あなたは、オバケを見たことがあるだろうか? 古今東西昔から、物語や絵画など様々な場所でその存在を描かれ続けているオバケ。みんなオバケの存在を知っている。でも、それぞれイメージもバラバラで、その正体を言い当てることは難しい。
そんなオバケたちを、絵本、漫画、落語、アニメーション、音楽、写真で楽しむ「オバケ?」展が、立川・PLAY! MUSEUMで7月13日から開幕した。
本展は、安村敏信(日本美術史学者・静嘉堂文庫美術館館長)、広松由希子(絵本家)、Allright Graphics(アートディレクター・グラフィックデザイナー)、川内倫子(写真家)、くどうれいん(作家)、柴田元幸(米文学者・翻訳家)、春風亭一之輔(落語家)、谷川賢作(編曲家・ピアニスト)、田中康弘(カメラマン・ノンフィクションの書き手)、矢部太郎(芸人・漫画家)など、総勢10名のオバケ研究員。そして、今和泉隆行(空想地図作家)、加藤久仁生(アニメーション作家)、ザ・キャビンカンパニー(絵本作家・美術家)、祖父江慎(アートディレクター・オバケデザイナー)、谷川俊太郎(詩人)などのオバケ・クリエイターが大集結。
「みる・かんじる・しる・なる」をテーマに、オバケを五感で楽しめる展覧会。夏休み特別企画で小学生以下入場料無料のため、親子連れにもおススメの体験型展覧会だ。
展示室に入る前から、すでに「オバケ?」展は始まっている。来場者には、オリジナルオバケグッズを配布される。映画やアニメでよく見る、日本のオバケたちが頭につけている三角形の布を付けたら、あなたもオバケの仲間入り。
展示室入り口には、子供しか入れない秘密の「オバケ工場」も用意されている。残念ながら著者は大人のため、その全貌は確認できていない。どうやらなかにはオバケになるための特別な衣装が用意されていて、それを身に着けてオバケになって展覧会に参加することができるらしい。
入り口には「オバケカウンター」も。展覧会に来てくれたオバケが正直に「私はオバケです」とこっそり明かしたときには、プレゼントをもらえるサービスが用意されている。入り口からわくわくするしかけに満ちている「オバケ?」展。楽しむ準備ができたら、さあ展示室へ入っていこう。
いちばんはじめの薄暗い部屋には、詩と絵からなる《せんめんじょできっちんで》が展示されている。詩人・グラフィックデザイナーのウチダゴウがオバケについて書いた詩に、絵本作家・美術家のザ・キャビンカンパニーが絵を描いたインスタレーション。絵の瞳のなかにオバケらしきものが描かれているが、オバケは見えない。となりの部屋からは「ひゅ~どろどろ~」とオバケが出現するときおなじみのあの音が聞こえてくる。
次の部屋に行くと、そこは「オバケ屋敷」! 思い切って展覧会のなかにオバケ屋敷を作ってしまったのだという。薄暗い部屋は、風の音や、扉が「ギィィィ」ときしむ音、引き出しがバタンと閉まる音など、いまにもオバケが出てきそうな気配に満ちている。プレスツアーの集団で歩いていた時は「そんなに怖くない」と思っていたが、戻ってひとりで写真を撮っていると、なかなか雰囲気のある場所である。万が一本物のオバケが写真に写ってしまったらどうしようと少しびくびくしながらシャッターを切った。
おそろしいオバケ屋敷を通り過ぎると、「会いたいオバケ・会いたくないオバケ」のコーナーへ。最初は、会いたいオバケとして、アネット・チゾンとタラス・テイラー著の絵本『おばけのバーバパパ』と触れ合えるコーナーがある。子供たちが大好きなバーバパパが音楽に合わせて現れたり消えたりする。
バーバパパに癒された後は「会いたくないオバケ」とご対面。子供の頃に怖い思いをしたことがきっとある、せなけいこ著の絵本『ねないこだれだ』のコーナーへ。笑点にも出演する人気落語家の春風亭一之輔が落語で朗読してくれる。せなけいこが「ねないこだれだ」を思いついたのは、落語家の夫がきっかけだったのだという。ゆらゆらと揺れるカーテンに投影される映像はまるで幽霊のよう。ここでしか見ることのできない「ねないこだれだ」を体感してほしい。
