公開日:2024年11月12日

「ポケモン×工芸展ー美とわざの大発見ー」(麻布台ヒルズ ギャラリー)レポート。世界的人気シリーズと伝統工芸の豪華なコラボを探せ!

2023年に石川・国立工芸館で開催され、アメリカや日本各地を巡回し、バージョンアップして東京開催へ。会期は2025年2月2日まで。

会場風景より © 2024 Pokémon. © 1995-2024 Nintendo/Creatures Inc. /GAME FREAK inc.

麻布台ヒルズ ギャラリーで全世界で絶大な人気を誇る『ポケットモンスター』シリーズと工芸作家のコラボレーション展「ポケモン×工芸展ー美とわざの大発見ー」が開催されている。会期は2025年2月2日まで。

2023年3月~6月まで石川・国立工芸館で行われた本展は、工芸の多種多様な素材と技法でポケモンに挑み、ひらめきと悶えと愉しみのなかから生まれた作品を公開する展覧会。その後、アメリカや日本各地の巡回を経てバージョンアップし、今回は追加作品を含む約80点を展示。

参加作家は池田晃将、池本一三、今井完眞、植葉香澄、桂盛仁、桑田卓郎、小宮康義、城間栄市、須藤玲子、田口義明、田中信行、坪島悠貴、新實広記、林茂樹、葉山有樹、福田亨、桝本佳子、水橋さおり、満田晴穂、吉田泰一郎。気になる作品をいくつかピックアップして紹介したい。

会場風景より © 2024 Pokémon. © 1995-2024 Nintendo/Creatures Inc. /GAME FREAK inc.

ポケモンの可愛らしい姿を表現

本展は、小さい頃からポケモンで遊んできた人も、ポケモンに馴染みのない人も楽しめる展覧会だ。工芸の繊細な技術とポケモンの愛らしい姿を、世代を超えて堪能できる内容となっている。全3章で構成されており、それぞれの章が異なるポケモンの魅力を引き出している。

第1章は作家が日頃から向き合ってきた金属、土、木などの素材研究、長年の鍛錬による優れた技術の成果がポケモンのフォルム、皮膚や毛並み、仕草や表情に抽出された「すがた ~迫る!~」

会場風景より © 2024 Pokémon. © 1995-2024 Nintendo/Creatures Inc. /GAME FREAK inc.

彫金作家・吉田泰一郎が挑んだのは、イーブイとその進化形3匹。イーブイには純銅の豊かな色艶が存分に活かされ、シャワーズには青銅、サンダースには金銀メッキ、そしてブースターには伝統の緋銅が施され、化学変化による色彩が際立つ。迫力満点の新作《ミュウツー》(2024)も見逃せない。

吉田泰一郎《シャワーズ》(2022) © 2024 Pokémon. © 1995-2024 Nintendo/Creatures Inc. /GAME FREAK inc. 
会場風景より © 2024 Pokémon. © 1995-2024 Nintendo/Creatures Inc. /GAME FREAK inc. 
吉田泰一郎《ミュウツー》(2024) © 2024 Pokémon. © 1995-2024 Nintendo/Creatures Inc. /GAME FREAK inc. 

20歳頃から本格的に木象嵌に取り組んでいる福田亨。一般的には平面で展開されるこの技法を、福田は立体造形へと発展させ、その繊細なタッチと生命感に満ちた表現で観客を魅了する。いっぽう、稀少な技術を継承する自在置物の第一人者である満田晴穂は、本展のために「自在置物として、そして満田の龍としてのギャラドス」を制作。

福田亨《飛昇》(2022) © 2024 Pokémon. © 1995-2024 Nintendo/Creatures Inc. /GAME FREAK inc. 
満田晴穂《自在ギャラドス》(2022) © 2024 Pokémon. © 1995-2024 Nintendo/Creatures Inc. /GAME FREAK inc. 

陶芸家の今井完眞の制作は、手びねりで成形したボディに削りを加え、最後に細部を足して作品を完成させるスタイルを貫く。今回はゼニガメ、コイキング、アーボック、キングラー、フシギバナをモデルにした作品を展示。細やかな皮膚の表現にぜひ注目してほしい。

会場風景より © 2024 Pokémon. © 1995-2024 Nintendo/Creatures Inc. /GAME FREAK inc. 
今井完眞《フシギバナ》(2022) © 2024 Pokémon. © 1995-2024 Nintendo/Creatures Inc. /GAME FREAK inc. 

葉山有樹は日本屈指の窯業地である佐賀県有田町出身の陶芸家。《森羅万象ポケモン壷》(2022)は、更紗で知られる「アラス・アラサン文様」に着想を得た作品だ。壷の表面には、無数の植物と500匹を超えるポケモンが描き込まれ、全体として完全な調和を見せる。

葉山有樹《森羅万象ポケモン壷》(2022) © 2024 Pokémon. © 1995-2024 Nintendo/Creatures Inc. /GAME FREAK inc. 
葉山有樹《超古代ポケモン玉盌》(2022) © 2024 Pokémon. © 1995-2024 Nintendo/Creatures Inc. /GAME FREAK inc. 

