東京都写真美術館の収蔵作品を中心に構成された同展では、写真の黎明期から現代にいたるまで絶えず問われつづけてきた「光と影」という主題に対して、ひとつの通時的な視点が与えられている。つまり、写真の発明からフォトグラムなどの実験的な試みを経て、写真による表現が多様化していくという一連の過程がそれである。二部構成の第一部「光の画」は19世紀のタルボットの写真によって幕を開け、20世紀前半のモホイ=ナジ、マン・レイらの写真を経て、石元泰博、山崎博ら現代の作家たちの作品がそれに続く。第一部の後半、および第二部「影なるもの」では、1960年代のリー・フリードランダーをはじめとする10人の現代作家の写真が展示されているが、そちらに比べると「光の画」の前半ではとりわけ歴史的な視点が強く打ち出されているといえるだろう。事実、20世紀後半以降の多種多様な写真表現は、あくまでも19世紀における〈自然の写し〉としての写真術の発明と、写真というメディアの可能性を押し広げた20世紀前半の実験的作品群の延長線上にあるものだ。同展の会場構成は、その事実をあらためて確認するかのようである。
カロタイプを発明した科学者ウィリアム・ヘンリー・フォックス・タルボットは、世界初の写真集『自然の鉛筆』において、写真を絵画とのアナロジーにおいて捉えている。彼は同書において、当時世間に広まりつつあった「写真術」(photography)を、「自然の手」による絵画であると紹介した。「人間の手」によって生み出される絵画とは異なり、写真は「自然の手」によって生み出される。この時点ではまだ、写真の根源的条件であるところの「光」は、絵画の図像を形づくる「筆」との類比において捉えられているにすぎない。だが、その後登場したフォトグラムやソラリゼーションといった技法は、むしろ「光」という写真に固有の要素を最大限に用いることで、写真独自の表現を押し広げることに大きく貢献した。いわばこの時期において、写真はみずからの媒質である「光」を、主題として前景化させたといえるだろう。