いま、世界のアート界では何が起こっているのか? ニューヨークを拠点とする藤高晃右が注目のニュースをピックアップ。今回は6月27日〜7月3日に世界のアート系メディアで紹介されたニュースを「アート教育にまつわる2つの記事」「美術館に関連した事件」「できごと」「アートマーケット」「おすすめの展覧会と読み物」の5項目で紹介する。
◎高額な授業料から学生を救う
写真作家のキャサリン・オピーがUCLAのアート学部長に就任した。多くのアーティスト教授にとってファンドレイズは頭の痛い仕事でできるだけ避けたいことの一つだが、オピーにとってはそうではないという。年々上がる高額な授業料から多額の借金を背負って卒業する学生が多い状況で、その状況を改善するためにも、まずは3年で10億円を集めると約束したという。奇しくも今週イェール大学の演劇学科に、音楽や映画ビジネスで成功したデヴィッド・ゲフィンが160億円以上寄付し、現在そして未来の学生は授業料が無料になることが発表された。
https://news.artnet.com/art-world/catherine-opie-new-chair-uclas-prestigious-art-department-wants-students-leave-debt-free-1985306
◎オンラインでアートの授業は難しい
コロナ禍で学校がオンラインに突然以降した昨年のアートの授業がどうだったかアメリカの6人の小学校、高校の先生へのインタビュー。それぞれ状況はバラバラでどの先生も大変だったよう。少なくとも去年の3月から夏休みまではほとんどの学校でアートの授業がなくなった。新学期の9月からは、オンライン、オフラインのハイブリッドで授業をしたり、あらかじめ録画したビデオで授業に替えたりしたが、学生によっては全然課題に手をつけていない子もおり、特にアートはオンラインでは難しかったよう。
https://news.artnet.com/art-world/art-teachers-pandemic-school-year-1983470
◎アート好きの泥棒
9年前にアテネ国立美術館から盗まれたピカソとモンドリアンの絵画が返還された。窃盗当時は手際のよさからプロの集団と思われていたが、名乗り出た犯人は単独犯の建設業者で、一人で6ヶ月毎日館に通って計画したと、またアートが好きで所有したくて盗んだと自供しているそう。
https://www.theguardian.com/artanddesign/2021/jun/28/greek-police-recover-two-stolen-paintings-by-picasso-and-mondrian
◎有名コレクターが逮捕
リスボンのベラルド現代近代美術館創設者の有名コレクターが詐欺と資金洗浄の疑いで逮捕された。3つの銀行から1300億円以上の借金の踏み倒しで訴えられており、アートコレクションが担保に取られないようにと別の信託に移したことも罪に問われている。ただ、捜査では銀行の側のプロセスも批判しており、現状ではもう一つ全体像がつかめない事件。
https://www.bbc.com/news/world-europe-57659923
◎美術館は収入減
マドリードのプラド美術館は昨年の収入が75.5%減って、約25億円の赤字に陥ったことがわかった。入場チケット販売が84%減、ミュージアムショップやレストランの売上が90%減。これはプラドに限ったことではなく、ルーブルでも入場者数が72%減って120億円以上の収入減。
https://www.artnews.com/art-news/news/prado-museum-covid-revenue-loss-1234597130/
◎美術館職員の給与とコロナ禍
アメリカ美術館長協会による毎年の美術館職員の給与調査の結果が出たそうで、コロナによる給与額への影響は軽微だったよう。北米では西海岸が一番影響が大きく平均2.1%減。調査に回答した151の美術館の役職別の平均年収が一覧で見ることができる。年収約3500万円の館長から、350万円の館内案内担当まで幅広い。
https://news.artnet.com/art-world/aamd-salary-survey-2021-1984578
◎ルーベンスのドローイングと判明
あるフランス人収集家が数十万円で購入した2枚のドローイングが、ルーベンスだと鑑定され、競売で数千万円の落札が予想されている。この2枚はルーベンスがイタリア滞在中に描いたスケッチブック「Theoretical Notebook」の一部だと考えられている。オリジナルのスケッチブックはパリで1720年に火事で失われたが、写しはいくつか残っており、一番有名なのはアンソニー・ヴァン・ダイクによるものでイギリスに保管されている。ルーベンスのオリジナルのものはこれまで2枚だけ焼け残りそれぞれロンドンとベルリンに所蔵されているが、今回新しくさらに2枚がルーベンスの手によるものだと発見された。
