新刊コミックスの初版部数が10年以上毎号300万部を超え、全世界累計発行部数が5億1000万部を突破している『ONE PIECE』。大人気コミックスが生まれるプロセスにフォーカスする「ONE PIECE ONLY」展が北米公開に先立って、東京・立川のPLAY! MUSEUMで開催される。会期は10月9日〜2025年1月13日まで。
本展はPLAY! MUSEUMにとって珍しい協働事業である。展覧会の構成とキュレーションを手がけているのは、マンガを受け継がれていくべきアートとしてとらえ、継承に力を注いでいる「SHUEISHA MANGA-ART HERITAGE(集英社マンガアートヘリテージ)」だ。今回はジャンプコミックス100巻×連載1000話記念の際にアーカイヴした色校正や印刷刷版を、尾田栄一郎の原画とともに展示する。
内覧会にPLAY! プロデューサーの草刈大介と「集英社マンガアートヘリテージ」プロデューサーの岡本正史が登場し、それぞれが次のようにコメントしている。
「本展は漫画家が描いた絵をプロフェッショナルが受け取って、コミックスにするプロセスを見せている。ストーリーやキャラクターに着目していないにもかかわらず、本展を通して『ONE PIECE』というマンガがとんでもない作品だと敬服すると思う」(草刈)
「1000巻のアーカイヴと言えば、『原画のアーカイヴ』を想像しやすいが、本プロジェクトは製版や印刷の過程を含めたアーカイヴである。ここではコロナ禍により発表できず、いままで外に出たことがなかったものを公開する」(岡本)
世界的人気コミックスはどのように、誰の手で作られてきたのか。展覧会の5つの要素に注目して、メイキングの核心に迫っていこう。
本展の目玉は『ONE PIECE』1話から1110話までの全ページを貼り合わせた140メートルの壁面。1997年の連載開始から2024年まで、曲面が渦を巻いて展覧会の中心まで観客を吸い込む。ファンであれば、語り尽くせないほどの思い出が詰まっているだろう。1話が終わったあとにある空白、シーンごとの擬声語などを眺めて、類似するところを探すのも楽しくなる、ダイナミックなインスタレーションだ。
壁面のマンガを見て、ふっと思う。このコミックスがどのように作られているのか。そうした制作の裏側を教えてくれるのは会場のあらゆるところにある19個の宝箱。覗けば、そこには「週刊少年ジャンプ」の黄色い入稿袋、製版フィルム、印刷見本、あるいはオフセット印刷刷版などが隠れている。『ONE PIECE』の表紙が7色で印刷されていること、2面付けして印刷されていることなど、ファンでも知らないような秘密がたくさん隠れている。
それぞれの宝箱のふたにあるのは写真家・本城直季による、印刷会社や集英社の空撮写真だ。ここからもマクロとミクロの視点で『ONE PIECE』に着目している姿勢を読み取ることができる。
渦巻きの中心に『ONE PIECE』作者・尾田栄一郎の机の写真と1000話の下書きも展示されている。ひとりの漫画家の机から全世界へと物語をつなぐ職人の技こそが宝であると思わせる演出だ。制作工程を表している宝箱だが、じつは時系列逆に並べられている。展覧会の中心からから辿っていくと、コミックスの誕生にたどり着く仕組みになっているのだ。
「マンガを、受け継がれていくべきアートに」というビジョンのもと、2021年にスタートした集英社マンガアートヘリテージ。本展ではリアルな色の表現と長期収蔵にも耐えうる品質を両立させた「REAL COLOR COLLECTION」シリーズを見ることができる。会期中に100点のアートプリント(展示替えあり)、制作に使用された金属刷板の現物や制作風景を記録したドキュメンタリー映像が展示される。
さらに集英社マンガアートヘリテージが「週刊少年ジャンプ」やコミックスの製作現場を2024年に撮影。本展では8Kのハイスピードカメラとアナモルフィックレンズを用い収録した臨場感あふれる映像をインスタレーションとして展示する。映画館風の空間で印刷機のなかに入り込んでいくような体験もできるのだ。
多くの読者から愛され続けている『ONE PIECE』は読者コーナーを通してファンとの関係を大切にしてきた。本展では、自分の絵を描ける参加型のコーナーが設置されている。コピックのカラーマーカーで色をつければ、漫画家になった気分も味わえるかもしれない。完成した絵を「黄金の部屋」で飾ることもできれば、尾田栄一郎の目にしか届かない箱に入れることもできる。
展覧会の終盤には海賊王になりきれるフォトスポットも用意されているので、躍動感のある写真も撮れるのだ。本展で誰も見たことがない「ONLY ONE」の『ONE PIECE』を探してみてはいかが。