公開日:2008年6月10日

芸術都市パリの100年展

世紀末パリへタイムトラベル~日仏交流150周年に寄せて1~ 

東京都美術館で「芸術都市パリの100年展」が開催されている。展覧会サブタイトルのなかにある1830年~1930年という年号は、パリで都市改造が行われていた100年に当たり、この100年のなかで制作された絵画や写真、彫刻を一堂に会した展覧会である。

19世紀、皇帝ナポレオン3世の頃からはじめられたパリ改造は、中世からの城塞都市パリを近代都市パリへと変えていった。城塞は破壊され市が拡大され、南北幹線道路の貫通や放射状の道路拡張、セーヌ川の橋の掛け替えや増設、上下水道、ガス灯の配備など、街の整備が進められた。また、複数の新建築の建造が行われ、オペラ座の建設、そして1900年まで5回にわたって開催される万国博覧会に伴い、エッフェル塔、プティ・パレ、グラン・パレと名建築がつぎつぎ誕生していく。そうしたパリの変化は、世紀をまたぎモンマルトルの丘にサクレ・クール寺院が完成する頃ひと段落をみるが、現在のパリ市中心部の姿は、ほぼこの時の状態をとどめているといわれる。

ポール・シニャック《ポン・デ・ザール》1928年油彩、カンヴァス、45.5×116cm
ポール・シニャック《ポン・デ・ザール》1928年油彩、カンヴァス、45.5×116cm
カルナヴァレ美術館 ©Musée Carnavalet/ Roger-Viollet

めまぐるしくパリが姿を変えていった時代の最中、たくさんの画家や、写真家という新しいジャンルの芸術家が、移りゆくパリの風景を作品に収めている。そうした作品の数々を、ルーブル、オルセー、ポンピドゥーなどの8つの著名な美術館から集めたのがこの「芸術都市パリの100年展」で、クロード・モネやポール・セザンヌ、ピエール=オーギュスト・ルノワールやアンリ・ルソーなど、時代を生きた人々の描いたパリのさまざまな顔に出会える。まるで100年という歳月を旅するような鑑賞のひとときだ。

ガブリエル・ロッペ 《エッフェル塔の落雷》1889年頃
ガブリエル・ロッペ 《エッフェル塔の落雷》1889年頃
オルセー美術館 ©Photo RMN a©Droits réservés/distributed by DNPAC
ここでエッフェル塔の基礎工事から完成までを撮った一連の記録写真のことを特筆したい。そこには等身大のパリがそのまま写り込んでいたのだった。なかでもエッフェル塔が完成に近い頃の一枚で、塔の上部に組まれた足場の光景を撮った写真があるが、そこに写った作業員たちの力強い眼差しと頼もしい雰囲気が実に印象的だ。険しい表情をしている者もいればはにかんでいる者もいる、誇らしげな表情の者もいて、写真に付された解説には、「1887年から始まった工期2年2ヶ月のスピード工事は、命綱もない危険な工事だった」とある。

彼らの仕事には余程の覚悟が必要とされていたことだろう。21世紀を生きる私たちには、エッフェル塔はパリのシンボルという確固たるイメージが出来上がったが、建設当時は万博のためのモニュメントで、20年後には取り壊しが予定されていたという。記録写真に写った作業員たちを見て思う。エッフェル塔、万歳!

Aie Shimoguchiya

Aie Shimoguchiya

東京都出身。ライター/文筆業。「スタイリッシュ・シネマ」を連載。 <a href="http://fashionjp.net/fashionclip/stylishcinema/">http://fashionjp.net/fashionclip/stylishcinema/</a>