日本語には、“はつゆめ”のようなロマンチックな言葉がたくさんあると思う。一語の中に、人生の多くの瞬間を読み取ることができて、小さな言葉の中に込められた際限のない感情を推し量ることができる。”LOVE”や”PEACE”といった単語では表現できない、人生とともにある人の感情の豊かさを表す高次の単語。もし、たとえば英語で同じことを表現したいと思ったら、きっと一単語のかわりに、少なくとも一文を要するはずだ。ビル・ヴィオラの作品のひとつひとつが、この高次の単語で表現されているように思うのは、彼が日本で過ごした日々によるものなのか、はたまた彼を取り巻く人生の渦をストレートに表現するとこうなるのか、『はつゆめ』というタイトルは、まるで答えのように、ビル・ヴィオラをすっぽりラッピングしている。
引き延ばされた人生の一瞬が、劇的に目の前で展開する。何度まばたきをしても、大きくは変わらない風景の連続の中で、それでも少しずつ何かが変化し、発生していく。まったく止まることなく、始まり、続き、終わり、始まり、続く。観客の目は、何が起こるのかをまるで知っているかのように、その予兆のような瞬間瞬間を、息をひそめて、まばたきをこらえて見つめる。ひとつひとつの作品が、起こっては流れる人生の一瞬一瞬にあてがう葬式のように見える。とても平凡だったり辛かったり優しかったり美しかったり恐ろしかったり苦しかったり嬉しかったり悲しかったりする、重なり合いながら続いてゆく、あらゆる瞬間のひとつひとつに与える貴い儀式。
ビル・ヴィオラ本人がオープニングレセプションのスピーチで、「今の世の中で、芸術だけが、何の翻訳も介さず、言葉の事情も超え、人の心に本当の意味で直接語りかけることのできる、唯一の残された手段」と真摯に語ったその言葉の通りに、『はつゆめ』は心の深いところへまっすぐ入り込む、高次の表現そのもの。文法を介さず、あなた自身と直接コミュニケーションを取ろうとする、一で千を表す美しい単語のような、底のない意味の集積。