忙しい都心の生活。生活をスローダウンさせるためにも、郊外へ旅行に行きたいとは思いつつ、泊まりは少しハード……そんなことを感じたことのある方に向けて、本記事では都内から近い順に、日帰りで訪れることができる美術館やアートスポットを紹介。なお現在開催中の展覧会は、施設名のリンク先からチェックしてほしい。
*掲載していたヴァンジ彫刻庭園美術館は、2023年9月30日に閉館
現在、県内にふたつの施設を持つ神奈川県立近代美術館は都内からのアクセスが良好。三浦半島西側、相模湾に面した葉山館、鶴岡八幡宮にほど近い鎌倉別館どちらも、高速道路と横須賀京浜道路を使えば車で1時間ほど。電車でも東京駅から1時間半弱と、日帰りで訪れるにはちょうどいい。
1951年、日本で最初の公立近代美術館として開館した当初は、鎌倉市の鶴岡八幡宮境内にあった鎌倉館のみの一館体制だったが、その後、鎌倉別館と葉山館の開館や鎌倉館の閉館を経て、2016年度以降、現在の2館体制にいたる。
およそ1万5000点におよぶコレクションは国内作家による洋画や彫刻など、西洋美術の影響を多分に受けた伝統的な表現方法の作品が多く、どちらの館も敷地内に設置された野外彫刻が印象的だ。またコレクションの紹介のみならず現代作家の仕事も積極的に紹介しており、たとえば2022年は、葉山館で画家・舞台芸術家として活躍した朝倉摂や21世紀を牽引する写真家、アレック・ソス、鎌倉別館は幻想的なオブジェを写真に収める今道子や刺繍を用いる沖潤子の個展を開催している。葉山館にはレストランが、鎌倉別館にはカフェもある。休みの日にゆっくりと展覧会を訪れてみてはいかがだろうか。
・葉山館
住所:神奈川県三浦郡葉山町一色2208-1
開館時間:9:30〜17:00(最終入館は16:30まで)
休館日:月曜日(祝日の場合は開館)、展示替期間(ただしレストランと駐車場は月曜日を除き営業)、年末年始(12月29日〜1月3日)
アクセス:JR逗子駅または京浜急行逗子・葉山駅より、京浜急行バス「逗11、12系統(海岸回り)」で約20分「三ヶ丘・神奈川県立近代美術館前」下車
施設詳細
・鎌倉別館
住所:神奈川県鎌倉市雪ノ下2-8-1
開館時間:9:30〜17:00(最終入館は16:30まで)
休館日:月曜日(祝日の場合は開館)、展示替期間、年末年始(12月29日〜1月3日)
アクセス:JR・江ノ島電鉄線鎌倉駅下車、鶴岡八幡宮・北鎌倉方面へ徒歩約15分
施設詳細
千葉県佐倉市にあるDIC川村記念美術館もまた、高速道路を使えば1時間ほどで到着できる。佐倉駅から無料送迎バスが出ているほか、美術館へ直通する東京駅発の高速バスもおすすめだ。施設内は芝生が広がり、ヘンリー・ムーアの屋外彫刻などが設置されているほか、レストランやギフトショップもある。
同館は、旧大日本インキ化学工業として知られるDIC株式会社が1990年にオープン。設立者であり大日本インキの2代目社長である川村勝巳によって始まったコレクションは、戦後のアメリカ抽象表現主義や、近現代のヨーロッパ絵画などが中心だ。展覧会としては近年、カラーフィールド・ペインティングやミニマル・アートといった芸術運動を紹介している。マーク・ロスコの「シーグラム壁画」を恒久展示している幻想的な空間「ロスコ・ルーム」はぜひ見ておきたい。
住所:千葉県佐倉市坂戸631
開館時間:9:30〜17:00(最終入館は16:30まで)
休館日:月曜日(祝日の場合は開館し、翌平日に休館)、メンテナンス期間、年末年始
アクセス:東京駅八重洲北口から徒歩5分「京成バス 3番のりば」から高速バスで約60分、JR佐倉駅南口より無料送迎バスで約20分、京成佐倉駅南口より無料送迎バスで約30分