短編アニメーション「つみきのいえ」で第81回アカデミー賞短編アニメーション賞を受賞した加藤久仁生の新作・オバケアニメーション《オバケズ》も見逃せない。アメリカ、中国、フランス、ボリビアなど、世界各地のお墓コーナーを抜けて、研究員たちがオバケについて研究成果を発表する「オバケ研究所」へ向かおう。
半透明のビニールでおおわれた「オバケ研究所」に入ると、オバケ研究員たちの研究成果が発表されている。Allright Graphicsによる、オバケっぽいものを集めたコーナーがその一角にある。オバケとデザイン志向を結びつけた展示を通して、子供たちが日常のなかでオバケを探す視点を身に着けてほしいという。
「懐かしい!」と著者が興奮したのが、シートの粘着物を指で触ることでけむりが出てくる「おばけけむり」。昔は駄菓子屋によく売っていたが、すでに製造中止になっており、貴重な一品なのだとか。
透明なスケルトンの素材も、骸骨のイメージからオバケにつながる。「オバケカボチャ」と呼ばれるように、特別大きいサイズのものも日本ではオバケになることも多い。 多摩川河川敷で採取したというオバケも段ボールに梱包されてさりげなく展示されていた。箱は、小刻みに動き続けている…。
オバケ研究所には、川内倫子、くどうれいん、柴田元幸、春風亭一之輔、谷川賢作、田中康弘、矢部太郎の研究成果も発表されている。研究所らしく、オバケ研究所と書かれた原稿用紙に印刷された成果発表がホワイトボード画面いっぱいに掲示されている。
研究所の成果発表スペースの周りをぐるりと囲むように、特別研究員の広松由希子(絵本家)がオバケ絵本を500冊集めた本棚が広がっている。なかなか手に入らない世界各国の貴重な本から、昔読んだことのあるおなじみの絵本まで、そのボリュームは圧巻。下から2列目までは、手に取って実際に読むことができる。
また、オバケ研究の第一人者である日本美術史学者・安村敏信による「日本美術におけるオバケの歴史」展示。谷川俊太郎(詩人)と谷川賢作(編曲家・ピアニスト)親子によるオバケの言葉と音楽「けいとのたま」。空想地図作家・今和泉隆行による架空のカード決済端末の作品など、オバケを楽しむためのユニークな研究成果が散りばめられている。
さて、「オバケ?」展のラストには、オバケたちが集う「オバケ湯」へ行って疲れを癒そう。ここは、オバケ大好きなブックデザイナーの祖父江慎(愛称:ソビー)が、オバケたちのためにデザインした銭湯。オバケはもともと水が苦手。そんなオバケたちでも入れるようにオバケ湯番頭のソビーは「カワキミズ」で銭湯を作った。
もちろん「オバケ湯」のなかに入り、思い切り遊ぶことができる。「オバケ湯」は、用意されたもので遊ぶことが多い現代の子供たちが、みずから遊びを作り出すことをめざした取り組みでもあるのだという。 脱衣所にも、オバケを吸入する「オバケ牛乳(オバケキウ二ウ)」や、身体が伸びたり縮んだり、歪んで映る鏡、風呂あがりにはオバケ漫画の名作『オバケのQ太郎』が置かれるなど、くすっと笑ってしまうような小さな工夫が込められている。
史上初のオバケ万博は「オバケ」をキーワードに、クリエイターやアーティストたちが、身の回りの物事をよく観察し、想像力を働かせて、本気で楽しんでいる大博覧会でもあった。
そういえば、子供の頃はいまよりもっとオバケが怖かった。オバケを見るために必要なことがあるとしたら、それは想像力のなかでめいっぱい遊ぶことなのかもしれない。親子連れでも、もう一度子供時代に戻って遊びたい大人にも、この夏おススメの展覧会。ちょっと怖いけど、気になる?「オバケ?」展にぜひ足を運んでほしい。