESFEST 10は11月23-26日に開催されました)

RESFESTのウェブサイトでフェスの情報や今後のツアー日程をチェック




(和訳:大石礼那)

Lena Oishi

Lena Oishi

日本生まれ、イギリス+オーストラリア育ち。大学院では映画論を勉強。現在はVICEマガジンやアート/メディア関連の翻訳をはじめ、『メトロノーム11号—何をなすべきか?東京』(2007年、精興社)の日本語監修など、フリーランスで翻訳関連の仕事をしている。真っ暗闇の中、アイスクリームを食べながら目が充血するまで映画を観るのが好き。