施設詳細
同じく千葉県内にある市原湖畔美術館もアクアラインを使えば都内から1時間ほどで到着可能だ。
1995年に開館した観光・文化施設「市原市水と彫刻の丘」のリニューアルにより、市原市の市制施行50周年を記念して2013年に誕生した同館は、人造湖・高滝湖を望む、豊かな自然に囲まれた美術館。金氏徹平や戸谷成雄、ミロコマチコなど、現代の作家を紹介する展覧会が開催されているほか、地域や子供たちのためのワークショップなども企画されている。
敷地内のレストラン「Pizzeria Bosso」では湖を眺めながら食べる釜焼きピッツァがイチオシ。生乳や落花生のジェラートもおすすめだ(「美術館アイス部」記事も要チェック!)。「首都圏のオアシス」を目指す同館を満喫し、リフレッシュしよう。
住所:千葉県市原市不入75-1
開館時間:10:00〜17:00(土曜日は9:30〜19:00、日曜日・祝日は9:30〜18:00)
休館日:月曜日(祝日の場合は開館し、翌平日に休館)
アクセス:JR五井駅より小湊鉄道に乗り換え高滝駅下車、徒歩で約20分、タクシーで約3分
施設詳細
車なら都内から2時間弱、小田原市にある江之浦測候所は、写真家・現代美術家として知られる杉本博司によって構想された施設。ギャラリー棟、石舞台、光学硝子舞台、茶室、庭園、門、待合棟などから構成される同館は、杉本が「将来、遺跡になることを想定して建設した」という。天空を見て自身の位置を「測候」することで、人類の営為としてアートの起源に立ち帰ることが目指されている。
石を基調とした施設による荘厳な雰囲気を通じて、古代から現代に至るまでの人類の歴史に思いを馳せてみてはいかがだろうか。
住所:神奈川県小田原市江之浦362-1
事前予約・入替制(詳細はこちら)
開館時間:10:00〜16:30(午前の部:10:00~13:00、午後の部:13:30~16:30)
休館日:火・水曜日、年末年始
アクセス:JR根府川駅より無料送迎バス、JR真鶴駅よりタクシー約10分
施設詳細
東洋美術の名品を数多く揃えるMOA美術館。熱海市にある同館は、都内からは車で2時間ほど、新幹線なら東京駅から1時間強でアクセスできる。
1982年に開館した同館は、美術家・杉本博司と建築家・榊田倫之が主宰する「新素材研究所」によって2016年から17年にかけて改修。現代的な空間に仕上がった。収蔵品は主に日本や中国を中心とした、絵画・書籍・彫刻など。尾形光琳の国宝「紅白梅図屏風」を筆頭に、国宝3点・重要文化財67点を含む約3500点を誇る。
レストランやカフェに加えて、定期的に公演を鑑賞できる能楽堂や、日本庭園「茶の庭」もあるため、ぜひ訪れてほしい。
住所:静岡県熱海市桃山町26-2
開館時間:9:30〜16:30(最終入館は16:00まで)
休館日:木曜日(祝休日の場合は開館)、展示替期間
アクセス:JR熱海駅より伊豆東海バス「MOA美術館行き」で約7分「MOA美術館」下車、JR熱海駅よりタクシーで約5分
施設詳細
富士山の麓、神奈川県箱根町にあるポーラ美術館。新幹線なら東京駅から1時間半ほどで、小田急線ロマンスカーと箱根登山鉄道を利用するなら時間はかかるものの、充実した小旅行が楽しめるだろう。
2002年にオープンした同館は、箱根の自然と景観に配慮し、高さを抑え地下を充実させた建築によって、大きなガラス面から入り込む光が印象的。およそ1万点におよぶそのコレクションはモネやゴッホ、ピカソなど、西洋絵画を代表する作家の作品で知られるが、開館20周年を迎えた現在は、ゲルハルト・リヒターやアニッシュ・カプーアなど、現代美術作品の収集にも積極的だ。
