公開日:2024年1月29日

球体を言語に世界をとらえる。前衛美術グループ「九州派」中心メンバー オチ・オサムの回顧展が福岡市美術館にて開催

「九州派」時代から晩年までの作品・資料約180点を紹介する、美術館初の試み

オチの最晩年の作品。 題不詳 2010年代 画布に油彩 オチ・オサム事務所蔵 撮影:すべて編集部

福岡市を拠点に活動した美術家 オチ・オサム(本名:越智靖、1936-2015)の回顧展が、福岡市美術館にて1月24日〜3月24日に開催されている。オチ・オサムは、前衛美術グループ「九州派」の中心メンバーのひとりで、アスファルトや日用品を表現の素材として見出し、当時の美術界に新風を巻き起こした。「九州派」は1957年に福岡を拠点に結成された美術集団で、オチのほかにも桜井孝身や菊畑茂久馬、田部光子などが属していた。

会場風景

本展はオチの初期から現在までの活動を、造形的な特徴に焦点を当て4章に分けた展覧会構成で明らかにするもの。企画担当は福岡市美術館学芸員の忠あゆみ

会場風景より、オチ・オサム「題不詳」(1958)。現存する数少ない最初期の絵画作品。ジョアン・ミロが好きだったというオチ。抽象と具体を行き来する自由な筆致に影響が見られる

生活と制作が一続きであったオチは、印刷会社やマネキン製造の会社で働いた経験など身近な環境からアイデアを得て、自宅で膨大な数のドローイングやコラージュを制作し、日々新たな表現を試みていった。桜井の誘いから1966年に渡米し、ヒッピー文化に刺激を受け、より独自の絵画空間を作り出した。

会場風景より、オチ・オサム「題不詳」(1990年代)。洗濯バサミや自身が着用していた衣服で作られたオブジェ

第1章「総てのモノが色になりますョ」ではオチの絵画への取り組みを、第2章「日常へと下降する」では、反芸術の動向から日用品を用いたオブジェを紹介する。

会場風景より、オチ・オサム「題不詳」(1970〜1980年代) 福岡市美術館蔵
会場風景

1966年の渡米以降、イメージとして用いられる宇宙のなかに浮かぶ天体のような球体は、オチの代名詞で、2015年に亡くなるまで大小色とりどりの球体を描いた。第3章以降まとまって展示されている球体シリーズは「魂」「複数の地球」「純粋に美しいもの」「内なる天体」など、オチは異なる答えを残しており、さまざまな解釈を誘うモチーフだ。担当学芸の忠は、球体を視覚言語にこの世界を捉えたことがオチの最大の発明だと言う

会場風景より、オチ・オサム《球の遊泳II》(1979) 画布に油彩 福岡市美術館蔵
《球の遊泳II》部分。製図用のコンパスを用いて制作された本作は静的な側面とダイナミズムを併せ持つ

「大きなものにも魂は一つ。小さなものにも魂は一つ。小さなものの魂を描きたい。」と朝日新聞の夕刊(1980年11月1日付)でコメントを残しているオチ。

本展図録の論考「軌道上を浮遊するーオチ・オサムの作品と活動」で忠は以下のように述べており、オチの作家としての魅力がわかる。

掴み所のないように見えるオチの活動だが、実は一貫性がある.........

球体シリーズにおける色とりどりの球体は、一見すると予測不可能な遊泳をしているように見えるが、実際は確固とした軌道の上に遊泳している。これはオチの活動そのものではないだろうか。オチの作家としての足取りが彩り豊かで、なおかつ静かな美しさをたたえているのは、作家自身が描き出した軌道の上で遊泳しているからだろう。

会場風景
オチ・オサム 題不詳 1970年代 紙にペン、色鉛筆 オチ・オサム事務所蔵

会期中には、ギャラリートークや記念講演会なども充実。会期始めには、Gallery CONTAINEREUREKAでも個展を開催している。こちらもぜひ合わせて鑑賞してほしい。

脳波による自画像四面体 1986 紙にオフセット 福岡市美術館蔵

*参考文献
『「オチ・オサム」展』図録 編集・執筆:忠あゆみ 福岡市美術館 2024年

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