上野公園にある東京文化会館は、モダニズム建築家・前川國男氏が設計し、1961年に開館。まだ数少なかった本格的なクラシック音楽ホールとして東京都交響楽団の他、当時から海外の著名音楽家の演奏会が行われてきました。来月3月16日、「音楽の殿堂」と呼ばれるこの場所で、Music Weeks in TOKYO 2012『東京音楽アカデミー』の優秀受講者が共演するファイナル・コンサートが開かれ、世界の舞台で活躍する著名講師のレッスンを受けた若い音楽家たちが、その成果を披露します。
東京音楽アカデミーは、次世代を担う音楽人材を育成することを目的に、海外から招いた著名な音楽家たちから直接レッスンを受けられるというプログラム。今年度は、クラリネット、ヴァイオリン、チェロのコースが設けられ、2012年12月には、ヴァイオリン指導者のザハール・ブロン氏のクラスがパルテノン多摩とめぐろパーシモンホールにて開催されました。
筆者が今回の取材ではじめて知ったのが「公開レッスン」という仕組みです。音楽の分野では広く知られていて、東京音楽アカデミーでは、この形をとって海外で活躍する音楽家たちによる指導を受講生だけではなく、一般の方でも聴講できるよう公開しています。集まってくるのは、若い音楽学生や音楽教師たち。会場には受講生がそれぞれ選んだ課題曲の楽譜を用意し、熱心にメモを取る姿がみられました。
ロシア出身で、現在はドイツ・ケルンを拠点に活動するザハール・ブロン氏は、日本国内でも数々の公開レッスンを行っており、彼のもとからプロデビューした日本人門下生が多数います。そんな先輩たちに続いて、世界を舞台に活躍する音楽家を目指しオーディションを通過した12名が参加、年齢は10歳から22歳までとさまざまでした。6日間にわたるレッスンを終えたあと、ブロン氏にお話を伺いました。
——これまで多数の有名ヴァイオリン奏者を育て上げてきていますが、指導で大切にしていることを教えてください。
私にとって教えるということは、個性を開花させるということです。才能とは神様からもらったものですから、あとはそれをいかに自分の演奏で聞き手に伝えることができるかが重要だと考えています。私はレッスン中に日本語で「やればできる」と声をかけ、自信をつけさせていますが、それは妥協のないプロフェッショナリズムにも似ていますね。若い音楽家たちがレッスンを通じて、さまざまな情報を得るだけではなく、「自分がそれをできる」という自信を植え付けることが大切だと考えています。
——今回優秀賞を1名選出するところ、3名選ばれましたね。
今回の公開レッスンの一番大きな印象は、昨年と比べて、さらにレベルの高い子が集まっていたことです。だから優秀賞を3名選びましたが、賞をもらえなかった受講生が悪かったわけではなく、僅差のものでした。
優秀賞の3名は、自分たちの個性をもった演奏をしてくれる音楽家たちですね。(楽譜から)受け取る情報の中からそれらを応用して、さまざまな状況下で音の出し方、技術を活用できることが重要です。それからもちろん演奏する音楽形式を理解すること。できるだけ楽器のもつ可能性を引き出して演奏をすることです。絶対に誰かのコピーであってはだめで、個性のある演奏家にならないといけない。
まず服部
この他、「Music Weeks in TOKYO 2012」では、昨年秋を中心に、東京都美術館、江戸東京たてもの園など都内各所で行われた「まちなかコンサート」を開催しました。音楽と空間は切り離せないものです。街のにぎわいの中で楽しむ音楽もまたさまざまな風景を描き出します。その他、東京文化会館では200名以上の出演者による「スーパー・コーラス・トーキョー特別公演」が開かれました。
「クラシック音楽とは、この世に存在するさまざまな感情の集大成。何かをみて、とても感動したときにどうしてそのような気持ちにとらわれるか、言葉で伝えることは難しいけれど、なぜかわからないけれど感動が心に届く世界がクラシック音楽」と語るブロン氏。3月16日のファイナル・コンサートでは、若き音楽家たちはどのような感動を客席に届けてくれるのでしょうか。
Music Weeks in TOKYO 2012 東京音楽アカデミー
ファイナル・コンサート
日程: 3月16日(土)14:00開演
会場: 東京文化会館 小ホール
入場料: 全席自由 500円(発売中)
※服部百音さんは都合により当日は出演しません
http://www.t-bunka.jp/mwit2012/final.html