トレンド予測の第一人者、リー・エデルコートがディレクターを務める「ポスト・フォッシル:未来のデザイン発掘」展が、六本木・東京ミッドタウンの21_21 DESIGN SIGHTにて開催中です。出展数は約190点。エデルコートが「ポスト・フォッシル(すなわち化石燃料時代の次へと向かう)時代のクリエイター」と呼ぶ10カ国71組の新世代のデザイナーやアーティストが参加しています。
エデルコートは幅広い分野において、トレンド分析やコンサルティングを行う専門家です。アートやデザイン、消費者文化などの関係性を研究する一方、私たちがいま置かれている社会的・経済的状況を独自の鋭い視点で観察し、分析しながら、彼女はトレンドを予測していきます。
世の中に出始めた漠然とした傾向や未来のデザインを目に見えるトレンドとして形にしていく作業は、考古学の発掘作業に似ているとエデルコートは言います。展覧会タイトルにもある『未来のデザイン発掘』はそういった彼女の分析スタイルからつけられたものでもあります。
それでは、出展作品を見ていきましょう。
アニミズムへの関心の高まりから、自然との関係は深まり、私たち人間と動植物との関係はより密なものになるだろう、とエデルコートは言います。ゲオルグ・パンテル《ロッキー》、ジュリア・ローマン《ベリンダ、シッガ、エルス》の二作品は「動物の再生」をテーマに物語性をはらんだ作品です。いずれも、私たちが口にしている肉がどこから来るのか、ということに注意を喚起した作品でもあります。
次世代のデザイナーたちは、生物の成長過程に倣った骨格構造に着目し、フォルムに生命感を与えようとします。また、古来から伝わる先史時代的な手法を捉え直し、新たなデザインへとつなげています。素材には土や石、火などがよく用いられています。
デザイナーたちは家具自体をつくり出すのではなく、さらにリラックスできる空間を自然の中に求め、インテリアのなかに風景をつくり出そうと試みます。エデルコートは、インテリアデザイナーでさえ、抽象的なデザインを好む傾向にあると分析します。
以上、オーガニックな素材を用い、古代の手法を捉え直して新たなデザインを創造した作品を中心に紹介しました。他にも本展では、樹木や骨格の成長プロセスに基づき開発したコンピュータ・プログラムを利用するなど、科学とデザインを組み合わせた作品も多数展示されています。今後は異分野をまたぐデザインが増えていくようになるのかもしれません。
私たちを取り巻く状況に目を向けてみましょう。長引く金融危機の影響などで世界経済だけでなくあらゆる基本構造の大変換が起こると言われ、転換期を迎える現在。私たちの価値観も変わりつつあります。物質主義から脱却すべき時代を生きる私たちにとって、豊かさの本質とは何か? 意味のある消費とは何か? 充実したライフスタイルとは何か? 次世代のデザイナーたちの作品を見ていくことで、それらの問いを考えるヒントになるような展示でした。