想像を膨らませる冒険へ

第2章は、ポケモンの育成・進化・交換などの要素や旅の仲間と育んだ友情など、工芸の素材と技とを携えて、作家たちが想像のフィールドを駆け巡る「ものがたり ~浸る!~」

ポケットモンスターシリーズの象徴とも言えるピカチュウ。テキスタイルデザイナーの須藤玲子による《ピカチュウの森》(2022)は作家が感じたポケモンの可愛さをテキスタイルで表した作品。インスタレーションの中に足を踏み入れ、写真撮影も楽しむことができる。

須藤玲子《ピカチュウの森》(2022) © 2024 Pokémon. © 1995-2024 Nintendo/Creatures Inc. /GAME FREAK inc.
須藤玲子《ピカチュウの森》(2022) © 2024 Pokémon. © 1995-2024 Nintendo/Creatures Inc. /GAME FREAK inc.

これまでほとんど携帯型ゲーム機に触れてこなかった池本一三が、本展をきっかけに『ポケットモンスター ソード・シールド』を初体験。そのインスピレーションで制作された器は、3章構成の立体絵巻だ。ポケモンファンにはお馴染みのモチーフが、池本の独特な風景描写とシームレスに交わり、見る者を引き込む。

会場風景より © 2024 Pokémon. © 1995-2024 Nintendo/Creatures Inc. /GAME FREAK inc.
池本一三《湖のほとりで》(2022)© 2024 Pokémon. © 1995-2024 Nintendo/Creatures Inc. /GAME FREAK inc.

林茂樹は、自身の作品が「国や文化、世代を超えた世界共通言語」となることを理想に掲げ、陶芸の新しい表現を追求している。本展のために制作したのは、特殊なスーツを纏ったポケモントレーナーの陶器作品《月光 Pokémon Edition》(2022)だ。繊細なディテールに想像の「遊び」もたっぷりと盛り込まれている。

林茂樹《月光 Pokémon Edition》(2022)© 2024 Pokémon. © 1995-2024 Nintendo/Creatures Inc. /GAME FREAK inc.

可変金物作家の坪島悠貴が手がけたのは、ココガラとアーマーガアの2匹のポケモンをひとつの可変金物で表現した作品。50以上のパーツで構築された小さなボディには、工芸を考える様々なヒントが巧妙に隠されている。

坪島悠貴《可変金物 ココガラ/アーマーガア》(2022) © 2024 Pokémon. © 1995-2024 Nintendo/Creatures Inc. /GAME FREAK inc.

暮らしのなかにあるポケモンたち

最後の章は、生活の様々なシーンを美しく整え、活力を与えてくれる工芸品の機能や装飾の文法と価値観にポケモンが挑戦する「くらし ~愛でる!~」

桑田卓郎が選んだモチーフは時代のアイコンであるピカチュウ。「現代の最高峰とも言える岐阜の量産技術を追求しながら制作するカップに配するには、ピカチュウ以外にありえない」とのリスペクトの気持ちがこもっているという。カップの底から姿を見せるピカチュウの愛らしさに、日本のものづくりの熱意を辿ることができる。

会場風景より © 2024 Pokémon. © 1995-2024 Nintendo/Creatures Inc. /GAME FREAK inc.
会場風景より © 2024 Pokémon. © 1995-2024 Nintendo/Creatures Inc. /GAME FREAK inc.

器からポケモンが飛び出したり、器がポケモンに切り取られたような遊び心あふれる作品を手がけたのは、陶芸家・桝本佳子だ。本展の企画趣旨を知った作家は、焼きものと切り離せない「炎」を想像し、迷わず「ほのおタイプ」のポケモンをモチーフに選んだという。

会場風景より © 2024 Pokémon. © 1995-2024 Nintendo/Creatures Inc. /GAME FREAK inc.
桝本佳子《ロコン/信楽壺》(2022) © 2024 Pokémon. © 1995-2024 Nintendo/Creatures Inc. /GAME FREAK inc.

植葉香澄の作品の印象を決定づけるのは圧倒的な文様のパワーだ。本展のモチーフに選ばれたポケモンたちが全身に色とりどりの文様をまとい、鮮やかに登場。一つひとつのデザインが繊細かつ大胆で、ゆっくりと眺めながらその意図を読み解く楽しさがある。

会場風景より © 2024 Pokémon. © 1995-2024 Nintendo/Creatures Inc. /GAME FREAK inc.

桂盛仁が「彫金」で重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定されるにあたり、とくに高く評価されたのが金具の制作技術だ。本展では、赤銅を用いたブラッキーの金具作品が登場。その可愛らしい姿は、グッズとしても購入可能で、ファンにはたまらない作品だ。

会場風景より © 2024 Pokémon. © 1995-2024 Nintendo/Creatures Inc. /GAME FREAK inc.

愛らしいポケモンと伝統工芸が出会うことで生まれる「かがく反応」に挑んだ本展。人間国宝から若手作家まで、20名のアーティストが真剣に向き合って、情熱を込めて生み出した作品が勢ぞろいしている。その熱意と技術をぜひ堪能してほしい。帰り道にグッズ売り場に立ち寄って、限定グッズをチェックするのもおすすめしたい。

グッズ売り場より  © 2024 Pokémon. © 1995-2024 Nintendo/Creatures Inc. /GAME FREAK inc.
グッズ売り場より  © 2024 Pokémon. © 1995-2024 Nintendo/Creatures Inc. /GAME FREAK inc.
グッズ売り場より  © 2024 Pokémon. © 1995-2024 Nintendo/Creatures Inc. /GAME FREAK inc.

ハイスありな(編集部)

ハイスありな(編集部)

「Tokyo Art Beat」編集部。慶應義塾大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。研究分野はアートベース・リサーチ、パフォーマティブ社会学、映像社会学。