世界屈指のピノー・コレクションをソウルのヘルツォーク&ド・ムーロン建築で見る。「Portrait of a Collection」(ソンウン)レポート

名高いピノー・コレクションが、ソウルで初披露。60点以上の作品が展示され、ヤン・ヴォーやフェリックス・ゴンザレス=トレスなど、世界的アーティストの視点と表現を通じ、現代アートの多様性を発見する。

ソンウン入口のデジタルサイネージ

カンナムの大通りに目を引く建物がある。堅牢な外壁、そして鋭角に切り立った壁面。ヘルツォーク&ド・ムーロンによる建築のSTソンウンビルだ。2021年にオープンしたソンウン文化財団による複合文化スペースとなっている。ソンウン文化財団は1989年に設立された非営利団体で、2001年から韓国の有望な現代アーティストを育成し、受賞者のキャリアを促進する「SONGEUN アートアワード」を開催している。

ソンウンSTビル外観 ヘルツォーク&ド・ムーロン建築は高層ビルの多いカンナムでも際立つ  © SONGEUN Art and Cultural Foundation and the Artist / Jihyun Jung. All rights reserved.

存在感を放つ建築の中で、展覧会「Portrait of a Collection」が、2024年9月4日から11月23日まで開催中だ。サンローランを擁するケリング会長兼CEOのフランソワ=アンリ・ピノーが50年あまりをかけて収集してきた、世界屈指の現代アートコレクションから選定された作品が展示されている。映像インスタレーションや絵画、彫刻など多様なジャンルにわたる60点以上の作品が紹介され、韓国において初めてピノー・コレクションが披露される機会となる。

ソンウンSTビル外観 © SONGEUN Art and Cultural Foundation and the Artist. All rights reserved.
会場風景より ヤン・ヴォー Untitled 2020
会場風景より フェリックス・ゴンザレス=トレス Untitled(For Stockholm) 1992

エントランスで出迎えるのは、受付にぶら下がる裸の電球の数々と、ガラスケースに入った異形の木彫だ。電球はフェリックス・ゴンザレス=トレス、そしてガラスケースと立体の3点はヤン・ヴォーによるものだ。これだけでも十分に豪華なラインナップが垣間見えるが、赤く暗い闇を湛えた吹き抜けを地下に降ると、その深奥ではドミニク・ゴンザレス=フォルステルによる映像が来場者を待ちかまえている。在りし日のマリア・カラスがホログラムになり、蘇ったかのように歌っている。

ドミニク・ゴンザレス=フォルステル Opera (QM.15) 2016 HD video, vidéo projector, screens, mediaplayer, speakers, lights, filters 8,5min (sound) Exhibition view, Bourse de Commerce – Pinault Collection (Paris), April 6th 2022 – January 2nd 2023. Photo : Aurélien Mole ©SONGEUN Art and Cultural Foundation and the Artist. All rights reserved.
会場風景より ソンウンのオーディトリアム

アンリ・サラはコソボ紛争後に制作された映像作品《1395 Days Without Red》(2011)をソンウンのオーディトリアムのために特別に再構成している。

今回の展覧会は、2021年にパリのピノー・コレクションの美術館、ブルス・ドゥ・コメルス(旧証券取引所)のこけら落としの展覧会「Ouverture」から派生し、コレクションのエッセンスを引き出したものだ。

ブルス・ドゥ・コメルス内観 Bourse de Commerce — Pinault Collection ©Tadao Ando Architect & Associates, Niney et Marca Architectes, Agence Pierre-Antoine Gatier. Photo: Patrick Tourneboeuf

 

フロリアン・クルーワー Performance I 2022

キュレーターのキャロリーヌ・ブルジョワは、この「Portrait of a Collection」展を、「アーティストと観客の対話の場にしたい」と語る。デイヴィッド・ハモンズ、ミリアム・カーン、リュック・タイマンス……ビッグネームをただ並べただけではなく、あえて会場内にキャプションも設けず、アーティストからの「問い」に鑑賞者の「答え」を誘発したい構成となっている。男女比や、「ブラック・アート」の空間など、鑑賞中に対話を引き起こすような展示を目指したという。

会場風景より デイヴィッド・ハモンズ Rubber Dread 1989

この展覧会のテーマのひとつである「Companionship(交わり)」も要素として欠かせない。長期にわたるコレクションによって生み出された作品群により、来場者はアーティストの内的な問いかけや社会的テーマに対する多角的な視点を得ることができる。そのひとつは、デイヴィッド・ハモンズの展示スペース「ウェルカム・ルーム」だ。ハモンズのキャリアを象徴する5点の作品が展示されており、1960年代後半から近年に至るまでの彼の問いかけが作品を通じて表現されている。

会場風景より
会場風景より ライアン・ガンダー The End 2020

日本でもおなじみのライアン・ガンダーの作品も。壁から突き出たネズミがしゃべりかけてくる。

会場風景より マルレーネ・デュマス Angels in Uniforms 2012

マルレーネ・デュマスの大作は、神話を題材にしたものだ。こちらへの視線と、服の色のコントラストが目を引く。

会場風景より ミリアム・カーンのペインティングとドローイングの並びも見逃せない
会場風景より オープニングは、アートウィークも相まって多数のゲストで賑わった

吹き抜けも含めて、ヘルツォーク&ド・ムーロン建築の導線も建築ファンにはたまらない空間だ。カンナム、アックジョン周辺の名建築もあわせてチェックしておきたい。

エクスクルーシブなお、本展はファッションブランドサンローランが・スポンサーを務めている。サンローランはこれまでもビジュアルアートや映画・音楽など多様なジャンルのアーティストをサポートしている。直近では昨年開催された蔡國強とのプロジェクトが記憶に新しい。

Ji Hye Yeom Le Soleil Noir 2019, moving image, 13min 31sec Supported by Art Council Korea and Kopri, Korea

また、同期間中サンローランの旗艦店では、ソウルを拠点に活躍するアーティスト、ヨム・ジヘの代表的な映像作品をふたつの大型スクリーンで紹介する。ソンウンではAIと未来の知能に焦点を当てた映像作品《AI Octopus》(2020)を発表した。もし、タコが将来的に独自の知能を進化させ、「オクトフィシャル・インテリジェンス」をつくりだし、私たちの世界を訪れたら、というストーリーとなっている。

旗艦店での映像は南極基地で撮影された《Le Soleil Noir》(2019)と《The Manifesto of Handstanderus》(2021)の2点だ。店内の環境ではあるが、ヘッドフォンで没入することができるので、ソンウンから徒歩5分ほどのサンローランフラッグシップストアに足を延ばすのもおすすめだ。

「Portrait of a Collection: Selected Works from the Pinault Collection 」

会場:ソンウン 441 Dosan-Daero, Gangnam-Gu, Seoul
期間:2024年9月4日~11月23日
開館日・時間:月曜日〜土曜日(日曜、祝日休)、11:00〜18:30
入場料:無料
展示作品:ルーカス・アルーダ、ミリアム・カーン、デイヴィッド・ハモンズ、ヨム・ジヘ他
メインスポンサー:SAINT LAURENT

「Special Installation in Saint Laurent Seoul Flagship Store」

会場:サンローラン ソウル旗艦店 436 Apgujeong-Ro, Gangnam-Gu, Seoul
期間:2024年8月31日~11月23日
時間:月曜日〜土曜日 11:00〜20:00 日曜日 11:00〜19:00

Xin Tahara

Xin Tahara

Tokyo Art Beat Brand Director。 アートフェアの事務局やギャラリースタッフなどを経て、2009年からTokyo Art Beatに参画。2020年から株式会社アートビート取締役。