現代のフランス美術を代表するアーティストのひとりであるフィリップ・パレーノの大型個展「フィリップ・パレーノ:この場所、あの空」が、箱根のポーラ美術館で6月8日~12月1日に開催される。ニューヨーク近代美術館、ポンピドゥー・センター(パリ)、テート・モダン(ロンドン)など欧米の主要美術館で数多くの個展を開催してきたパレーノの作品を国内最大規模で紹介。代表作である映像作品《マリリン》(2012)をはじめ、ドローイングから立体、映像、大規模なインスタレーションまで、幅広い実践を多面的に紹介する。
映像、音、彫刻、オブジェ、テキストやドローイングなどを通して、現実/フィクション/仮想の境界、実物と人工物との間に生じる乖離や、奇妙なずれに意識を向けてきたパレーノ。芸術や「作者性」の概念にも疑問を投げかけ、数多くのアーティスト、建築家、音楽家と共同で作品を生みだしてきた。
AIをはじめとする先進的な科学技術を作品に採り入れ、ピアノやランプ、ブラインドやバルーンといった見慣れたオブジェを操り、ダイナミズムと沈黙、ユーモアと批評性が交錯する詩的な状況を生みだすパレーノ。展覧会そのものをメディアとして捉え、構築される空間は、まるでシンボルの迷宮のようだ。芸術はどのように体験されるべきか、そして体験されうるかという問いを私たちに投げかけている。
見どころは、箱根の森を背景に展開される唯一無二のプレゼンテーション。世界各地で、その場所の特性や建築を活かした展示を構成してきたパレーノ。本展では、太陽を追跡する大型のミラー作品などが箱根の豊かな自然を背景に展開される。また、色とりどりの魚たちが漂う展示室の大窓は、仙石原の深い森に臨む。優雅にたゆたう魚たちとともに、会期を通して新緑から紅葉、冬景色へと木々の姿が移り変わり、季節や時間によって異なる光景が出現する。
日本でも、2025年の岡山芸術交流のアーティスティック・ディレクターに選任されるなど、いまもっとも注目される作家のひとりであるパレーノ。いくつもの場所と空間をめぐる精神と感覚の旅である本展にぜひ足を運びたい。