「〇〇時代の△△展」といったような、どんなに客観を装っている展覧会でさえ、それらはある立場からの視点に基づき構成されている、言わば主観的なものでもあるのだ。そして実際に、そういったテーマの設定、作品の選出、構成などの企画作業を行うのが学芸員(=キュレーター)である。東京都写真美術館で行われている<キュレーターズ・チョイス展>は、館所属の学芸員全員と専門調査員がそれぞれのテーマに基づき所蔵作品の選出を行い、それぞれのスペースで展示を行うという、かなり思い切った試みだ。
近年、公立美術館では、予算削減の影響を受けていかにして所蔵作品をより多様な形で展示していくか、という工夫をしている。この企画もそのひとつであろうことは言うまでもないが、館としての企画ではなく、企画があくまで専門家個人の視点の複合により成立している点を逆手に取り、徹底して突きつめている点、また各人の氏名を全面的に押し出し、本当の意味でその展示の責任を負っている点で画期的である。(特に公立美術館では、担当学芸員の名前を公式にアナウンスすることは稀である)
結果として、ひとつの館の所蔵品から、実に様々な展示が実現している。
金子隆一(専門調査員)は個人と写真との関わりにおいて重要である様々な作品を選び、エッセイ的なテキストを合わせて展示。河村美枝子(学芸員)は研究を重ねてきた下岡蓮杖について。山口孝子(保存科学専門員)は、作品の保存や修復の手法。神保京子(学芸員)はシュルレアリスム。江戸東京博物館から異動してきた小林克(学芸員)は、戦後のヤミ市を撮った写真とその解説、、、などなど。
展示方法も含めてそれぞれがオリジナリティ溢れる内容、高いクオリティをもって実現されている。美術館の財産とは、建物や所蔵作品だけでなく、学芸員も含めたスタッフの能力なのだということを再認識させられる展覧会であった。
Makoto Hashimoto
Makoto Hashimoto