公開日:2024年11月23日

いま、最先端の映像を体験するなら「ETERNAL Art Space Exhibition」(渋谷ヒカリエ)へ。「MUTEK.JP 2024」と同時開催、3日間限定のインスタレーション展示に注目

MUTEK.JPが主催するアートイベント「ETERNAL Art Space」が渋谷ヒカリエホールBにて11月22日〜24日の3日間限定で開催中

会場風景より、黒川良一《re-assembli》 撮影:井上嘉和

35分間の最先端トランスフォーマティブ体験

いま、最先端の映像表現を体験するなら見ておきたいのは、11月22日から24日まで開催中のオーディオヴィジュアルインスタレーション展示「ETERNAL Art Space Exhibition」だ。会場は渋谷ヒカリエホールB。

MUTEK.JPが主催する「ETERNAL Art Space」は、最先端のオーディオヴィジュアルインスタレーションやショーケースを国内外で展開するアーティストコレクティヴ。北米と東京に拠点を置き、2022年には東京・お台場のパナソニックセンター東京で没入体験型のイベントを開催。2025年に実施される日本国際博覧会(大阪・関西万博)では、ショーケースを披露する。

「ETERNAL Art Space Exhibition」キーヴィジュアル

今回、「MUTEK.JP 2024」と同時開催中の「ETERNAL Art Space Exhibition」は「“人間”と“現代的な構造” -現実を芸術として見せることで、観る者にトランスフォーマティブな体験をもたらす-」がコンセプト。日常の出来事や戦争、そして戦争によって引き起こされる状況をアートに変換し、鑑賞者に新しい視点や感覚を与え、意識や視野に変化を起こす。

参加アーティストは、世界的な活動を行う2組。まずは日本の映像・サウンドシーンを牽引し、世界的なメディア・アートの祭典・アルス・エレクトロニカのデジタル・ミュージック&サウンド・アート部門で最優秀賞のゴールデン・ニカ賞を受賞した芸術作家、黒川良一と、トランスメディアプロジェクトを通して、デジタルリアリティの肯定から生まれる美学と言語を探求する、イタリアを代表するアートコレクティヴ、SPIME.IM + AKASHA

2組による計35分間のトランスフォーマティブ体験。早速作品を見ていこう。

会場風景 撮影:井上嘉和

SPIME.IM + AKASHA《HINT(ETERNAL Art Space Extended Edit)》

3面スクリーンに囲まれた空間に足を踏み入れると、すぐさま、目まぐるしく切り替わる映像の洪水とサウンドの迫力に圧倒される。

会場風景より、SPIME.IM + AKASHA《HINT(ETERNAL Art Space Extended Edit)》 撮影:井上嘉和
SPIME.IM + AKASHA HINT(ETERNAL Art Space Extended Edit)

まず上映されるのは、トリノを拠点とするメディアアート集団のSPIME.IM、若手ヴィジュアル・アーティスト/モーション・デザイナーのAKASHAによる《HINT(ETERNAL Art Space Extended Edit)》。本作はAIアートの実験と、情報過多、資本主義的黙示録の美学を融合した作品だ。原爆の爆発音、そして戦争映画や昨今の戦地のニュースで目にする荒廃したビルの抽象的なヴィジュアルの連続にたじろんでいると一転、後半は資本主義的な煌びやかな映像へと切り替わる。その落差に驚きながらも、どちらも限りなく現実世界を反映したものだと直感的に痛感する。

会場風景より、SPIME.IM + AKASHA《HINT(ETERNAL Art Space Extended Edit)》 撮影:井上嘉和

退廃した都市と戦争、そして豪邸、プール、セレブリティ、富裕層といったキーワードが連想される映像から立ち上がる、グロテスクで残酷なイメージ。それが架空の映像だとわかっていながらも、見終わった後には映画1本を見終わった後のようなハイパーリアルな質感が残る作品だ。

黒川良一《re-assembli

間髪を入れず、次の作品へ。自然のなかで知覚されたアナログ表現や、詩的なイメージと感情をデジタルデータへと軽やかに変化させるアーティストの黒川良一。黒川はこれまでコンサート作品、マルチスクリーンのインスタレーション、VR、印刷物、スクリーン版など、多様な形式で発表してきた「re-assembli」から最新作を出品している。

