およそ1年半の休館を経て、国立西洋美術館は4月9日にリニューアルオープンを迎えた。
改修工事によってル・コルビュジエが設計を手がけた当初の姿に近づいた同館では、同日から小企画展「調和にむかって:ル・コルビュジエ芸術の第二次マシン・エイジ ― 大成建設コレクションより」(〜9月19日)と「新収蔵版画コレクション展」が(〜5月22日)が開催。続く6月からはリニューアル記念展「自然と人のダイアローグ フリードリヒ、モネ、ゴッホからリヒターまで」(6月4日〜9月11日)も予定されている。
同館は2016年に「ル・コルビュジエの建築作品ー近代建築運動への顕著な貢献ー」の一部として世界遺産に登録されたが、その際にユネスコは「当初の前庭の設計意図が一部失われている」と指摘。休館に際して行われた前庭の改修工事では、植栽は最小限に、柵は透過性のあるものに変更された。床の目地や屋外に展示されたロダンの彫刻《考える人》と《カレーの市民》の配置を含め、どれも開館当時の設計の意図を組んだもの。作品の搬入や来場者の安全のための導線を確保するなど、時代に合わせたアップデートを行いつつ、開館当初の開放的な姿に近づいた。近隣の上野公園や東京文化会館との一体感が感じられるだろう。
同小企画展ではスイスに生まれフランスで活躍した建築家、画家であるル・コルビュジエ(1887-1965)の晩年の絵画と素描が公開。約20点(展示替えを含めると約30点)の作品は大成建設からの寄託品が中心だ。本展で扱うコルビュジエ作品はすべて1930年代以降のもの。この時期のコルビュジエは、自然界の形象と厳密な幾何学的構図を融合することを目指していており「第二次マシン・エイジ」と評されている。
《奇妙な鳥と牡牛》(1957)は晩年のコルビュジエがモチーフとして多用した牡牛が描かれたタピスリー。その画風もさることながら、同じく牡牛を主題とした作品群としては最後に制作された《牡牛ⅩⅧ》(1959)とは異なり描線と色面がほとんど一致しないなど、細部や技法も興味深い。
大型のキャンバス作品のほか、《三つの人物像》(1934)など約10点の素描も展示されている。
2022年4月現在、4500点を超えるという同館の版画コレクション。本展は2015年以降の新規収蔵品によって構成される。アルブレヒト・デューラーやレンブラント・ファン・レインなど巨匠や、近年重要作品を取得しているフランシスコ・デ・ゴヤやエドゥアール・マネのほか、デザイン案やアナモルフォーズ(歪像)といった趣向の異なる作品も展示される。アナモルフォーズとは、特定の視点や器具を使うことで正しい像を見ることができる作品のこと。クリスティアン・ハインリヒ・ヴェングの円形絵画《アナモルフォーズ:ルナをアルカディアへ誘うパン》(1753頃)は円筒に映すことで、一般的な絵画の縮尺で見ることが可能だ。
6月から開催されるリニューアル記念展についても簡単に見どころを紹介しよう。
同展は今年開館100周年を迎えたフォルフハング美術館との共同開催。国立西洋美術館が松方コレクションをもとに開館したように、フォルフハング美術館もまたカール・エルンスト・オストハウスの個人コレクションが開館のきっかけだ。
そんな共通点を持つ、日独を代表する美術館がコラボレーションした同展は、印象派とポスト印象派を中心に、ドイツ・ロマン主義から20世紀絵画まで100点を超える作品を紹介。見どころは初来日するフィンセント・ファン・ゴッホ《刈り入れ(刈り入れをする人のいるサン=ポール病院裏の麦畑)》(1889)や、カスパー・ダーヴィト・フリードリヒやゲルハルト・リヒターの作品だろう。
フォルフハング美術館館長のペーター・ゴルシュリューターは「2人のコレクターには、その人生、戦略、ヴィジョンに多くの類似点があります。2人とも、同じ芸術家の作品を収集し、同じ画廊から作品を入手しました」とコメント。人が自然をどう描き、対話したのかとともに、松方とオストハウス、ふたつのコレクションの織りなす「ダイアローグ」にも注目したい。