近隣には彫刻の森美術館や岡田美術館など、美術館やアートスペースが点在しているため、合わせて訪れるのもよいだろう。
住所:神奈川県足柄下郡箱根町仙石原小塚山1285
開館時間:9:00〜17:00(最終入館は16:30まで)
休館日:年中無休(展示替えのため臨時休館あり)
アクセス:JR・小田急小田原駅より箱根登山バス(直通)で約1時間、箱根登山鉄道強羅駅より施設めぐりバス「湿生花園」行で約13分など
施設詳細
1990年に開館した水戸芸術館は建築家・磯崎新による高さ100mの幾何学的な塔がシンボル。高速道路を使えば都内から車で2時間ほどでアクセスでき、美術展のみならず、音楽や演劇も楽しめる複合施設だ。美術作品を紹介する「現代美術ギャラリー」で開催されている企画展は近年、浅田政志や立花文穂、ピピロッティ・リストなど注目の作家が紹介されてきた。「コンサートホールATM」ではオーケストラを、「ACM劇場」では映像作品やミュージカル、落語などの公演が鑑賞できる。
住所:茨城県水戸市五軒町1-6-8
開館時間:10:00〜18:00(最終入館は17:30まで)
休館日:月曜日(祝日の場合は開館、翌平日に休館)
アクセス:JR水戸駅より、茨城交通バス「北口バスターミナル4~7番のりば」から約10分「泉町1丁目」下車、徒歩約2分
施設詳細
長野県との県境、山梨県北杜市にある清春芸術村も、東京から車で2時間ほど。1977年に創設者である吉井長三が、小林秀雄、今日出海、白州正子、正田英三郎、東山魁夷夫妻らと訪れたことをきっかけに、アーティストの創作と交流の場として構想がスタート。現在、敷地内には、谷口吉生設計の「清春白樺美術館」と「ルオー礼拝堂」や、安藤忠雄設計の「光の美術館」、ギュスターヴ・エッフェルの「ラ・リューシュ」など、名だたる建築家らによる作品が並ぶ。西に南アルプス、北に八ヶ岳、南に富士山を望む場所で、雄大な自然と作品を肌で感じられるはずだ。近隣には、杉本博司と榊田倫之による新素材研究所が内装を手がけた創作料理店「素透撫 stove」もあり、合わせて訪れたい。
住所:山梨県北杜市長坂町中丸2072
開館時間:10:00〜17:00(最終入館は16:30まで)
休館日:月曜日(祝日の場合は開館、翌平日に休館)
アクセス:JR長坂駅より北杜市民バス北部巡回線右回り10分「清春芸術村」下車、JR小淵沢駅より北杜市民バス北部巡回線左回り30分「清春芸術村」下車
施設詳細
東京駅から新幹線で2時間ほどで訪れることができる長野県立美術館は、松澤宥の個展や、ファッションブランド「Mame Kurogouchi」の展覧会が開催されるなど、注目の美術館だ。
1966年の開館以来、「長野県信濃美術館」として親しまれてきた同館は、2017〜21年の建替工事にあたり、「長野県立美術館」に改称。そのコレクションは郷土作家の作品・信州の風景画を中心とした近現代美術を中心に据える。コレクション展や企画展を開催する本館に加え、約1000点に及ぶ作品を収蔵する東山魁夷館も訪れておきたい。
住所:長野県長野市箱清水1-4-4
開館時間:9:00〜17:00(最終入館は16:30まで)
休館日:水曜日(祝日の場合は開館、翌平日に休館)、年末年始(12月29日〜1月3日)
アクセス:長野電鉄長野線善光寺下駅3番出口より徒歩12分、JR長野駅善光寺口よりアルピコ交通バス「宇木行き、若槻団地経由若槻東条行き、西条経由若槻東条行き」で「善光寺北」下車徒歩3分など
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