会場風景より、黒川良一《re-assembli》 撮影:井上嘉和

本作では人間によって作り出された建築物、遺跡、自然をレーザースキャンで3Dデータ化したものを主な素材とし、それらを変形させ、モジュールごとに再構築。自然とアートの力をあらわにする。二連画(ディプティック)と4.1chサウンド、16chサラウンドライトを用いて精緻に空間に組み込んでおり、迫力ある体験がもたらされる。まるで映像内の空間を行き来するような没入感が魅力だ。

会場風景より、黒川良一《re-assembli》 撮影:井上嘉和

黒川良一《ground

最後に、「戦争」が前景化するオーディオビジュアル・インスタレーション作品は《ground》。ベルギーの映画製作、プロデューサーのダニエル・ドゥムスティエ(Daniel Demoustier)が過去10数年間に中東で私的に収集した映像と音を、黒川良一が再構成したものだ。

会場風景より、黒川良一《ground》 撮影:井上嘉和

3つのディスプレイと3.1chサウンドで構成された3つの映像は、紛争や戦争に巻き込まれた様々な状況の異なる視点を描く。人の死などの直接的な悲劇は映らないが、破壊された生活、兵士たち、人々の悲痛な表情が状況を表している。そこに物語性はなく、ただただ「戦争」があるだけで、私たちが映像を作品を見ているその瞬間もどこかで同様の悲劇が繰り返されていることを突きつけてくる。

会場風景より、黒川良一《ground》 撮影:井上嘉和

なお今回の展示に際して、戦争中の子供たちが健やかに成長し希望ある未来を過ごせるようにという願いのもと「Save Children Under War」プロジェクトが発足。このプロジェクトを通じて寄せられた募金は、ユニセフを通じて戦争に巻き込まれた子どもたちを支える活動に役立てられるという。

会場風景より、黒川良一《ground》 撮影:井上 嘉和

「最先端」「テクノロジー」「体験型」といった言葉が並ぶ表現は、ともすると浮世離れした技術のショーケースに見えることも少なくない。しかしこれらの作品は、いまの世界の状況を克明に映し出す。まさに「現実を芸術として見せることで、観る者にトランスフォーマティブな体験をもたらす」ことが実現されていた。

会場では上記の作品に加え、ユニークなインスタレーション展示も行われている。デジタルアート集団・Moment Factoryによるフォトブースを模した体験型インスタレーション《Photomaton 2049》は、日本の永続的で奥深い美にインスピレーションを受けて制作されたという作品。フォトブースに入り自分の姿を撮影すると、まるで未来に時間旅行したかのようないつもと違う姿を見ることができる。

会場風景より、Moment Factory《Photomaton 2049》 Photo by Shigeo Gomi

そのほかにもいくつかの映像作品が展示されており、同会場ではWEB3、XR、AIなどの最新技術をテーマとしたカンファレンスイベント「MUTEK.JP Pro Conference in collaboration with MAWARI 2024」も開催される。イベントのスケジュールは公式サイトを確認してほしい。

チケットは現在販売中。「MUTEK.JP」パスポート購入者は無料で入場することができる。

「MUTEK.JP 2024」はSpotify O-EAST、WOMBで開催

展示を見た後は、電子音楽とデジタルアートの祭典「MUTEK.JP 2024」にも訪れたい。

今回の「MUTEK.JP 2024」は、11月22日〜24日に渋谷のSpotify O-EASTWOMBで開催。オーディオヴィジュアルショー『Rhizomes』を披露するAho Ssan & Sevi Iko Dømochevsky、『DEATH RAVE V3』を世界初披露するVMO a.k.a Violent Magic Orchestra、カナダのKara-Lis Coverdale、ベルリンを拠点に活動するイタリア人アーティストCaterina Barbieriをはじめ、Grand River、Tasha、Maher Daniel、Yuko Araki & JACKSON kakiら国内外のアーティストが顔を揃える。出演アーティストと各プログラムの詳細は公式サイトをチェック。

野路千晶(編集部)

野路千晶(編集部)

のじ・ちあき Tokyo Art Beatエグゼクティブ・エディター。広島県生まれ。NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]、ウェブ版「美術手帖」編集部を経て、2019年末より現職。編集、執筆、アートコーディネーターなど。