公開日:2024年7月25日

大山エンリコイサム、SHIMURAbrosのパブリックアートがポーラ青山ビルディングに登場

総合デザイン監修を建築家の安田幸一が務めたビル。大山エンリコイサム、SHIMURAbrosの作品のほか、名建築「土浦亀城邸」も見どころ

展示風景より、大山エンリコイサム《FFIGURATI #630》

今年3月に竣工したポーラ青山ビルディングは、最新鋭のオフィス環境に加え、スタートアップ企業を支援するインキュベーションスペースや多目的ホール、認可保育園や文化研究拠点を擁し、アート、文化、人、地域がつながる複合型のオフィスビル。ここに、大山エンリコイサム、SHIMURAbros(シムラブロス)のパブリックアートが設置された。

ビル上部にある、SHIMURAbros《シギラリア》

ユカ、ケンタロウからなる姉弟ユニットのSHIMURAbrosは、これまで映画にまつわる作品やその解釈を拡げた作品を発表。現在はベルリンでオラファー・エリアソンのスタジオ研究員として在籍している。今回ふたりは石炭紀にあたる3億年前に繁栄したシダ植物「シギラリア」をモチーフに4点からなる《悠久の光景》を発表。豊かに広がる樹葉をイメージした《つぼみ》と、シギラリアの幹をかたどった立体で、ベンチにもなる《待合のリゾーム》、ビルの上部に設置された《シギラリア》、そしてビル5階のグラフィック作品《系統樹》(*一般非公開)だ。

展示風景より、SHIMURAbros《つぼみ》
展示風景より、SHIMURAbros《待合のリゾーム》

いまはもう絶滅した「シギラリア」をテーマとした理由について、「大きな時間の流れで自分を上から眺めたり、視点を転換することが必要だと思った」と作家は語る。《つぼみ》も《シギラリア》も、時間帯によって色彩の移り変わりを感じられることが特徴で、とくに《つぼみ》は鏡のようになっており、そこに映り込む自分と街の重なりがドラマチックな光景を作り出していた。

展示風景より、SHIMURAbros《シギラリア》
展示風景より、《系統樹》*一般非公開

ストリートアートの手法を再解釈した描画法「クイックターンストラクチャー(QTS)」を起点とした作品を手がけ、ブルックリンと東京の二拠点で活動する大山エンリコイサムは、自身にとって最大規模のパブリックアート《FFIGURATI #630》を発表。本作が展示される14階テラスは原則ビル利用者しか立ち入ることができないが、「向かいのビルや地上からも見ることができるセミパブリックな空間として考えた」と大山。描線が左下から右上に駆け抜けていくような画面構成になっており、手すりを越えた部分にまで筆跡が見られる。リズムを伴って空に放たれていくような開放的な筆致が印象に残った。

展示風景より、大山エンリコイサム《FFIGURATI #630》
手すりを越えた部分にまで筆跡が見られる

建築設計の時点から作品ありきで計画が進んでいたと言う今回のコラボレーションは、作品とビルの調和が魅力だ。同ビルでは、フランク・ロイド・ライトの弟子が手がけた名建築「土浦亀城邸」も移築されており、一般公開の受付は9月2日からスタートする。この内部の様子も近日レポート予定だ。

野路千晶(編集部)

野路千晶(編集部)

のじ・ちあき Tokyo Art Beatエグゼクティブ・エディター。広島県生まれ。NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]、ウェブ版「美術手帖」編集部を経て、2019年末より現職。編集、執筆、アートコーディネーターなど。