アートやデザインの仕事をする方々がふだん気軽に訪れるアートスポットにはどのような場所があるのでしょうか? 今回は書籍の装丁、雑誌のアートディレクション、展覧会の図録や会場の掲示物などを幅広く手がける米山菜津子さんにおすすめスポットを聞きました。美術館やギャラリー、書店やショップまで、お出かけの選択肢のひとつに加えてみるのはいかがでしょうか。
「自分がまずアートについて知りたいと思ったとき先生となってくれたのは、主に書店の棚差しの背表紙だった。背表紙と睨めっこして、惹かれた1冊を手に取り、見ては、戻す。その繰り返し。特に古書店の、それぞれの店ごとの棚作りを見比べることでなんとなく見えてくる文脈や歴史観が自分のベースになっていった気がする。そのころ足繁く通った本屋はなくなってしまったところも多いのだが、新たに誰かが始めてくれた場所もたくさんあるようで、本がぐるぐる循環するのを考えるとほんの少し希望を持てるような心持ちになる。
今回挙げた5店は、たまにしか行けないけれど心理的にはずっと気になっていて、ここに行けば何かに出会えるのではないかなあと思っている、というような場所です」(米山)
2016年にオープンしたブックショップ兼オープン・スペースの「コ本や honkbooks」は、青柳菜摘/だつお(アーティスト)、清水玄(ブックディレクター)、和田信太郎(メディアディレクター)からなるプラクティショナーコレクティヴ(実践者のコレクティヴ)の活動拠点。2022年7月より移転のため休業中ですが、同年内には新住所にてオープン予定です。
「アーティストが書籍制作に取り組みながらコレクティヴ的に運営する書店、という前書きがなくても、古書と新刊アートブック・ZINEが長い廊下にならぶ佇まいだけですでに良い店。受け手側としてというよりも、作り手側として読みたい本を自然とセレクトしている様子に励まされる。池袋にあったが、現在は神楽坂に移転準備中とのこと」(米山)
コ本や
住所:2022年内、東京都新宿区山吹町294 小久保ビル2階にてグランドオープン予定。詳細はウェブにて告知
https://honkbooks.com/
高円寺の路地にある小さな本屋「タタ」では、店主が独自の視点で選んだ国内外のデザイン、アートの本を中心に、新刊、古本問わず様々なジャンルの本を紹介しています。店内の一角にはバーカウンターがあり、2階には作品展示を行うギャラリーも。タタの名前は、店主の名前にある「多」に由来します。
「路地裏にありとてもわかりにくい間口だし、厳選された本が整えられて並ぶ様子は入るのに少しの勇気が必要だが、そういう店は世の中に必要だと思う。扱うジャンルは説明しにくいが、いま掘り返すべきものがここにある、そしてここにしかない本というのが絶対にある、というタイプの店。1年前くらいからSNSで気になっており、初めて行ったときは展示スペースが盛況すぎて入れず、先日やっと入店できた」(米山)
タタ bookshop / gallery
住所:東京都杉並区高円寺北2-38-15
https://tata-books.com/
金沢市にあるIACK(Institute of the Arts and Communication)は2017年に、写真家の河野幸人のアトリエとして設立。週末に一般開放され、企画展を行うギャラリー、現代写真を中心とした国内外の作品集の展示、販売、流通を行っています。金沢21世紀美術館からは徒歩15分ほどの場所にあります。
「写真家の河野幸人さんが運営するアトリエ。『開かれた書斎」とのコンセプト通り、河野さんご本人のそのときの興味や研究対象にしたがって生き物のように棚が変わるアートブックセンター。自由さと頑固さとしなやかさが同居していて、時々ここの空気を吸いたくなる。彼の緻密なリサーチに基づいた文書がいつくかウェブサイトで読めるのでぜひ」(米山)
IACK
住所:石川県金沢市高岡町18-3
https://www.iack.online
2012年5月にオープンした富山市の古本屋ブックエンドは、文字通り古本を専門とするブックストア。上関文庫(富山県高岡市)とオヨヨ書林(石川県金沢市)が共同で経営し、14年には富山市内に2号店もオープンしました。
「初めて行ったとき、自分が過去に装丁を担当した本が何冊かあったという現金な理由で親しみを感じている古書店。ごっちゃりと幅広く、生活的なものとアート的なものが隣り合う、人懐こく趣味性の高い品揃え。入口、きっかけとしての古本屋。こういう店が近所にある10代は幸せだと思う。お店のしおりの書体が『はっぴいえんど』由来なところもいい」(米山)
古本ブックエンド
住所:富山県富山市総曲輪2-7-12(1号店)、富山県富山市総曲輪4-5-15(2号店)
https://bookends.jp/
パリにあるlibrairie Yvon Lambert(リブレリー・イヴォン・ランベール)は、アートブック、展覧会カタログ、絶版の希少本、ポスターなどを扱う店舗。2017 年には、建築家のドミニク・ペローが設計した200㎡のスペースもオープンしました。
「広々と居住まい正しいギャラリー兼ブックショップ。きちんと作られた静かな佇まいのアートブックやアートピースを扱うが、威圧感がなくフレンドリーで、初めて行ったとき、パリなのに高田渡の音楽がかかっていたせいで一瞬で好きになった。ここのオリジナルバッグ(たくさん本を買う日にぴったりの大容量)を愛用しているため、まだ一回しか行っていないのに気持ちはバディな店」(米山)
librairie Yvon Lambert
住所:14 rue des Filles du Calvaire 75003 Paris
https://www.yvon-lambert.com/