公開日:2007年6月18日

マリアの心臓・美少女展覧会

このタイトルを見て、レヴューを読み飛ばさないで欲しい。この展覧会には、名立たる人形作家、画家、漫画家、写真家の作品が一堂に会している。人形作家では、天野可淡、恋月姫、四谷シモンなど。画家では、宇野亜喜良、金子国義など。漫画では、萩尾望都。写真家では、今道子。

そして、何より重要なのは、ハンス・ベルメールの版画が5点出品されていることである。少しは興味が湧いてきたであろうか。

更に、興味を持って、実際に足を運んでもらうために、一つの「見方」を提示したい。その「見方」とは、「球体関節」と「痙攣」との結びつきである。日本における現代の人形作家の作る人形のほとんどが、球体関節人形という分類に属している。「球体関節」という名の通り、脚や腕の関節がボールジョイントになっており、人間のように四肢を動かすことができる。その人形の元祖が、ハンス・ベルメールによって制作された人形である。

「痙攣」は、シュルレアリスムの創始者アンドレ・ブルトンがシュルレアリスム的な美として、まず取り上げたものである。ベルメールも、理論的著作『イマージュの解剖学』の中で、痙攣に関わるものとして、ヒステリー患者について述べている。しかし、彼は目に見える形での痙攣にはあまり興味を示さず、その痙攣した患者の身体内部で起こっている性衝動の抑圧と転移のほうに関心をむけていた。ベルメールの上下に脚のついた人形は、下半身の性衝動が上半身に「転移」した姿を表しているのである。

日本の人形作家は、ベルメールの影響を強く受けはしたが、一方で日本独自の展開も果たしてきた。ベルメールが痙攣と球体関節を目に見えない形で結びつけたのに対し、日本の人形作家はその二つを目に見える形で示した。恋月姫の人形を見てみるとよい。体は心なしかのけぞり、四肢は緊張を含んでいる。そして、最も注目してもらいたいのは、人形の「手」である。手のひらは開かれ、指は奇妙に隆起し、まるで痙攣した患者の手のようである。痙攣的な美に対する、ある種の誤読(文字通りに読んでしまうこと)が、しかし、これほど可憐にして耽美的な芸術作品を生み出したことは稀有な例であろう。

ベルメールの人形の影響を受けながら、独自の展開を遂げる日本の人形作家たち。この動きは、まだまだ加速していきそうである。

Bunmei Shirabe

Bunmei Shirabe

Graduate student of Aesthetics - Tokyo University 1980年生まれ。写真、球体関節人形(ハンス・ベルメールなど)の研究。今現在、<a href="http://www.pg-web.net/index.html">photographers' gallery</a>中のoff the galleryにあるRevised Editionにて執筆中。またブログ<a href="http://d.hatena.ne.jp/BunMay/">「入院(完了)生活」</a>にて毎週日曜に写真集批評を継続中。