公開日:2007年6月21日

「土から生まれるもの:コレクションがむすぶ生命と大地」展

東京オペラシティアートギャラリーは、これまで企画展と並行して収蔵品のコレクション展を継続的におこなってきた。アートギャラリー全館を使った今回の展示は、その2600点以上におよぶオペラシティの収蔵品を「生命と大地」というコンセプトのもとに編み直したものである。

「土から生まれるもの」というタイトルが示すとおり、本展は現代の陶芸作家による作品にも焦点を当てている。オペラシティが収蔵する「東京オペラシティコレクション」は、日本の近代画家である難波田龍起(1905-97)の蒐集で知られるが、この陶芸という分野においてもまた、本コレクションの充実は著しい。今回の展示では、その中から秋山陽、伊藤慶二、鈴木治といった作家を中心に、60点余りの陶芸作品を目にすることができる。

そのメディウムの特性上、焼きものは「土」ないし「大地」と密接に結びついている。改めて確認するまでもなく、「土」は焼きものにとって欠かすことのできないもっとも本質的な構成要素であり、それゆえに焼きものはしばしばそれ自体が「大地」の表象であるとすら見なされる。だが一方で陶芸は、そうした素材上の制約、および実用に耐えうる「もの」としての性格ゆえに、コンテンポラリー・アートとは無関係な存在であるかのように見なされることも少なくない。とはいえ、こうした考え方が陶芸というものに対する通俗的な見方を踏襲しているにすぎないということは言うまでもなく、実際、焼きものが陶土や鉱物から出来ているという本質的部分に着目したとき、それはわれわれが知るような「焼きもの」の枠を幾重にもはみ出していくだろう。

たとえばそれは、本展のギャラリー1に展示されている小川待子のインスタレーションからも顕著に見てとることができる。陶板の釉薬の分子式を題にもつ彼女の作品は、「陶土」や「釉薬」のもとである「鉱物」を、きわめて明瞭な仕方で可視化している。ひび割れや欠けをもつ作品の形態は、一般に知られる「うつわ」のかたちとはだいぶ隔たっているが、その「器」としてのかたちを自由にとらえながら、陶土や磁土、釉薬の美しさを存分に引き出しているといえるだろう。

これらの陶芸作品以外にも、李禹煥、押江千衣子らの絵画やニルス・ウドの写真など、本展では「土」をテーマに多様な表現を目にすることができる。土、そして鉱物という陶芸の基底材が「生命」や「大地」といった主題への問いを開き、絵画を中心とするコレクションが新たな顔を覗かせる。通常、コンテンポラリー・アートの企画展で知られるオペラシティアートギャラリーにおいて今回のような展示を目にすることは、その意外性とも相俟って、極めて興味深い体験になるにちがいない。

Futoshi Hoshino

Futoshi Hoshino

1983年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程在籍。専攻は美学、表象文化論。哲学/美学における美、崇高、表象といった概念をめぐる問題の研究に従事するかたわら、写真家として過去に「反映と生成」(2006)「複製/複製 ’」(2007)などのグループ展に参加。<a href="http://starfield.petit.cc/">Personal Page</a>