公開日:2007年6月18日

nextmaruni 12 chairs @ MUSEUM

ひとつひとつ違ったデザインの椅子が、オープンスペースとガラス張りの空間に並ぶ。同じ空間に存在しているのにそういえば違和感がない。

7月25日のオープニングパーティでは、様々な人が新作の椅子のまわりをはじめはふむふむと眺めるように、そしてお酒が入るにつれて、まるでカフェでくつろぐように座って談笑をはじめていた。少し休めるところを探してオープンスペースに出た私は「まあ、どうぞ」と近くに座っていたにこやかな笑顔の紳士に席をすすめられた。小さな四角いテーブルを囲んで4つのデザインの違うアームレスチェア。紳士の隣の椅子にはショートヘアのきれいな女性が既に座っていた。紳士の向かいの椅子についた私の隣には、今年オフィスファニチャー会社に入社したばかりという、ちょっと緊張した面持ちの男性が座った。
会話がすすむにつれ、この紳士はどうもこの12chairsの関係者の一人らしいということが分かってきた。「僕の椅子には今、男が座っているんだよね。女性優先の椅子なんだけどなあ」というので、どうやらこの紳士はデザイナーであるらしい。どなたなんだろう?と考えを巡らしていたら落ち着かなくなって「私の座っているこの椅子、なんだか少し固い感じですよね。」という言葉がつい口をついて出た。紳士は「それはアームレスチェアだからね。アームレスチェアはちょっと姿勢を正して座る椅子なの。」と説明してくれた。同時に他の人たちも姿勢を正して椅子に座り直してみている。ふむ。確かに姿勢をちょっと正して座るとしっくりくる感じがする。「椅子にも座り方があるんですよ。そして人の心理状態にとても関係している。今回みんなに依頼した新作はアームチェアでね。もうちょっとリラックスできる椅子なんだよね。さらにもっとリラックスできるのがラウンジチェア。ラウンジチェアにこう姿勢を正して座る人、っていないでしょ?」「そうですね。ラウンジチェアには自然と体をくずして座りますものね。」「そう。男と女が倒れ込むラウンジチェアも椅子。そうかと思えば死刑囚が座る電気椅子も椅子。首をつって死のうとするとき、人が最後にけり倒すのも椅子。椅子って本当に奥が深いんだ。」
そして紳士は椅子について、nextmaruniプロジェクトについて語ってくれた。プロジェクトの苦労話。12という数字のこと。さきほど刷り上がったばかり、という本も見せてくれた。
「いろいろな物語にでてくる椅子の表現を、集めてみたいんだよね。」という言葉に、私はティボール・カルマンの編集した「チェアマン」という本を思い出した。あれはヴィジュアルブックだったが、こちらはきっと美しい言葉がちりばめられた詩集のようなスタイルが似合いそうだ。
「さてみなさん、今日は楽しい時間をありがとう」と紳士が席を立った。そしてこんなに会話が弾んだ我々4人が、お互い全くの初対面同士だということをこの時はじめて知った。察しがいいみなさんはすでにお気づきだろうが、この紳士こそが このnextmaruniプロジェクトプロデューサーであり、デザイナーの黒川雅之氏。
はじめて出会った、ひとりひとり違った職種・年齢の4人が、たまたま同じ空間でテーブルを囲んでいたのに、そういえば違和感がなかった。nextmaruniのコンセプトと魅力をまさに体感した時間だった。

Chihiro Murakami

Chihiro Murakami

Visual Communication Designer 武蔵野美術大学卒業後、GKグラフィックス、日本デザインセンターを経て2002年渡英。ロンドン大学Goldsmithsでディプロマ、University of the Arts, Central Saint MartinsでMAを取得。2006年<a href="http://www.birdsdesign.com">Birds Design</a>を設立。グラフィックデザイナーとしてのキャリアとコミュニケーション力を生かし、国内外のクリエイターとの共同プロジェクトに参加する他、デザイナーならではの視点を切り口とした執筆活動、デザイン企画などを行っている。