公開日:2017年6月27日

意識下に深く訴えかける、言葉で定義できない世界観 – アスガー・カールセン インタビュー

「アウトサイダー」同士でのコラボレーションの集大成

Photo : Wataru Kitao

2013年末にVICE(※1)の雑誌展示と記録映像と写真展示を連動させた展覧会『GLOBAL PHOTO COLLABORATIONS by VICE JAPAN』 のために来日したアスガー・カールセン(※2)。VICEのコラボレーションでは、アスガーが長年作品のファンだったロジャー・バレンを指名した。その後、この企画がきっかけとなってアスガーとロジャーのコラボレーション作品による写真集『NO JOKE』が誕生した。写真集から抜粋された作品がデンマーク、ドイツ、そしてパリフォトで展示され、この度渋谷のDIESEL ART GALLERYでも披露されることとなった。Tokyo Art Beatでは、展覧会に合わせて再び来日したアスガー・カールセンに話を聞いた。

今回展示されている作品が収められている写真集『NO JOKE』は、アウトサイダーをテーマとしている。アスガーもロジャーも、アートの専門教育を受けていないという点においてアウトサイダーである。アスガーはもともと、高校生の時に地元の新聞社でカメラマンのインターンをしたことをきっかけに写真の道に進む。本来1週間の予定だったインターンの期間が終わった後もいいイメージが撮れると持ち込んだりして、足掛け7年くらいは新聞社に出入りしていたという。
「自分はとても大人しいティーンエイジャーだったと思うので(笑)、自分を表現するのに写真を撮るというのがとても合っていたんだと思う。」
と語るアスガーは、写真を撮ることとアート作品を作るという行為によって自分の立ち位置を確かめているところはあるが、常にどこにも属していない感じもあると言う。

アスガー・カールセン
アスガー・カールセン
Photo : Xin Tahara

そんなアスガーがアーティストとしての道を歩むようになったのは、ふとした出来事がきっかけだった。というのも、報道写真を撮る傍ら撮った写真をコンピュータで半ば遊びで加工し、そのようにして作りためた画像を「WRONG」というプロジェクトにまとめてブログに載せたところ、ある日10万を超えるアクセスがあったという。どうやら、彼の作品を目にしたカニエ・ウエストがポストしたことで一気に注目が集まったそう。「僕が今こうしているのも、まるでアクシデントみたいなものさ。」と淡々と語る。

もう一つ、アウトサイダーな感覚につながる要素として、2人の出自がある。
コペンハーゲン生まれで今はニューヨークを拠点とするアスガーと、ニューヨークで生まれ、現在ヨハネスブルク在住のロジャー。2人とも生まれ育った場所とは違う所に暮らしているという意味でもアウトサイダーと言える。アスガー自身、ニューヨークに住んで10年になるが、未だに自分はどこにも属していないという気分がするという。「そういうアウトサイダーな気分は好きだけどね。でも不思議なことに、コペンハーゲンに帰ると、今度は自分がアメリカ人と感じるんだ。」

Photo : Xin Tahara

アスガーとロジャー2人が作り上げる作品は、奇妙で、不可思議で、時に不気味で不快で、また滑稽……という形容詞がすべて当てはまるほど複雑だ。
今回の展示作品はすべてがコラボレーション作品であるが、実際にスタジオで一緒に制作したのは1点のみで、あとの作品はすべて、毎週スカイプで話しながらメールで画像を送り合うというプロセスを繰り返し、完成まで4年くらいかけて作成されたという。
すべての作品をフォトショップで作るアスガーに対してロジャーは、アスガーから送られてきたイメージをプリントアウトして、そこに何か描き込んだりコラージュを施してスキャンするというアナログな手法を用いる。また、アスガーはどちらかというとシームレスなイメージを作ろうとするのに対し、ロジャーは古典的なコラージュという手法を使うため境界線がくっきりしたイメージができる。アスガーにとってはそれは新鮮で、思っても見なかった効果をもたらしたという。また、いくつかの作品をよく見てみると、アスガーとロジャー2人の顔が融合されているのが分かる。
コラボレーションの場合、作品の終わり(完成)をどのように決めるかが難しいところだが、民主主義的に2人の合意によって決めているという。「ただ、特にコンピュータだとどこまででも手を加えられそうなので、やめどころが難しいね。」

Photo : Xin Tahara

言うまでもなく彼らの作品はすべてフィクションであり、目にしたことのないようなイメージで強いインパクトをあたえるような力を有しているが、現実の社会に対して何かメッセージを込めていたりするものではないという。
「僕たちの作品には、何か説得しようというメッセージもなければ、何の意図も結論もない。」
ただ、アスガー自身は一貫して関心のあるテーマを追求している。それは、「形」の追求で、人の身体の形を通じて写真というメディアで彫刻を作っているような感覚だという。人体を多くモチーフに使うアスガーは、影響を受けたアーティストとしてフランシス・ベーコンの名を真っ先に挙げた。また、ほかには、ハンス・ベルメールやシュルレアリストのアーティスト全般、写真家ではアンドレ・ケルテスに影響を受けたという。
「芸術は、自由(freedom)なところがいいと思うんだ。見る人が自由に考えることができるし、自分と違う味方があると気づくことも大切だと思っている。よく、「どうしてこんなイメージの作品を作るの?」って聞かれるけど、現実に起こっている悲惨な事象の方がよっぽど不穏じゃないかな?」

※1:世界25カ国で配布されているフリーマガジン。毒舌な文章と鮮やかな紙面でタブーも恐れずカウンターカルチャーに切り込み、ピックアップ率100%という人気を誇る
※2:VICEでのコラボレーションの展示の際のインタビューは以下を参照
http://www.tokyoartbeat.com/tablog/entries.ja/2013/12/global-photo-collaborations-by-vice-japan.html

■展覧会概要
タイトル: 「NO JOKE」(ノージョーク)
アーティスト: Roger Ballen(ロジャー・バレン) 、Asger Carlsen(アスガー・カールセン)
会期: 2017年5月26日(金) 〜 8月17日(木)
会場: DIESEL ART GALLERY(DIESEL SHIBUYA内)
ウェブサイト: http://www.diesel.co.jp/art
住所: 東京都渋谷区渋谷1-23-16 cocoti B1F
電話番号: 03-6427-5955
開館時間: 11:30 〜 21:00
入場料: 無料
休館日: 不定休
キュレーター: トモ・コスガ(PLAY TANK)

Rei Kagami

Rei Kagami

Full time art lover. Regular gallery goer and art geek. On-demand guided art tour & art market report. アートラバー/アートオタク。オンデマンド・アートガイド&アートマーケットレポートもやっています。