公開日:2008年10月2日

「ジュリアン・オピー」展

面として置き換えられる無限のテクスチャー

今夏の最も注目された展覧会の一つであろう「ジュリアン・オピー」展。イギリスを代表する現代美術作家ジュリアン・オピーの作品は、日本ではイギリスの人気バンドBlurのアルバムジャケットや、表参道ヒルズオープニング時でのディスプレイで目にしたことがある人も多いのではないかと想像するが、これだけの多くの彼の作品を一度に見ることができる展覧会は、実は今回の水戸芸術館での展示が、アジア初というから見逃せない。
連続する動きが、流れを生み出すジュリアン・オピーの作品とその展覧会ポスター
《ヴェラ、ダンサー3》
《ヴェラ、ダンサー3》
オピーと言えば、シンプルで、強いアウトラインと鮮やかな色彩によるポートレート作品、ラインだけで表現される人物の終わることなくくりかえされるムービー、が特に印象的だったのだが、近年は自身もコレクターの一人である日本の浮世絵をもとにしたLEDによるデジタル作品も発表しているときいて、その共通項は何であろう?と、私は個人的に興味深く思っていた。

《ヴェラ、ダンサー3(部分)》
《ヴェラ、ダンサー3(部分)》
周りがはっきりと映り込むくらい、グロッシーなテクスチャー
今回、はじめて「実物の」作品を目の前にすることができて、彼の作品にそれぞれ違った「テクスチャー」が施されていることに驚いた。どの作品も、出版物やポストカードなど紙媒体だけでみれば、シンプルなラインと色が視覚的最大興味の対象となり、どの作品も等しく平面的なものにしかみえてこない。しかし実際にはキャンバスの上に描かれた作品もあれば、鏡面加工されたプレートの上に施された作品もあり、ポートレート作品に見られる黒のラインも、プラスチック、毛、カッティングシート、と実にさまざまなテクスチャーで表現されているのだ。LEDによる光の色や動きも、これまでとは違ったメディアによる全く新しいテクスチャーといえよう。

オピーの作品をみていると、究極までに単純化されたフォルムや動きだからこそ、眉や口の端の角度など、ほんの少しの情報からそのキャラクターを特徴づけようとみてしまう。それがもっと単純に、それこそ本当にアウトラインだけになった時は、その上を覆っているもの、例えば着ているもの、手にもっているもの、動き方という情報だけが頼りだ。

《3つのパーツのシャノーザ03(部分)》

《3つのパーツのシャノーザ03》LEDによる浮世絵も、よくみれば川面や水草がゆれている。もとの絵がつくられた時代とテーマや描かれるオブジェは似ているし、色使いもそっくりなのに、作品は紙でもないし、写真でもない。動かすことのできるメディアを使用 した「絵」なのだ。つまりそのものを特徴づけるものはすべてテクスチャーによる情報なのだ。これらはすべてオピーによるテクスチャー情報のミキシングであり、冷静なしかけであればあるほど、観るものは彼の作品の表層にみるカワイさ、ポップさの背後から、じんわり薫りだす彼の作品の魅力のひとつであるブキミさを敏感に嗅ぎとるのではないだろうか。

開催期間も残りあとわずか。オピーのしかけを目で確かめ、体感しにいくには、どうやら季節は文句なしのようだ。

Chihiro Murakami

Chihiro Murakami

Visual Communication Designer 武蔵野美術大学卒業後、GKグラフィックス、日本デザインセンターを経て2002年渡英。ロンドン大学Goldsmithsでディプロマ、University of the Arts, Central Saint MartinsでMAを取得。2006年<a href="http://www.birdsdesign.com">Birds Design</a>を設立。グラフィックデザイナーとしてのキャリアとコミュニケーション力を生かし、国内外のクリエイターとの共同プロジェクトに参加する他、デザイナーならではの視点を切り口とした執筆活動、デザイン企画などを行っている。