https://www.theguardian.com/artanddesign/2021/jun/27/rare-rubens-drawing-bought-at-small-french-sale-up-for-auction
◎ストリート名の性差
NY、ウィーン、パリ、ロンドンにある、人名からとったストリート名を研究者らが分析。例えば、女性の名前はウィーン54%、ロンドン40%、NY26%、パリはたったの4%。その理由としてパリは1860年代にナポレオン三世が街の変革をした際につけられた名前が大半だからとのこと。NYは1998年に法律が変わってつけられたものが大半なので20世紀後半の人物が多いという。
https://www.courthousenews.com/gender-bias-lingers-in-street-names-of-global-cultural-centers/
◎LGBTQ+の歴史・文化に関する博物館が設立へ
NY最古の博物館であるニューヨーク歴史協会の拡張に伴って、その拡張部分内にNYではじめてのLGBTQ+の歴史・文化に関する博物館が設立されることが決まった。24年の完成を目指す。ソーホーに1969年からあるLGBTQ+美術館であるレスリーローマン美術館を補完する活動内容の予定。
https://news.artnet.com/art-world/new-york-historical-society-expansion-1985178
◎アートライターが受賞
Dorothea and Leo Rabkin Foundationが8名のビジュアルアートジャーナリストを表彰し各自に約550万円の賞金を送った。2017年からスタートし、今年で5年目。アーティストへの賞は多いが、アートライターへの賞は珍しい。
https://hyperallergic.com/660700/hyperallergic-editors-receive-rabkin-prize-visual-arts-journalism/
◎デジタル化で変わる作家とギャラリーの関係
ロックダウンで画廊が閉まっていたにもかかわらず、オンライン化のおかげでアート市場は意外と無難に乗り切れたそう。またそもそも以前から中堅以上の作家はスタジオを構え何人もの人を雇って、一つの画廊が売れるより多くの作品を作っており、世界のいくつもの画廊とビジネスをしてきた。さらにデジタル化によって作家の独立性と起業家精神が強まる方向に関係が変わりつつあるという。新人作家にとってインスタグラムが大きなプラットフォームになっており、やはりデジタル化で作家とギャラリーの関係が変わってきているという。
https://www.artnews.com/art-news/market/gallery-as-service-1234597283/
◎大手画廊で初のNFTプラットフォーム
ペースギャラリーが、大手画廊でははじめて自前でNFTを売るプラットフォームを自社ウェブサイト内に9月にオープンする。また、デジタル、フィジカル問わず、作品販売の際に暗号通貨での支払いを受け付けるという。
https://news.artnet.com/market/pace-gallery-nft-1985646
◎ダリの静かで穏やかな一面
サルバドール・ダリはコスチュームで着飾った派手なパーティーでの奇抜なイメージが定着しているが、フロリダにあるダリ美術館での「Dalí at Home」と題した展覧会では、それらハレの舞台ではなく、プライベートな日常、家での制作風景などの写真で、彼の静かで穏やかな一面を見ることができるという。
https://news.artnet.com/art-world/salvador-dali-port-lligat-photographs-parties-1985301
◎「遊牧的美術館」とは?
イタリアのベアトリス・トラサルディ財団が新しく「遊牧的美術館」をスタート。第1段はスイスアルプスの徒歩か馬でしか行けない場所にポーランド人アーティストのPaweł Althamerがインスタレーションを作る。キュレーターはNYのニューミュージアムのマッシミリアーノ・ジオーニで、今後も世界中の忘れられた土地でサイトスペシフィックな展覧会を企画していく。
https://news.artnet.com/art-world/trussardi-new-project-1985097
◎トーマス・ハウセゴ インタビュー
彫刻家として知られるトーマス・ハウセゴへのロングインタビュー。幼い頃父親から虐待を受けてずっとトラウマを背負って生きてきたが、2019年に父親が亡くなってかなりきつい状況に追い込まれたという。そこからのセラピー、サバイブ、そしてこれまでの彫刻作品とは全く違う新しい絵画作品の制作に至った経緯や葛藤などについて語っている。
https://news.artnet.com/art-world/thomas-houseago-1977841